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13-2 お披露目の真意

 今までの自分の部屋よりずっと広い、立派な部屋の中で、大弥が落ち着かない様子でウロウロしている。


 先日、蔵人からの電話で重大な事案を聞かされ、自分なりに作戦を立てているらしい。


   ◇   ◇   ◇


 「………主が!?」


 あの後、美奈が蔵人達に伝えたのは、自分が近々死を迎える運命にある、ということだった。

 蔵人はスマホの向こうから、


 『…ああ。明確なことは分からないらしいが、自分がいなくなった後のことは、賢介さん達とも取り決めてあるそうだ。お前のことも含めてな。…ただ、主の死因はもしかすると…』


 「? 何だ?」


 蔵人は、間を置いてから、


 『…実は、主の能力(ちから)を狙っている、ハチさんと同じ《一桁(ウーニウス)》と呼ばれる者達の一人で、ギメルって女が日本に向かっているらしい』


 それを聞いて、大弥は、


 「………つまり、主はその、ギメルってヤツに殺される、ってことなのか?」


 『分からない。主はそこまでは話してくれなかったからな。…ただ、そのギメルを追い払うことが出来れば、あるいは…』


 大弥は、分かったぞ、と言わんばかりに、


 「じゃあ、やることは決まってるな! そのギメルを何とかすれば、主も助かるし、俺は晴れて主のところに戻れるってことだろ!」


 短絡的な大弥の言葉に、蔵人はため息をつく。


 『………具体的に、どうするんだ? そもそもお前、ギメルがどんな相手で、どこに現れるかも分かってないだろう?』


 「う………」


 大弥が困っていると、蔵人は、


 『今分かっているのは、そのギメルが現れるのは、お前のお披露目…、つまり、宝来家の後継者の発表の場である可能性が高いらしい』


 え!? と大弥は驚いた。


 「な、何で!? 何でそんなこと分かるんだよ! 大体、お披露目なんかされたら、俺そっちに戻れねーじゃん!」


 『落ち着け。そもそもこのタイミングで宝来家が接近してきたのにも、理由があるんだ』


 「? どういう事だ?」


 『…賢介さんからの情報になるが、宝来グループは元々、宝来珠江の影響力が強かった。『女帝』と呼ばれていたくらいだからな。そして珠江の下に、『一ノ瀬』という男がいて、現時点で珠江派の人間を牛耳っているんだ』


 一ノ瀬克明。宝来フィナンシャルグループ代表取締役であり、珠江の手足となってグループ関連会社を取りまとめ、実務をこなしていた男だ。蔵人は続けて、


 『一ノ瀬は、珠江の夫・貴彦会長派と対立関係にある。珠江のがんは発覚した時点で相当進行していたから、一ノ瀬は彼女亡き後、会長を外して自分が代表を受け継ぐつもりで画策していたんだ。…だから貴彦さんは、珠江が亡くなった時点で『宝来渉の息子』という切り札を、会長側から出したかったそうなんだ。一ノ瀬側に牽制する意味でな』


 「…そう言われてもなぁ。俺の意思は無視かよ…」


 大弥が言うと、蔵人は、


 『それがな。後継者としてのお披露目が済んだら、その後はお前の自由にしてもらっても良い、ってのが、貴彦さんの考えらしいぞ』


 大弥は、え? と聞き返す。


 「それって、どういう…」


 『俺も、お前の父親の渉は、今も許す気はないけどな。…でも、貴彦さんは違う。そっちで彼と話してみても良いと思うぞ。それより…』


 「?」


 『ギメルは、人間達を使って情報を集めていたらしい。そのギメルに使われていた人間ってのが、一ノ瀬側に居たみたいなんだ。…そこから、貴彦さん達の動きが網にかかって、主と俺達の存在に繋がったらしい』


 「! …つまり、あれか。情報を受け取ったギメルが、主に繋がってる俺等を、主をおびき出せるエサにして、お披露目の場で事を起こす、ってことか?」


 蔵人も頷き、


 『俺もそう思う。お前に何かあれば、一ノ瀬側にも利になるしな。…だから、主はハチさんの所で匿ってもらう。ギメルに対抗するために、こちらからは、みー君とふーちゃんが、お前の護衛をすることになった』


 「え!? みー君達で、大丈夫なのか!?」


 『それが、《一桁(ウーニウス)》に対抗するなら、天使達の方が適任らしい。ハチさんがそう言っていたんだ。それから、当日は一応俺達もお前の護衛につくからな』


 そう聞いて、大弥は少し安心した。


 「そうか…。まぁ、俺が今回表に出ることで、主を助けられるかも、ってんなら、やるしかないな。囮でも何でもやってやるさ」


 宝来家の言う事を聞くのは癪だが、主である美奈の為なら、と大弥は前向きに考えることにした。


   ◇   ◇   ◇


 蔵人と連絡を取った後、貴彦が部屋にやって来て、大弥は貴彦と話をすることが出来た。


 「…その、すまなかったな。話は賢介さんから、君の仲間を介して聞いてくれたと思うが…」


 再び謝罪をする貴彦に、


 「…いや、あなたが悪いわけじゃないし…」


 大弥がそう言うと、貴彦はホッとしたような表情で、


 「………ありがとう。一応私達は、祖父と孫の関係なのだが、…正直、今更だろうな。恥ずかしながら私と渉も、普通の親子ではなかったと思う。…だから我々は、今後もビジネスパートナー、という事で構わないだろうか。…そのほうが、君も気が楽だろう」


 意外だった。大弥が「良いんですか?」と聞くと、


 「もちろん、こちらで後継者として、共に尽力してくれても構わない。…ただ、重要なのは、この世に一人しかいない『宝来渉の息子』の君が、会長(こちら)側に居てくれる事なのだよ。…すまない、言い方が悪かったかな」


 大弥は、なるほど、と思い、


 「構いませんよ。蓼科さん達も会長(こちら)側でしょうから。…一ノ瀬側への牽制が済めば、俺は今まで通りにさせてもらいますよ」


 「………」


 貴彦が、大弥の言葉に思うところがあったようで、コホン、と一つ咳払いをした。大弥が「?」と思っていると、貴彦が、


 「………その、何かあれば、いつでも頼ってくれて構わんぞ。私は君の『おじいちゃん』なんだからな」


 耳まで赤くなっている。

 大弥は笑って、「ありがとうございます」と礼を言った。

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