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14-3 ファリダの行方

オリンピックに便乗。

 「………やれやれ。四年に一度の楽しみなんですけどねぇ。今回は三年ぶりでしたけど…」


 そうボヤきながら、久吾はハチに呼びつけられ、研究所(ラボ)にやって来た。今はちょうど人間世界でオリンピックが開催されており、久吾は割と楽しみにしていたのだ。


 「…お前、所詮人間のやることだろ」


 ハチにそう言われると、久吾は、


 「何を仰います。人間達がルールに則って、肉体を限界まで鍛え上げ記録に挑む、素晴らしい催しですよ」


 ハチは、えええ…、と呻く。


 「何しろ、選手達や応援する人達の魂色が素晴らしいのですよ。…そりゃあ、たまに淀んだ色もチラホラありますけど…。あれ、録画で観ると、魂色薄れちゃいますからね。ライブ中継じゃないと…」


 「…分かった、悪かったよ」


 ハチは勘弁してくれ、と言わんばかりに遮った。


 「…でだ。さっきも話したが、ファリダがどこに行ったか、千里眼で分かるか?」


 ハチに言われ、久吾は顔をしかめる。


 「…すみません。美奈さんだったら分かったでしょうが、私には…。仲間の気配なら何となく分かるんですが…」


 「それは仕方ねぇな。そもそもお前の能力(ちから)と千里眼は、相性が良くねぇんだ」


 久吾は元々、精神感応(テレパシー)系の能力が不得手である。

 出来ない訳ではないが、いわゆる念動力(PK)特化型に近い久吾にとっては、感覚が掴みづらい能力なのだ。

 普段でも相手の考えている事は、触れていれば分かるが、そうでなければ何となくでしか分からない。


 千里眼も、相手の気配を感じ取るという点で精神感応(テレパシー)系に寄った能力のため、本来は《(ギメル)》のような思念伝達型(テレパス)が用いると有効な手段なのだが、それでもハチには考えがあった。


 「…だからな。逆に考えてみりゃいい」


 「? と言うと…」


 「今、お前の千里眼で視えづらい場所がいくつかあるだろ? そこに当たりを付けるんだ」


 そう言われ、なるほど、と思い、久吾は千里眼を発動する。現在地から少し領域を広げると、


 「………あの辺りはイギリス、ですかね。千里眼ではほとんど視えません」


 「ああ、多分ミスターの領域だな」


 ふむ、と久吾は頷き、さらに千里眼の領域を広げる。


 「………イギリスと同様に視えないのは、南極周辺、でしょうか」


 「《(エフェス)》と《一桁(ウーニウス)》達の領域だからな。お前じゃ視えないだろ」


 先程と同様に頷き、さらに視ていくと、


 「…処々(ところどころ)ですが、視えづらいところがあるんですよね。これは、龍脈…、ですか?」


 ハチは、ああ、と言いながら、


 「思念伝達者(テレパス)の連中でも、龍脈は繋がりづらくて嫌がるな。…ミスターの話だと、何でも『女神の血脈』…、この地球(ほし)の女神の血管みたいなもんらしいぞ」


 久吾は、へえ、と言いながら、


 「そういえばミカエル達は『女神の因子』を元に造られたんですよね。その『女神』というのは…」


 「まぁ、ミスターの話の通りなら、この地球は女神様の本体、ってことになるのかな」


 女神…。にわかには信じられなかったが、ミスターは紛れもなく『女神の因子』を手に入れている。

 話してくれるかは分からないが、機会があれば聞いてみようかな、と久吾は思った。


 「あ、そうだ。これ、お返しします」


 そう言って、久吾はハチに旧約聖書を渡した。ハチは受け取りながら、


 「おぉ、どーだった?」


 「正直に言えば、荒唐無稽、ですかねぇ。私、仏教で育ってますから…」


 ハチは笑いながら、


 「だから人間が編纂したもんだって言ったろう。ノアの記述も少ねぇしな」


 久吾も、そうですね、と頷く。

 確かに内容は、神が創りし人間達の系譜の羅列…、歴史のようなもので、特に自分達の祖である『ノア』について、事細かに書かれていた訳ではない。

 書いてあったのは、人間達は一度『神』によって滅亡させられている件に『ノア』が関わっているという事だ。


 ノアは世界で唯一の『善』であると神に選ばれ、『方舟』に自らの家族と選別された生物を乗せ、人類を滅亡させた洪水を生き延びたという。

 その後、950歳で死亡したらしいが、《(エフェス)》が『ノア』だとすれば、その後も生存していることになる。

 不明な点は多くあるが、それ以降ノアについての記載が無い以上、考えても仕方がない事だ。


 ふいに久吾は、千里眼でもう一箇所、龍脈とは別のイギリスや南極と同様、視えづらい箇所を発見した。範囲が小さく、見落としていたようだ。


 「………ここは…」


 久吾はハチの方を向き、


 「…先日行った基地、覚えてますか?」


 「あ? ああ、まさか…」


 「視えませんね。もしかすると…」


 久吾とハチは、顔を見合わせる。


 「…行ってみるか」


 ハチがそう言うと、久吾は驚いた。


 「え!? ハチさんも行くんですか!?」


 「おう。しっかり守ってくれよ」


 そう言って笑うハチに、久吾が呻く。


 「…仕方ありませんね。一旦戻って準備しますよ」


 久吾は転移門(ゲート)を通って、符と矢立を手に取り、再びハチの元へ戻った。


   ◇   ◇   ◇


 ハチと久吾は、瞬間移動で基地の入口に現れた。


 「…おや?」


 久吾は基地を見て驚いた。門はそのままだが、建物が増築されている。以前にいた見張りも見当たらない。


 「どういうこった? 人間が見当たらねぇな…」


 ハチの問いに、久吾も首をかしげながら、


 「そうですね…。…どうします? 行きますか?」


 「んー…、行きたくはねぇがなぁ…。たぶんファリダの奴、ここにいるんだろ?」


 「可能性は高そうですね」


 ハチと久吾は、諦めて入ってみる事にした。

聖書に関しては、あくまで久吾さん個人の見解です。

お気を悪くされた方ゴメンナサイm(__)m

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