14-7 半機械天使
「ヴァヴ様は、私達がお守りします」
四人の天使の内、長い黒髪の天使がそう言う。四人の中では、一番年長のようだ。
「あなた達は甘ちゃんだって、ヴァヴ様言ってましたからね」
最初に話しかけてきた、赤毛の天使が言った。
「………お願い。ヴァヴ様いじめないで」
黒髪の天使の陰から、小柄で金髪の天使が言う。先程ファリダを立たせた、こちらも金髪で気の強そうな天使が、
「アタシ達と戦り合うなんて、そんなヒドイことしないわよね?」
そう言い揃った四人の天使を見ながら、ハチは、ぷくくく、と必死に笑いを堪えていた。久吾は、
「………ハチさん?」
声をかけると、ハチは堪らず笑い出し、
「ハハハ! アーッハハハ! マジか、アイツ! 人のこと散々言っといて、自分が変態趣味丸出しじゃねぇか! ハハハ!」
笑い転げている。そんなハチを見ながら久吾は、
「ハチさん、あれは…」
ヒー、ヒー、と笑っていたが、ハチは落ち着きを取り戻し、
「…人造天使だ。半機械人間だよ。アイツが造ったんだろ」
そう言うと、先程の年長の天使が、
「…私達は元々、ギメル様に所有されておりました。処分されるところをヴァヴ様が引き取って下さったんです」
「ヴァヴ様は、アタシ達を戦えるように改造して下さったの。ここでお役に立たないとね」
赤毛の天使もそう言う。続いて金髪二人が、
「………うん、がんばる」
「ヴァヴ様は、ヤバイのは黒い方って言ってたね。ラストナンバー、だっけ?」
「…ええ、ヘット様は戦えないはずだから、と。…でも、傷つけずに捕らえないと」
黒髪が最後にそう言った。気の強そうな金髪が、ファリダに向かって、
「…あんた、一緒に戦える?」
ファリダはすっかり戦意を失くしたようで、首を横に振る。
…そんな彼女達のやり取りを見ながら、久吾は、
「…戦うって、そもそもあなた達が天使の姿をしている事自体、由々しき問題ですね。《6》さんがそのようにしたんですか?」
顔をしかめながら言う。黒髪がにっこりと笑いながら、
「そういえば、ラストナンバーの元には《一桁》の方々が造られた天使達がいらっしゃるとか…。私達もぜひお仲間に加えて頂きたいですわ。出来ればあなたも、ヴァヴ様のもとへいらして下さいな」
そう言うと、久吾は厳しい顔で、
「………お断りします」
半機械天使達は驚いた。
「…何故!? アタシらだって、天使の姿してるじゃん!」
赤毛の天使が言うが、久吾は嫌悪の表情を浮かべている。
「ミカエル達とあなた達を、一緒にしないで下さい。………私には、あなた達の魂の色が視えるんですよ。…一体、何人殺してるんですか?」
そう言うと、天使達は互いの顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
久吾には、彼女達の周りにまとわりつく、淀んだ黒いヘドロのようなもやと、浮かばれない霊が視えていた。大きい方の金髪が、
「…へぇ、スゴイね。やっぱり油断出来ないわ」
「仕方ないじゃありませんか。襲ってくるものを薙ぎ払うのが、私達に与えられた仕事なんですから」
黒髪が言うと、小柄の金髪が、
「………そう、仕方なかったの。普通の人間、ヨワヨワだから、アリさん踏み潰すみたいで面白かったの」
「ハハ、ホントね。この身体になったお陰で、今まで知らなかった殺戮の味をしめたっていうか…。人間を超えた存在になったんだから、別に良いでしょ?」
赤毛もそう言って笑う。
《ヲスナズ》に怪しげな動きがあったという情報を掴んだ本国は、《ヲスナズ》に調査部隊を派遣していた。
四人の天使達は、それらを楽しげに殲滅させていたのだ。
―――過去にファリダが行った蹂躙は、復讐だった。
だが、彼女達四人の蹂躙は娯楽だ。
それ以降、本国は《ヲスナズ》に余計な手出し無用としたのだが、彼女達は時々軍隊を見つけては、敵味方・軍人・一般市民問わず、暇つぶしで殲滅させていたのだ。
久吾は言った。
「…《6》さんには申し訳ないですが、あなた達は生かしておく訳にいきませんよ」
雰囲気が変わった。
天使の姿の少女達が、一斉に空に飛び上がった。…が、
「無駄です」
久吾は四体をまとめて透明の球体に包む。少女達は慌てて、
「あ、あれ!? マズくない!?」
「ヤバイよ! やっぱアイツ、ハンパない!」
…すると、やっと《6》が重い腰を上げたらしく、
『…待って下さい、《最後の番号》』
姿は見えない。スピーカーを通した《6》の声が辺りに響いた。
「「ヴァヴ様!」」
少女達が安堵の声をあげる。声は続けて、
『その四体には、ここの護衛を任せているので、手出ししないで頂けませんか。…それから、私は一度、あなたとお話したいと思っていたんです。どうです? 《8》も一緒に、どうぞ中にお入り下さい』
…思わぬ誘いに、しばらくの間の後、久吾はハチの方を見る。
「………ハチさん、どうします?」
するとハチは、いたずらっぽく笑い、
「…そうだな。面白ぇコト思いついた。あのな…」
ハチは精神感応で久吾に指示を出す。久吾は、ちょっと不本意だと思い、顔をしかめたが、
「…まぁ良いでしょう。《6》さん、とりあえずそのご招待、お受けしますよ」
二人は《6》の研究所の中に入る事にした。
《6》は名前いちいち覚えてないのですが、一応、
黒髪 → 雨桐
赤毛 → マルティナ
金髪・大 → ブリジット
金髪・小 → ソフィア …こんな名前でした。