14-8 《6》の研究所
半機械天使達に案内されながら、研究所の中を進む。ファリダは、大きい方の金髪に抱えられながら歩いている。
久吾は彼女達への威嚇を止めることなく、警戒している。それが伝わっているのか、天使達もひどく緊張していた。
―――到着した部屋は明るいが無機質で、広くすっきりとしていた。
「…やあ、《最後の番号》。よく来たね」
自分達と同じ顔をした男が出迎えた。《6》だ。ハチは《6》の顔を見た途端、嫌な顔をした。
「…《6》、お前、ふざけたこと言いやがって…」
そうハチが文句を言うと、《6》は、
「《8》、前々から思っていたんだ。我々《一桁》に錬金術師は三人も要らないだろう」
「………」
ハチが睨んでいるが、《6》は気にもせず、
「《3》が消滅し、《一桁》が欠けたというのに、《0》は目覚めない。我々錬金術師が一つにまとまるなら、今が好機だ。君と《9》は、錬金術師の長兄…、つまり私にその能力を預けるべきなのだよ」
ハチは聞きながら、苦々しく、
「…嫌だね」
そう言われて、《6》も顔をしかめる。二人は睨み合い、一触即発のところに久吾が割って入った。
「《6》さん、ここは研究室ではないんですか?」
思わず《6》は久吾を見る。
「おや、興味があるのかね?」
久吾は部屋を見ながら、
「ええまあ…。ハチさんのところは、そりゃあもう、…素人目でも分かるような、それはそれは素晴らしい機械類がひしめいてますからねぇ」
それを聞いて、《6》が顔をしかめる。少しムッとしたようで、
「…私の研究室は隣にある。恐らく《8》以上に充実していると思うよ。興味があるなら案内しよう」
そう言って久吾を隣の部屋に促す。ハチはニヤリと笑い、
「…へぇ、お前が俺以上の設備を整えてるってんなら、負けを認めて更新に使われてやってもいいぞ」
すると《6》は驚いて、
「………君がそんなことを言うとはね。良かろう。《8》、君も来るといい」
◇ ◇ ◇
その研究室は、ハチのところよりずっと広い。久吾には良く分からない機械類がひしめいている。
「どうだい? 《8》にも引けを取らないと思うが…」
久吾は、ほほう、と言いながら、さも感心したように、
「そうですねぇ、ハチさんのところもすごいですが、ここもなかなか…」
久吾は機械を見て回る。ハチは、ほくそ笑む《6》を忌々しげに見ている。
それに気付いたのか、《6》は、
「…さあ、《8》。素直に負けを認めて、チップを渡したまえ。私は別に君を殺そうとは思っていないんだ。チップさえ渡してくれれば、後は《三桁》共のように野に放って…」
そう話している横で、久吾は、
「ほほう、このスイッチは何でしょう?」
おもむろにスイッチを操作する。
ブゥン…、と鈍い音がして、何かが切れた気配がした。
「!?」
《6》は驚き、慌てて機械の操作をする。それを見ながらハチはニヤリと笑う。
久吾はさらに別の機械に近寄って、
「ほうほう、これなんかは触ると何がおきますかねぇ…」
カチッと音がした。どこかで、ズウゥゥン…、と何かが沈む音が聞こえた。
「ま、待て! 《最後の番号》! それ以上触れては…!」
ハチがたまらず笑い出した。
「…ハ! ハーッハッハ! よくやった、久吾! 見たか《6》! 久吾の機械オンチは伊達じゃねぇんだよ!」
《6》が驚いて久吾を見る。久吾は不機嫌な顔をしながら、
「褒められた気がしませんねぇ」
その反応を見て、《6》がワナワナと震えだした。
「………き、貴様ら! 何ということを!」
四体の天使が久吾に向かっていく。しかし、
「…無駄だと言ったはずです」
久吾はまず小さい方の金髪を透明の球体に閉じ込め、そのまま一瞬で燃やし尽くした。
その躊躇ない攻撃に、残りの三体が驚き、ばらけて逃げ去ろうとしたが、久吾は容赦せず、先程の天使と同じように三体とも処分した。
「…っ、《最後の番号》、よくも………」
《6》はそう言うと、ファリダに向かって、
「ファリダさん、爆破されたくなければ、あなたが行きなさい」
言われて、力なくへたり込んでいたファリダは、無気力な声で、
「………私、が? ハチを?」
「ええ。あなたの心臓に細工をさせて頂きましたからね。早く《8》を捕らえなさい」
「「!?」」
久吾とハチが驚く。
「《6》! てめぇ、何てことしやがる! よりによってファリダに爆弾を…!」
「《8》! この人形の命が惜しければ、こちらの言う事を…」
―――そう言い争っていた時。
久吾がファリダの首と胴を、念を込めた手刀で切り離した。
「!? ラ、《最後の番号》!?」
するとハチが、
「上出来だ、久吾! 脳さえ生きてりゃ、後は俺が修復する! 急ぐぞ!」
久吾はファリダの頭部を透明の球体に閉じ込めて抱え、ハチの手を取った。
自分達を透明の球体に包むと、印を結ぶ。
《6》が何か言っているのを無視して、久吾は巨大な光を出現させた。
《6》の研究所が膨らむ光に飲み込まれていくのを見届け、久吾達は瞬間移動でハチの研究所に戻っていった。