2-4 『人』の意見
美奈の一言に、皆が驚いた。
「そ…、それってどういう意味すか?」
大弥が訊いた。
美奈は何も写っていない写真サイズの印画紙を一枚手に取った。美奈がそれに念を送ると、久吾から情報転送された肝島の顔が浮かび上がった。これも美奈の能力、念写である。
「…この男、肝島ツカサ。妻と5才の息子がいるのだけど、アルバイト先では今までに3人の女性スタッフに手を出してる。今回の美那子さんで4人目の予定らしいわ」
全員が呻いた。
美奈はもう一枚印画紙を手に取り、もう一人のレジを打つ、長い前髪で目を覆った陰気な男の顔を念写した。
「この男は久保田守。肝島の共犯者ね。女性スタッフを在庫置き場に監禁したり、見張りをしたり、女性を押さえつけるのを手伝ったり…、ひどいものね」
確かに、このような連中を野放しにする訳にはいかない。
「何で誰も訴えないんでしょう? これ犯罪ですよね?」
羽亜人が言うと、美奈は、
「被害者はお金で解決させられているわ。この店のビル自体、肝島が父親から譲り受けた彼の所有物の一つで、賃貸収入や他不動産の売却で手に入れた資産もあるの。…この男にとって、店は狩場なのよ」
「最悪ですね…。殺しますか?」
蔵人が言った。が、大弥が慌てて言った。
「い、いや、待ってくださいよ! …確かにクソ野郎共だけど、殺すのは…、その…、だってソイツには子供がいるんでしょう?」
美奈が大弥を見ながら言う。
「…そうね。でも今殺してしまえば、美那子さんに手は及ばないし、肝島の家族には父親が消えるだけで済むんじゃないかしら?」
確かにそうかもしれない。しかし、大弥はそんなに簡単に割り切れなかった。大弥は仲間の中で、一番人間らしい考え方をする。甘いと言われるかもしれないが、それが大弥らしさなのだ。
「…っ、それでも、ろくでもない父親でも、死んじまったら恨み言も言えないじゃないか…」
大弥がそう声を絞り出した様子を見て、久吾が少し微笑んだ。そして、助け舟を出すように言った。
「…被害者が他にもいる以上、彼女らが今後訴えないとも限りません。その際、加害者本人が死亡していれば、残された家族が標的となって苛まれる可能性もあります。私もこれは、人の法に任せたほうが良いと思いますよ」
「久吾サン…」
大弥がほっとしたように久吾を見た。久吾は大弥の小さくきらめく若草色の魂色を見ていた。微笑みながら、
「いや、口直しに綺麗なものを見せてくれたお礼ですよ」
「?」
そんな大弥を見ながら、美奈も言う。
「…ごめんね大弥。性急だったわ」
大弥も安堵したようだ。ひとまず落ち着いたところで、久吾は問いかけた。
「それで、どう対処するつもりですか?」
大弥は気を引き締めた顔になって言った。
「そうですね…、じゃあ…」
作戦会議が始まった。