13-5 《3》の最期
めぇともっちーの両瞼が開く時、彼らの形態は『天使の守護者』に変化する。
「眠れる羊!」
「眠れる海豹!」
二体は声を合わせ、
「「起床形態!」」
―――その瞬間、めぇの体は僅かに膨れ、その腕は鋭いドリルとなり、脚は俊敏に動くカモシカのような形状になる。
もっちーの両ヒレは刃の翼となって伸び、尻尾のヒレはジェット噴射に変形して、空中を飛び回る。
二体は想像以上の素早い動きで、《3》に操られ襲ってくる人間達を、なるべく傷付けないように体当たりしながら倒していく。
「…何なの、ふざけてるわね」
唄が周囲に響いている。動ける人間がどんどん減っている状態に痺れを切らし、《3》は自ら動いた。
「…簡単なことよ。歌っているガブリエルを止めれば…」
そう言ったとき《3》の周囲に、輝く白と金の美しいもやが立ち昇る。
みー君とふーちゃんが、その背に翼を広げていた。
「…いくよ、ガブリエル」
みー君の手に、ヤドリギで作られた魔法の杖のような指揮棒が握られている。
みー君…、ミカエルは、指揮者だ。
本来、ミカエルを除く三人の天使達は、ミカエルのタクトによってそれぞれの音を奏で、様々な現象を起こすのだ。
ミカエルのタクトが振られ、ガブリエルがそれに合わせて歌う。タクトが揺れる度に、白と金のもやも揺れて輝く。
タクトの先から、光り輝く炎が立ち昇る。女神の因子によって安定したミカエルの炎に、前回のような暴走は無い。
炎は、白と金のもやを纏って渦となる。
渦はミカエルとガブリエルを巻き込み、ガブリエルの唄に呼応して、さらに大きな渦となる。
その渦は、今度は《3》の周囲を取り囲み、捉えていった。
《3》は一瞬、躊躇を見せたが、諦めたように微笑んで、
「………そう、そういうこと。私、あなた達に殺されるのね」
ミカエルが指揮を続けながら、
「…悪いけど、キミはやりすぎたんだ。《0》には、ボク達から言っておくよ」
「残念だわ…。ガブリエル、私と一緒に逝かない?」
ガブリエルは歌いながら、心の声で、
((ごめんね。私は、ななさんと一緒が良いの))
聞いて《3》は、
「………つれないわね」
そう言って、少し寂しそうに笑った。
輝く渦は《3》の身体を包み、少しずつ削っていく。《3》は、
「…あなた達に殺されるなら、文句はないわ。もう、暇つぶしをする必要も無くなるわね。………《5》、後は頼んだわ。宮殿の皆に、…《0》に、よろしくね」
そう言って、光に包まれた《3》の姿は、消滅した。
―――ガブリエルの唄によって眠らされた人間達はもとより、《3》に操られていた人間達も、意識を失う。
《5》は、その様子を見ながら、
「………《3》。私は貴女のこと、嫌いじゃなかったのだけどね」
そう言って、ミカエルとガブリエルに向かい合う。ガブリエルが、
「…それで、あなたはどうするの? まだ、美奈さんを狙うの?」
めぇともっちーが、形態を維持したまま構える。しかし《5》は首を振り、
「………いいえ。私は人間達を使って、《3》のお膳立てをしてあげただけよ。…でも、教えてくれる? No.37は、何をしていたの?」
ガブリエルが答える。
「………終活よ」
《5》が顔をしかめて、
「…終活?」
そう言っていると、人間達が意識を取り戻しはじめた。蔵人が頭を抱えながら、
「………う、…俺達、一体………」
ミカエルとガブリエルの背から翼が消えた。めぇともっちーの起床形態が解かれ、瞼を閉じたいつもの姿になる。
《5》はそれを見ながら、
「…そういえば、パーティーの途中だったわね。私はもう遠慮するわ」
二人に背を向け、この場を去ろうとする。
ミカエルが、《5》の背に向かって、
「キミは、このあとどうするの?」
《5》は一度立ち止まり、背を向けたまま、
「…《2》に経過を報告しないと。でも、私達《一桁》は全員、《3》の消滅を感じているはずね。今後のことは全て、《0》が目覚めたら決まると思うわ」
それだけ言うと、客船のスイートルームに戻って行った。
◇ ◇ ◇
「…二人で!? 倒したのか、あの主にそっくりな女…、ギメルを」
みー君とふーちゃんが蔵人達に報告すると、三人はとても驚いていた。ぬいぐるみ達も心做しかドヤ顔だった。羽亜人が、
「ごめんね、何か…。俺達、気付いた時には、全部終わってるなんて…」
何だかショックを受けているようだ。だが、蔵人は、
「…ってことは、これで主の予知は回避出来たんじゃ…」
羽亜人と蒼人も、安心したように笑みを浮かべる。
…しかし、みー君とふーちゃんが、互いの顔を見合わせる。
三人は、え? という顔で二人を見た。
その時、
「ミカエル、ガブリエル、…お疲れ様でした」
そう言って現れたのは、久吾だった。
「「ななさん!」」
二人は嬉しそうに、ぬいぐるみごと久吾に飛びついた。
「めぇさんも、もっちーさんも、頑張ってくれましたね」
頭を撫でられ、二体も嬉しそうだ。が、
「ご主人〜、電池切れるぅ…」
「メ、久々のうぇいくあっぷ、キツかったですメ…」
へろへろの二体に、久吾は「ハチさんのところに行きましょうね」と優しく声をかけた。
そこへ蔵人達が割って入った。
「久吾さん! 主は…、主は無事ですか!?」
言われて久吾は、少し翳りを帯びた表情を浮かべ、
「…蔵人さん、蒼人さん、羽亜人さん。…大弥さんの用事が済んだら、四人で研究所に向かって下さい。…美奈さんがお待ちです」