13-7 研究所へ
「やーん、こんなところで羽亜人さんに会えるなんてぇ」
芽衣が頬を染めながら、羽亜人の前で体をくねくねさせる。
「初めましてぇ、羽亜人さんのお友達ですかぁ?」
「お兄さん達もカッコイイですね〜、背ぇ高ぁい」
蔵人と蒼人も、女子群に囲まれてしまった。三人とも、困った表情で力なく笑っている。蔵人は、
(困ったな…。大弥のところに行きたいんだが…)
見ると、当の大弥も貴彦に連れられ、関係者達への挨拶回りに勤しんでいる。
少し離れたところに、彩葉と美那子がいた。《3》が消えたことで、彩葉は段々と落ち着きを取り戻したようだ。
美那子はずっと、彩葉についていた。
「…大丈夫? だいぶ顔色、良くなったかな」
「うん、ありがと、美那子ちゃん」
そんな二人に、声をかけてきた二人の子供がいた。
「む…、どっかで見た顔…。…あ! みねさん!?」
「違うわよ。きっとこの娘は、この間裕人君が言ってた『彩葉先輩』よ」
彩葉は驚いた。…しかし、昔ひいおばあちゃんから聞いたことがある。彩葉は思い出す。
………天使。きっと、この子達のことだ。
「…もしかして、あなた達が助けてくれたの?」
彩葉の問いに、みー君とふーちゃんは顔を見合わせる。そして、にっこりと彩葉に笑いかけ、何やらメモを彩葉に渡し、蔵人達を指差して、そのまま背を向けどこかへ行こうとした。
その背に向かって、彩葉は、
「あ、あの! …ありがとう。久吾おじ様に、よろしくね」
みー君とふーちゃんが振り返り、笑って手を振って、行ってしまった。それを見ながら、美那子が、
「…あの子、どっかで…、ううん、気のせいね。あの子は男の子だったもの。…ていうか、彩葉ちゃん、知ってる子達なの?」
美那子にそう言われ、彩葉は、
「…ん、たぶん…。私の知ってる人のところにいる子達」
聞いて、美那子は「ふぅん」と答えただけだった。
すると、群がる女子達を掻き分け、大弥が蔵人達のところにやって来た。
「あーもう、あのまま終わりまで挨拶回りかと思ったぜ! やっと解放されたよ…」
蔵人達も、助かった、という表情を見せながら、大弥に「お疲れ様」と言うと、女子達が「え!?」と言いながら、
「え!? えぇ!? この方、あの、その、今回の…」
芽衣がオロオロとうろたえ、穂香も、
「そ、その節は、大変失礼な態度を…」
大弥も、あの時の女子高生達だ、と思い出した。ああ、と言いながら、笑って、
「気にすんな。それより、美味いもんたくさん用意してあるらしいから、しっかり食ってけよ」
そんな大弥の言葉を聞き、芽衣達はぽかんとしながら、
「…何だか、全然御曹司っぽくないねー」
ひそひそと話していた。
そんな女子高生達を無視し、蔵人は、
「大弥、もういいのか?」
「ああ。あとは貴彦さんが対応してくれるってさ。それより、主は…」
「急いで向かおう。主は研究所で待ってるって。あとはみー君とふーちゃんを…」
羽亜人がそう言って、キョロキョロと見回すが、見当たらない。探しに行こうとした時、
「あ、あの!」
美那子と彩葉が、こちらにやってきた。
「これ…、さっき女の子達に頼まれて…」
彩葉が蔵人に渡したメモには、
『ななさんと、先にラボ行くね!
みー・ふー』
…読んで蔵人は、
「置いていかれたな…。じゃあ、大弥。行くぞ」
四人で船を降りようと出口に向かうが、美那子は大弥に向かって、
「あ、あの時は、ありがとうございました!」
ペコリと頭を下げ、あの時と同じように再び礼を言った。
大弥はにっこり笑って「気にすんな!」と言い、手を振ってパーティー会場から去っていった。
―――その様子を見ていた芽衣達が、美那子に、
「ちょっとぉ! アンタ、あの御曹司と何かあったの!?」
「ヤダー! 孝宏君から乗り換えちゃう!?」
美那子は慌てて、
「ちが…! 違うよぉ! そんなんじゃないって!」
きゃいきゃいと騒ぐ友人達を見ながら、彩葉は、
(…おじ様も、来てたのかな?)
そんなことを考えていた。
◇ ◇ ◇
大弥達四人は、タクシーで一旦自宅に戻り、スーツ姿のまま転移門を通って、ハチの研究所までやって来た。
「主!」
いつもの研究室に入るが、そこにはハチと久吾、それからみー君とふーちゃんがいるだけで、美奈の姿はない。
「…来たか。こっちだ」
おもむろにハチが立ち上がり、地下への階段を降りていく。
「…え? 下って確か、動力炉じゃ…」
蔵人が言うが、ハチはそれに答えず、久吾もハチの後に続く。
四人は不思議に思いながらも、恐る恐る階段を降りていく。
―――到着した場所は、動力炉。
その中心には、大きな鉱物が宙に浮いた状態で光っている。
四人がこの動力炉に入ったことは、今までなかった。普段なら、その鉱物を目にして驚くところだろう。
…が、今の四人の目は、その鉱物の前にある、白い花に敷き詰められた棺に釘付けになっている。
中には、美奈が眠っていた。