14-1 人身売買組織〜南極宮殿へ
8月になったので。
豪華客船・白い貴婦人号は、南極宮殿の手前・ニュージーランド南、スチュアート島の最南端に停泊中だ。
そこで、とある一隻の船と落ち合っている。
その船の持主、彼らの組織は『カナロア』という。
昔から世界中の『人』を商品として売買している。
《5》は、彼らの手に戻すつもりだったキーラとオリヴィアをこのまま引き取ることと、『人』の取引を終了する旨を伝えに来ていた。
ただ、今は本来の取引相手の頭領がおらず、その息子・レオが《5》の前で対応している。
「…残念だなぁ。アンタともう、会えなくなっちまうのか」
見た目も頭の中も軽そうなレオは、二十代半ばだろうか。
《5》は静かにレオを見る。レオはテーブルを前に座る《5》の後ろに回り、その肩に手を伸ばす。
「………俺さぁ、前から思ってたんだよね。尼さんって、何つーか、妙に色っぽいよなぁ、って…」
肩に腕を回され、《5》は不思議そうにしている。レオは《5》が抵抗しないのを良いことに、少しずつ動きが大胆になっていき、ローブの上から《5》の胸へと触れていく。
「…あぁ、いい匂いだなぁ。…なぁ、最後に、いいだろ? 俺、巧いんだぜ。娼館の女達もみんな、俺が抱いてやるとスゲェ喜ぶんだよ…」
レオは《5》の身体を弄りながら、首筋からうなじへと唇を寄せていき、息を荒げて《5》が纏っているローブをたくし上げる。
(………気持ち悪い)
《5》はそう思いながら目を閉じる。
レオはそれをOKのサインと思い込み、ニヤリと笑いながら《5》の唇に自らの唇を寄せようとした瞬間、
「………!?」
突然、レオの全身は痺れ、悪寒と吐気を感じ、床にうずくまった。
ふと見上げると、《5》が静かに微笑みを浮かべながら、レオを見下ろしている。
「………な、…何、を…」
レオの身体が痙攣を起こし、ピクピクと震えながら白目をむいて、意識が遠のいた時、
「…レオ、そろそろダン・オドゥール達が…、…!?」
頭領が部屋に入ってきて、《5》が既にいる事に驚いた。が、床に転がる息子を見て、さらに驚き、
「!? レオ! 何やって…、…こりゃあ、一体…」
《5》とレオを交互に見て、うろたえている頭領に、《5》は、
「…教育がなってないわね。彼、私に手を出そうとしたわよ」
その一言で、頭領は全てを察してため息をついた。
「………ホントに女癖が悪ぃんだからよ、こいつは…。よりにもよって…。………すまなかったな」
《5》は静かに微笑んで、
「一応殺さなかったけど、この毒だと、ひと月は苦しむかもね」
「ああ、仕方ねぇよ。自業自得だ。命があっただけ有り難ぇ」
頭領の言葉に《5》は頷き、取引終了の説明をもう一度して、今までの謝礼にと、金のインゴットを10㎏ほど渡した。
「…また何かあれば、声かけてくれよ。お得意様がいなくなるのは寂しいぜ」
頭領の言葉に《5》は、
「そうね。次の頭領が彼じゃなければ、かしらね」
そう言われ、頭領は苦笑しながら再度謝罪し、《5》は『カナロア』の船を後にした。
◇ ◇ ◇
「…全く、貴様は私を何だと思っているんだ」
《7》がブツブツ文句を言っている。精神感応で《5》に頼まれ、客船ごと宮殿に瞬間移動させられたのだ。
《5》はキョトンとしながら、
「………便利な移動手段? かしら…」
そう言うと、傍らでキーラとオリヴィアが可愛らしくクスクスと笑った。《7》が怒って、
「ふざけるなよ! 大体、先日のNo.666のことと言い、今回の《3》のことと言い、はっきり言うが、この二千年において前代未聞のことが続けて起こっているんだ! 貴様のせいだろ!」
言われて《5》は顔をしかめる。《7》は納得いかない様子で、
「…《0》さえ、…あの方さえ目覚めて下されば………」
そう言って、自分の領域に戻っていく。《5》もそれは同じ思いだ。
「………《0》。まだ目覚めないの?」
◇ ◇ ◇
―――暗く冷たい、石造りのその部屋の台座に横たわるのは、まるで骨と皮だけのようになってしまった老体の姿。
傍らでその身体を甲斐甲斐しく拭いているのは、頭に『ד』の刺青が入った、ここにいる者達と同じ、その老体が若い頃の姿の男。
彼は《4》。眠る《0》の側で、常に彼の世話をしている。
「………《3》が消滅したぞ」
そう言って部屋に入ってきた《2》に、《4》は、
「…知っています」
《2》を見ることなく、そう答えた。
「このような事態になっても、まだ目覚めないのか」
《2》の問いに、《4》は、
「………《0》は、長い、長い夢を見ていますね」
「…夢、だと?」
訝しむ《2》を見ることもなく、《4》は変わらず《0》の世話を続けていた。
最近ちょっと立て込んでるんで、2〜3日おきの更新になると思います。
他の方達のも見に行きたいんだけどねー…orz