13-3 会場へ
「名執様と、ご友人5名様ですね。ようこそ」
彩葉達6人は、装いも華やかに連れ立って、船上のパーティー会場に案内された。
結局あの後、斗真が追加で送ってくれた招待状で、彩葉の友人は全員来られたのだ。
「すごいね、豪華客船なんて初めて。…洋上の貴婦人、ラ・ダン・ブランシュ号、だって」
美那子が案内のパンフレットを読みながら、船内を見回してため息をつく。
白を基調とした船内は、様々な飾りや彫刻が施され、パーティー会場には、頭上にシャンデリアやステンドグラスが燦めいており、絵画や花もふんだんに飾られている。
「こんなところ、ホントにあたし達が来て良かったのかなぁ…」
芽衣が気遅れした様子で言うが、辺りを見回すと、もちろん年配の宝来グループ関係者もいるのだが、不思議なことに、自分達くらいの年代の少女が多い気がする。
お陰で会場は非常に華やかで、まるでアイドルのグループがそこかしこに居るかのようだ。
「…何か不思議ね。このパーティーって、そもそも何だっけ? そういえば、マスコミも下に来てたよね」
美那子が言うと、彩葉が、
「えっとね、宝来グループの会長の亡くなった息子さんの、海外にいた恋人がね、実は子供を産んでたんだって。…で、その子が息子さんに似て優秀な人だから、後継者としてお披露目するためのパーティーだそうよ」
そう言って、パンフレットの写真を見せると、美那子が、え!? と驚いた。
「え!? この人…」
「? 美那子ちゃん、知ってるの?」
宝来大弥、と書かれている人物は、以前美那子がアルバイト先でとんでもない目にあった際、壁を壊して助けてくれた人だった。
◇ ◇ ◇
「…集まってるわね。No.37が飼ってた坊や達も、全員揃っているのよね」
白い貴婦人号のスイートルームでは、大きく肩の出た流れるようなラインの、優雅な白いイブニングドレスを身に纏った《3》と、広く背を開け、身体の線を際立たせた黒のイブニングドレスの《5》がいる。《5》が、
「もちろん。…貴女の希望通り、少女達も多めに招待させたわ」
《3》は満足そうに笑って、
「ありがと。…ところで、《最後の番号》も来ると思う?」
「…どうかしら。貴女が能力を使えば、ここの人間達を心配して来るかもね」
《5》の言葉に、《3》はクスクス笑い、
「ガブリエル…、あの娘も来てくれないかしらね。もし《最後の番号》を捕獲出来たら、私へのご褒美はガブリエルが良いわ。天使の中では、あの娘が一番可愛いもの」
「………」
《5》は何か思うところがあったようだが、《3》は気にせず「行きましょう」と、パーティー会場に連れ立って行った。
◇ ◇ ◇
「むう…、ヒラヒラ、慣れないなぁ…」
そうボヤきながら、客船の一室から出てきたみー君は、背中が広く開いた、可愛らしい赤いドレスを着ている。髪に花飾りも施され、普段の姿とは全く違っていた。
「………みー君、メッチャカワイイじゃん。カンペキな女の子だぞ!」
みー君の腕の中には、もっちーがいた。もっちーの首元(?)には、一応赤い蝶ネクタイが着けられている。
隣には、めぇを抱きかかえ、やはり背中が広く開いた、みー君とお揃いで色違いのブルーのドレスを着たふーちゃんがいる。
「お二人とも、とってもステキですメよ」
めぇが言うと、二人の後ろから蔵人が、
「めぇさんも、もっちーも、人が増えてきたぞ」
蔵人・蒼人・羽亜人の三人も、フォーマルなスーツ姿だ。五人と二匹(?)は、裏側のデッキからパーティー会場に入っていく。ぬいぐるみ達は、普通のぬいぐるみのフリに全力を注ぐ。
◇ ◇ ◇
一等客室では、大弥が支度を整えられていた。白いスーツを着せられ、スタイリストの女性に髪を手入れされている。
「………慣れないなぁ…」
あまり着る機会の無いフォーマルスーツ姿に、大弥が、ボソリ、と呟くと、スタイリストが「お似合いですよ」と褒めてくれた。
すると、貴彦が執事の楠本と共に部屋に現れ、大弥に声をかけた。
「…準備は出来たようだな。今日はよろしく頼むよ………、そうしていると、やはり渉によく似ているな。…不本意だろうがね」
大弥は苦笑しながら、
「まぁ今日だけの我慢ですから」
そう言うと、貴彦が、
「いつ宝来家に来ても構わんからな」
と言って、大弥の肩を叩く。
二人は連れ立って、パーティー会場へと向かった。
◇ ◇ ◇
「貴女様が、この客船のオーナーでいらっしゃいますな。…いや、お美しい。私は一ノ瀬と申しまして…」
通訳を介して、一ノ瀬は《3》に接触を試みるが、《3》は日本語で「通訳は不要よ」と、つまらなそうに答えた。一ノ瀬には興味が無いようだ。
その様子を遠目に見ていた美那子が、
「ね、ね、あの人達、メッチャカッコよくない?」
《3》と《5》をこっそり指差しながら、彩葉達に声をかけた。芽衣が、
「わ! ホント! モデルさんとかかな? アッチの人、真っ白! …ああいうの、何て言うんだっけ? …アルビノ?」
「ステキ〜! 雰囲気あるぅ、…でも、何だろ…。もう一人の人、頭を丸めてるからかな、マネキンみたい…」
穂香がそう言うのを聞いて、彩葉が《3》達を見た途端、彩葉の背筋が凍りついた。
《3》の影に群がる、何人もの少女の霊を視てしまったのだ。
「あ………!」
青ざめた表情の彩葉が、《3》の視界に入った。《3》が妖しく微笑む。
「…いるじゃない、可愛い娘」