100・守りに向かないオレンティナさん
ついに話数が三桁いきました。
・前回のあらすじ
南方の国ウィルパトからやって来た二名の聖女候補、オレンティナ、ルミティス。
安価な労働力として使い潰される危険性を全く感知しておらず、少女達の瞳が夢見ているのは、ただただ未来の栄光のみ。
名ばかりの暗黒騎士と化した元聖女クリスティラによる、ド素人に等しい指導は果たして実を結ぶのであろうか……。
「まずは、二人の実力でも見させてもらいましょうか」
自宅から離れたところにある、森のそばの小高い丘。
そこに我々は移動しました。
ここなら村人に注目されることもなければ巻き込むこともありません。
二人を弟子にすることに決めて早々ですが、さっさと実力を知っておこうと思い、ここに来ました。
実際にどのくらいの使い手なのかわからないと、教えようもないですから。
剣術で例えるなら、木剣すら握ったこともない人に間合いの取り方とか教えても早すぎますし、真剣片手に実戦をこなしてきた人に「まずは素振りから」というのも今更です。
その人の現状に合わせた適切な助言をしないといけません。それが師というものです。たぶん。
まあ一人旅できるんだし、どちらも二流三流の実力じゃないのは承知の上ですけどね。
ひょっとしたら……私が思ってるより、やるかも。
「じゃ、オレンティナさんからどうぞ」
「はい」
静かに、数歩前にオレンティナさんが出ました。
目の前にあるのは、サロメが作り出した三メートルほどの土製ゴーレム。
これをどう捌くのか。
お手並み拝見といきましょう。
そうそう、サロメについてですが、お弟子さん達には『獣人族の魔術師』という大嘘の説明をしてあります。
いくらなんでも詳細一切不明の魔神ですとは言えませんからね。
隠しきれない立派な角がニョキっと二本もありますから、そう誤魔化すしかなかったのです。
「では……拙い魔法ですが、披露させていただきます」
控え目な言い方のわりには、なにやら自信満々ですね。
『ガガガガ……』
ゴーレムは顔部分から呻き声のような軋んだ音を発し、ドスドスと足音響かせてオレンティナさんへと近づきます。
そのまま止まることなく石混じりの拳をぶつけてきました。
オレンティナさんは、微動だにしません。
「『防壁』」
魔法の障壁が彼女の前に現れ、ゴーレムの大きな拳がそこに衝突します。
どちゃっ、という鈍い音。
地面に思いっきり重いものを叩きつけ、それが潰れたような音。
ゴーレムの拳が、砕けた音でした。
「あら。拳の部分は石を多めにしたから、やわな作りじゃないのにね。なかなかやるじゃないの」
サロメが楽しげに数度頷きました。
「優秀ですね。堅牢さは申し分なし。発動も早い。修練のたまものでしょうか」
これで私の師事とかいるの?
「……努力だけは人一倍なんですよ、彼女」
遠回しに褒めているような、ルミティスさんの言葉。
彼女の、その不服そうな言い方には、複雑なものがあるように感じました。
気に入らないけど努力の結果は認めざるを得ない……そんなとこですかね。
「いくら防げる自信があったとはいえ、ビビる様子が全くないのは驚きだな。肝が座ってる」
オレンティナさんの平静ぶりに、リューヤが感心していました。
「私もそうですが、彼女も魔物討伐に何度も同行して、結果を残してますから。あれくらいでは動じません」
「へぇ」
今十四歳ですから、そうなると十二歳くらいから魔物相手に活躍したことになりますね。
きっと、この子もそうなのでしょう。
リューヤ並に早熟ですね。平気で一人旅するはずです。
「ウィルパトの人間は、若い頃から荒事に慣れてるんだな」
「皆がそういうわけではありませんが……好戦的な者は少なくないですね。守りとか気にしない気風があります」
「温暖な国ってだいたいそうなるんだよな。先に殴ればいいって思考で、備えを軽視するっつーか…………まあいいや。それより、あの僕娘ちゃん、次はどうすんだ? 逃げか撃退か、どう捌く?」
リューヤの言うように、そこは気になります。
私としては、守護魔法の技量がわかったから、もう満足ではありますけど……一応どう凌ぐのか見ておきますか。
「──『聖弾』」
杖を地面の柔らかそうなところに刺し、フリーになった両手を軽く前に出して、大きなものを抱えるように広げました。
その広げた手と手の間に、いくつもの光の玉が出現すると──
「かかれ」
まるでその号令に応じたかのように、全ての光球が、我先にとゴーレムへ飛来していきました。
バババババァン!!
小高い丘に、複数の爆発音がほぼ同時に響きました。
土でできているためそこまで丈夫ではないにしても、あまりに容易く、ゴーレムの巨体が破壊されていきます。一発一発の威力がかなり強いのでしょう。
この威力の聖弾をこんなに一度に出せるとは……さっきの防壁もそうですが、十四歳のやれることじゃないですよ。
「……相変わらず、破壊力だけは大したものね」
誰に言うでもない、ルミティスさんの呟き。
どうやら、神殿にいた頃から破壊力には定評があったみたいですね、オレンティナさんは。
──それと。
なんとなくですが、わかってきました。
なぜオレンティナさんが私に弟子入りしたかったのか。
国を守護する力を司る聖女を目指しているのに、攻めに特化してしまった己自身に困り果てていたのでしょう。皮肉なことに、幼い頃から実戦経験を積んだことが、かえって弊害になるとは。
ですが、最初のあの防壁は見事なものでした。
筋は悪くない──いや、むしろいいほうだと思いますので、鍛えればものになりそうです。
「──こんなもので、いいですか?」
あれからさらに数発の聖弾を食らい、ほとんど崩壊して、もはやただの土塊と大差なくなったゴーレム。
それを片手で指し示し、オレンティナさんが続行か終了かを私に尋ねてきました。
……これ以上は無意味ですね。
続けたところでただの土いじりにしかなりません。やるだけ神聖魔法の無駄使いです。
「見事です。予想以上でした」
「むふん。そうでしょう」
落ち着いて一礼でもするかと思ったら、返ってきたのは、やってやりましたと言わんばかりのドヤ顔でした。
「……あ、失礼しました。つい調子に……」
「いいですよ。そのくらいのやる気や意気がなければ、弟子にした甲斐がありませんからね」
「は、はい。そう言ってもらえたら、幸いです……」
失態に赤面して大人しくなる、オレンティナさんでした。
さて、次はルミティスさんの番です。
彼女はどんな立ち回りを見せてくれるのでしょうか。楽しみ楽しみ。
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