14-5 潜入
オリンピック終わっちゃった…。
久吾とハチは、とりあえず基地の中に入りながら、
「どうしましょう。認識阻害的な準備、必要ですかね?」
久吾が言うと、ハチが、
「今更じゃねぇか? だったら俺もステルス張っときゃ良かったかな…。てかよぉ、中で千里眼って効くのか?」
言われて久吾は、基地の中を見てみるが、
「…何というか、変な感じですね。建物内の構造や配置は何となく分かりますが、各部屋の中は視えないところばかりです」
聞いてハチは、ふむ、と考える。
「じゃあ一応ESPは使えんのかな…。前回ここに来た時は、お前、どうしたんだっけ?」
「…そうですねぇ、蒼人さんと二手に分かれて、とりあえず手当たり次第に爆破させましたけど…」
ええ…、とハチは顔をしかめる。
「…まぁ、仕方ねぇっちゃ仕方ねぇけど…。お前、ひでぇ奴だな」
言われて久吾は、
「え、だって、良く分からない機械は壊すに限りますよ」
ハチは聞いて顔をしかめるが、少し考えて、
「………とにかくだ。今回は、二度と俺らにちょっかい出させねぇように、しっかり黒幕を炙り出してお灸を据えてやらねぇとな」
ククク…、と悪い顔で笑っている。久吾は不思議に思い、
「…もしかして、黒幕に思い当たる節でもあるんですか?」
「この間も思ったが、恐らく《6》の野郎だ。アイツは俺よりよっぽど人体実験やってんだけど、思うような半機械人間造れなかったみたいでな。前に一度、スゲェ嫌味言われたんだよ」
へぇ、と久吾は驚く。ハチは嫌な顔をしながら、
「…あの野郎、俺がファリダ造った時、『そんな少女人形を造るとは、あなたも《3》と同じ変態趣味でもお持ちになったんですか?』って言いやがってよ。………思い出したら腹立ってきたな。アイツ、自分が上手く出来なかったからか知らねぇけど、しょっちゅうちょっかい出して来やがって…」
ブツブツ文句を言い出した。久吾はそれを聞き流しながら、
「じゃあ、その《6》さんがファリダさんを捕まえた、ってことですかね?」
「…どーだろな。たまたまって気もするけど…。ファリダも大人しく捕まるようなヤツじゃねぇしな」
呑気にそんな話をしていると、ハチと久吾の前に半機械兵士が数人現れた。
「「あ」」
二人が気付いたと同時に、兵士達が銃を構えた。
仕方なく久吾は懐紙を一枚、目の前に出して盾にする。すぐさま来た道を二人で走り出した。
「やっぱりステルス張っとくぜ!」
「私も!」
二人は走りながら対策をし、久吾は自分に隠密符を貼った。角を曲がって少し行ったところの扉を開けて転がり込む。
バタン、と扉を閉め、
「…どうします? 一旦引き返しますか?」
「いや、だってファリダが…」
そうハチが言いかけた時、扉の向こうから銃声がして、扉が破られた。
「!?」
懐紙の盾が間に合わない、と久吾が思った時、兵士達が突然、全員倒れた。
ふと見ると、ハチがニヤリと笑っている。
「…良かった、PKは使えるな」
久吾が驚いて、
「まさか…、殺したんですか?」
「仕方ねぇだろ。鬱陶しいもんよ」
兵士達の中枢神経は全て切断されていた。久吾にはこのような細かい芸当は出来ない。
久吾は少し顔を険しくし、
「…半機械人間でも、相手は一応人間ですよ?」
「そんな甘っちょろい事言ってると、こっちがやられちまうよ」
ハチが顔をしかめながらそう言う。仕方ない、と久吾は兵士達に手を合わせた。
とりあえず部屋を出て、上の階に向かってみる。すると、上から再び兵士達が現れ、攻撃してくる。
「あれぇ? ステルス効いてねぇのか?」
思わず踵を返し、久吾が懐紙の盾を張ってやり過ごす。逃げながら、
「おかしいですねぇ、ちょっと二手に分かれてみましょうか」
久吾はそう言うと、ハチとは逆方向に走り出した。
「え!? ちょ…、お前!」
ハチが慌てていると、兵士達は皆ハチに向かって来る。ハチは必死に逃げ、
「うわあぁぁ!」
叫びながら走っていると、ハチは透明の球体に包まれ、一瞬で兵士達の前から姿を消した。
ハチは球体ごと久吾の元に物質転送させられていた。
「………お前、俺を囮にしやがったな」
久吾はハチに怒られた。
「ちゃんと助けたじゃないですか」
そうボヤいて、ハチにも隠密符を貼り付ける。
「…ステルスの方が効いてねぇのか。《6》の野郎、腹立つなぁ…」
ハチが憮然としながらそう言い、とりあえず二人で反対側の階段に向かって歩き出す。
「やっぱり、機械部屋に入れたら全部壊しましょう」
今回は久吾の意見に、ハチも「おう」と頷いた。
階段を上って、久吾は思い出しながら機械部屋にたどり着く。
…しかしその機械部屋は、前回久吾が壊したままだった。
「おや?」
そう訝しんでいると、ハチが、
「多分、今統制を取ってんのは、《6》の研究所だろ。どっかに研究所に続く道があるはずだぜ」
久吾はなるほど、と思い、千里眼で視えない場所を探す。
「…最上階の先に、ほとんど視えない場所がありますね。行ってみますか?」
「当たり前だろ! 今度ばかりはアイツをお前にブッ飛ばさせなきゃ、俺の気が済まねぇよ!」
ハチはそう言うが、久吾は、えええ…、と呻く。
「嫌ですよ。何で私がブッ飛ばすんですか」
そう文句を言うが、ハチは知らん顔で「行くぞ!」と階段を上って行く。
久吾はため息をつきながら、仕方なくついて行く。
◇ ◇ ◇
―――その後は、兵士達とすれ違っても気付かれずに済み、最上階まで穏便にたどり着いた。
「…さぁて、《6》のヤツ、待ってろよ! すぐに久吾にやっつけてもらうからな! とりあえず地面に頭擦り付けて、泣いて詫びでも入れてもらおうか!」
「嫌だって言ってるじゃないですか」
ハチは久吾の意見をちっとも聞いてくれない。やれやれ、と思っていると、研究所の前に誰かがいる。
それは、ファリダの姿だった。
次はパラリンピック。