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13-9 先生

 宝来家後継者のお披露目と共に、後継者である大弥は、まだ若く今後も見聞を広めるため、他会社で勉強していく旨が発表された。


 …それから、会場周辺の広範囲に及ぶ一時的な電波障害と、会場内にて心不全を起こし亡くなった一ノ瀬代表取締役のニュースが報じられた頃、豪華客船・白い貴婦人(ラ・ダン・ブランシュ)号は太平洋上を、ゆったりと航行していた。


   ◇   ◇   ◇


 客船のスイートルームでは、いつもの黒のローブに戻った《(ヘー)》が、ノートパソコンで何やら作業している。

 その《(ヘー)》に、《(ギメル)》が所持していた二人の少女が近づき、おずおずと話しかけた。


 「…あ、あの、………ヘー様」


 《(ヘー)》は、振り向きもせず「何?」と答えると、少女の一人・キーラが、


 「…ギメル様がいなくなられて、私達、これからどうなるのですか?」


 《(ヘー)》は手を休め、少女達の方を向いた。


 「…そうね。あなた達の販売元、人身売買組織に買い戻してもらおうか、と…」


 少女達は顔を見合わせ、慌てて、


 「あ、あの! …このまま、へー様にお仕えさせて頂けないでしょうか?」


 《(ヘー)》は驚いて、


 「………私に《(ギメル)》のような趣味は無いわよ?」


 すると、もう一人の少女・オリヴィアが、


 「お願いです、人買いのもとに戻るのは…」


 少女達は、《(ヘー)》に懇願した。


 人身売買組織に戻れば、次は確実に男の下に売られる。金で女を買う男が、買った女の身体を気遣うなど、まず無いだろう。


 「…ギメル様は、その…、私達の悦ぶ顔を見るのがお好きだったから…」


 「ええ…、とてもお優しくて、その…、良い所ばかり触れられるので…。でも…、男は…」


 《(ギメル)》は少女達に、快感を与え続けていた。

 よほど男好きの、クレアのような者はともかく、自分の欲望だけを押し付ける男達と違い、《(ギメル)》は少女達にとって、良い主人だったのかも知れない。


 …ただ、この少女達は知らなかった。

 《(ギメル)》は、好みの年齢から逸脱したり、寵愛を良いことに自分の欲求を主張し出すような少女達は、容赦なく処分していたのだ。


 「………」


 《(ヘー)》は、どうしよう、と考える。


 「…特に、困っていることも無いけれど…。私に仕えたいのなら、まずは知性を身に付けてもらわないとね」


 少女達は、顔を見合わせ、


 「…知性、ですか?」


 「ええ。まずは、言語かしら。最低でも、英語とフランス語は覚えてもらわないと仕事にならないわ。…それから、これの使い方ね」


 《(ヘー)》は、ノートパソコンに触れながら言う。


 「宮殿に戻るまで退屈でしょうから、早速始めましょうか。…どう? 覚える気、ある?」


 二人の少女は顔を輝かせ、嬉しそうに「はい!」と答えた。

 《(ヘー)》は少女達の反応に少し驚いたが、


 (…私の暇つぶしは、これになるのかしらね)


 そんなことを思いながら、少女達にスパルタ教育を始めるのだった。


   ◇   ◇   ◇


 「そうか…。お前さんの姉さんがねぇ。…つーかよ、お前さん達でも、死んじまうんだな」


 久吾の家に、倉橋が来ていた。

 ついに刑事を定年退職したが、指導員として、しばらく警察に残るらしい。

 その報告がてら、遊びに来たのだ。縁側で二人、お茶を飲みながら話している。


 「そうですね、私もそのうち、ぽっくり逝くかも知れません。…というか、お前さん達でも(・・)とはどういう…」


 久吾がボヤくと、倉橋は、


 「だってよぉ、年取らねぇし、不死身の何かかと思うじゃねぇのよ。…まぁ、いつかは死んじまうのかと思うと、何だか今まで以上に親近感湧くなぁ」


 非道いですねぇ、と久吾が顔をしかめるが、倉橋は笑っている。倉橋は、


 「…で、例のご落胤だった兄ちゃんと、その仲間達とはもう、会えなくなっちまうのか?」


 すると、久吾がため息をつき、


 「そうですねぇ…、会えないことはないでしょうが、お忙しくなるでしょうから…。それで少々困ったことになりまして…」


 倉橋が「何だ?」と訊くと、久吾は、


 「…私、機械苦手なんですよね。それで、我が家の電化製品は全部、配線から取付けまで、姉を通じて蔵人さんにやって頂いてたんですけど、…これからは頼みにくいかなぁ、と…」


 「そいつぁ大変だなぁ…。俺もあんまり得意じゃねぇし…。月岡あたりは機械強そうだけど、アイツも忙しいしなぁ…」


 二人でため息をつく。…が、


 「心配しなくても、ちゃんとやりますよ」


 ふいに部屋の中から声がした。

 蔵人だった。


 「おや? 蔵人さん、いらしてたんですか」


 久吾は驚いた。どうやら転移門(ゲート)でやって来たようだ。

 蔵人は倉橋にも挨拶をする。


 「久吾さんは、俺達の『先生』ですからね。…それに、久吾さんには機械類は、極力触らせないようにしないと…」


 顔をしかめる蔵人に、倉橋が、


 「? どういうこった?」


 訊くと蔵人は、何かのスイッチが入ったように、


 「聞いて下さいよ! この人ね、俺のパソコン面白がって触って、今までに6台壊してるんですよ! 6台も!」


 久吾が困った顔で、


 「いや、何も変なことしてないんですけどね…」


 「そうなんですよ! 何で壊れるのか不思議なんですけど、久吾さんがちょっと動かそうとするだけで、何故か動かなくなるんですよ! もう、ホント、天然の破壊者(クラッシャー)ですからね! 今日だって、久吾さんがBDプレイヤー動かそうとして壊したって、もっちーが電話してきたから来たんでしょうが!」


 そういえば、と思い出した久吾に、蔵人は「全くもう…」と文句を言いながら作業に取り掛かった。


 久吾は一応済まなそうな顔をしながら、


 (蔵人さん、人間に戻ってから、怒りっぽくなりましたかねぇ…)


 そんなことを考えたが、前からこんなだったような気もして、苦笑していた。

お読み頂いてる方々、本当にありがとうございます。

拙い文でホントすみません…。


ちょっと思うところありまして、7月中は番外編ちょろっとやって、8月から本編に戻ります。

何か『うわさ』ってやつで短編に挑戦してみようかな、と。


今後はちょっと更新ペース遅めです。

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