14-6 夫婦(?)喧嘩
「ファリダ! 良かった、無事だったか!」
隠密符を剥ぎ取り、ハチがファリダに駆け寄ろうとする。だが、ファリダは指先をこちらに向け、攻撃態勢を取った。
「!? …え? お前…、何の真似だ?」
「ハチ。お前をヴァヴのところに連れて行く。そして、ヴァヴと融合しろ」
………今、何て言った?
ハチは一瞬、ファリダの言葉が理解出来なかった。
「………はぁ? 何言ってんだ、お前。」
ファリダは構えを崩さず、
「ヴァヴは私の言う事を聞いてくれたぞ。お前と融合した暁には、この世の全ての人間を私と同じ改造人間にしてくれると言った」
「「な…!」」
ハチも久吾も驚いた。ハチは、
「そんなこと、出来る訳無ぇだろが! ちょっと考えりゃ分かるだろ! …そもそも《6》の野郎、俺と融合するだと!? ふざけんな!!」
久吾は聞きながら、
「…《6》さん、もしかして…、ハチさんを使って更新するつもりでしょうか…」
そう聞いて、ハチが怒った。
「………あんの野郎、…おい、聞いてんだろ!? 《6》! 出て来やがれ!!」
…しかし《6》は出て来ない。ハチは、
「ファリダ! お前、《6》の口車に乗ってるだけだぞ! アイツがお前を大事にするとか、ありえねぇだろ! 人間は皆実験材料だと思ってる奴だぞ!」
だがファリダは構えたまま、
「だから、お前がヴァヴと融合すれば、私を大事にするだろう。人間は全て改造され、私も大事にされ、良い事しか無い。素晴らしい世界だ」
ハチは呆れて、
「お前…、それ、《6》の奴がそう言ったのか? メチャクチャだな! 俺はアイツと融合なんざ、死んでも嫌だぞ!」
すると、ファリダがレーザーを発砲してきた。
「!」
ハチが身構える。が、ハチは久吾によって、透明の球体に包まれていた。
「…助かったぜ、久吾」
久吾は、ずい、とファリダの前に進み出て、静かにファリダに向かい、
「…ファリダさん。ハチさんはあなたにとって、親御さんのような方じゃないんですか? それを攻撃するとは…」
「……………」
ファリダは様子を見ている。
桃源郷の際、久吾の得体の知れない能力は感じていた。普段は穏やかで、どこかとぼけた感じであるのに、ミャマを倒し、《一桁》の一人を恐れさせているのも見た。
…そうしていると、久吾が、
「帰りましょう、ファリダさん。帰って、ハチさんとよく話し合って下さい」
「嫌だ。ハチはヴァヴと融合してもらう」
ファリダは断った。久吾は困って、ハチを見る。
ハチは少し考えて、
「………そんなに人間が嫌なのか」
ファリダは、こくりと頷く。
―――しばらくの間があり、ハチは、
「…じゃあ、もういいよ。そのまま《6》んとこに居れば良い」
そう言うと、くるりと踵を返し、久吾に「帰るぞ」と言った。久吾は「え?」と言いながら、
「いいんですか? 《6》さんにお灸を据えるんじゃなかったんですか?」
「ファリダがああ言うんじゃ、しょうがねぇよ。これからは《6》に可愛がってもらえば良いさ」
…ハチが帰ってしまう。それを見てファリダが、
「…ハチ! 何で帰る!? お前は私を迎えに来たんじゃないのか!?」
ハチは足を止めたが、振り返らずに、
「俺はお前の意思は尊重するが、俺自身が譲れねぇ事だってあるんだ。《6》との融合は絶対に出来ねぇ。…《6》がお前を大事にしてくれるってんなら、それで良いだろ」
そう言って、帰ろうとする。ファリダは身を震わせ、
「嫌だ! 帰るんじゃない、ハチ! こっちに来てヴァヴと融合して、ずっと私と一緒に暮らせば良い!」
そう言って泣き出した。
「…っ、ハチ…! 何で、私の言う事を、聞いてくれない…」
ハチは面倒臭そうに振り向いて、
「………ホントに手のかかる奴だな。…おい、《6》! どうせ様子見てんだろ! お前が捕らえたんなら、そっちでコイツを何とかしろ!」
そう言って待ってみるが、《6》は出て来ない。ハチはしびれを切らし、
「…あんにゃろ、面白がって見てやがんな。…おい、久吾。もう面倒くせぇからココに一発、でっかいのお見舞いしてやれよ」
ええ…、と久吾が呻く。
「良いんですか?」
「良いんじゃねぇか? とりあえず結界張って、周りにバレねぇようにすりゃ大丈夫だろ」
久吾は仕方なく頷き、印を結ぶ。
すると、《6》の研究所から人影が四人、姿を現した。
「…物騒なコトするの、やめてもらえます?」
どうやら人影は、全て少女のようだ。一人がそう言うと、他の少女が泣いているファリダの側に寄って、
「…何よアンタ、役に立たないわね」
そう言って、その場にへたり込んだファリダを立たせた。
少女達は四人とも、その背に羽を生やしている。
「「!?」」
四人の姿を見た久吾とハチは驚いた。
「………天使、だと!?」