13-1 特別招待券
宝来珠江の盛大な葬儀も終わり、その後に降って湧いた『宝来家の後継者』の情報を、マスコミは大きく取り上げていた。
まだ見ぬ『宝来家のプリンス』と題し、様々な憶測が飛び交った。
宝来家は後継者のお披露目を後日行うとし、豪華客船を貸し切っての船上パーティーとして催す発表をした。
◇ ◇ ◇
「では、当日の警備と招待客の手配は以上で…」
宝来家の執事・楠本と、黒いスーツの若い男達とで、着々と準備が進められていく。
一段落ついて、楠本は若者のうちの一人に、
「…すまんね、名執君。お休みだったのに、こんな時間まで。今日はこのあと、妹さんと会うと言ってなかったかね?」
名執と呼ばれた青年は苦笑しながら、
「ええ。急いで向かいます」
楠本は手元の書類の中から、何やら取り出すと、
「いい機会だからね。妹さんも招待してあげなさい。会場が賑やかになるのは喜ばしい」
船上パーティーの特別招待券を数枚、名執に手渡した。
「ありがとうございます」
名執は礼を言って、招待券を受け取った。
◇ ◇ ◇
「お兄ちゃん!」
「彩葉! 久しぶりだな」
十歳違いの、年の離れた彩葉の兄・斗真は、宝来家に仕える侍従である。
東京の高校に通うことになった妹とは、時々こうして外で食事を共にするのだが、斗真は中々に忙しく、会えるのはせいぜいふた月に一度だ。
「忙しそうだね、お兄ちゃん。…これじゃあお母さんの心配どおり、彼女も出来ないのかなぁ…」
斗真は思わず、飲みかけのスープを吹き出しそうになる。
「…余計なお世話だよ。お前は、彼氏なんか作ってないだろうな」
彩葉は、ブンブン、と首を振る。
「いないよぉ。私だって、部活とか委員とか忙しいのよ」
…そんな他愛のない会話をしながら食事を済ませ、デザートを食べながら、斗真が、
「そうそう、これ。再来週末なんだけど、雨宮さん達にも…」
そう言って、特別招待券を手渡す。が、彩葉は、え? と言いながら、
「おばさん達、再来週末は旅行に行くって言ってたよ?」
斗真は、ありゃ、と言いながら、
「そうか…、フランスの豪華客船を貸し切っての船上パーティーなんだけど。…そうだな、せっかくだから、友達を誘ってもいいぞ」
「いいの?」
「ああ。目一杯おめかしして…、いや、でも、あまり目立ち過ぎるな。お前は可愛いんだから、万が一変なのに目を付けられても…」
年が十も違うと、ある種、娘のような感覚なのかも知れない。
彩葉はクスクス笑って、
「お兄ちゃん、過保護。…でも、ありがと。クラスの娘達に聞いてみるね」
彩葉はそう言いながら、招待券をカバンにしまった。
◇ ◇ ◇
(どうしようかな…)
彩葉が招待券を見ながら、学校の廊下を歩いていると、
「いーろはちゃん!」
後ろから、ポン、と彩葉の肩を叩いたのは、同じクラスの美那子だ。
美那子は、彩葉の手元を覗きこみ、
「それ、なあに?」
「お兄ちゃんからもらったの。おばさん達、行けないから、誰かいないかなぁって…」
美那子は券を見て、驚いた。
「…わ! スゴイ! 船上パーティー!?」
すると、他のクラスメイト達も、わらわらと集まって来て「いいなー」と言っている。彩葉は、
「じゃあ、四枚あるから、あと三人、誰か…」
ハイハイハイ! と手が上がり、ジャンケン大会の末、穂香と凛、美那子の三人に決まった。
「えー、楽しみ! みんなで待ち合わせして行こーね!」
美那子がそう言うと、穂香と凛も頷くが、ジャンケンに負けた芽衣が、
「美那子、アンタは孝宏君とデートじゃないの?」
「だいじょーぶ! その日は多分アイツ、バイトだし」
「用事が出来たら、いつでも代わるからねー」
と言っていた。彩葉がクスクス笑っている。
美那子達に招待券を渡し、ジャンケンに負けた芽衣と心にも、
「追加で招待券もらえるか、お兄ちゃんに聞いてみるよ。みんなで行こう」
「ホント!? やっぱ彩葉、マジ天使だわ!」
そう言われ、彩葉は芽衣に抱きつかれた。
「ジャンケン、意味無かったじゃん…」
美那子がぼやくが、彩葉はニコニコしながら、
「ドレスコードもあるんだって。着ていくもの、考えなきゃね」
皆でわいわい相談しながら、クラスに戻って行った。
―――その様子を、たまたま見ていた裕人は、
「…くっ、…僕も、バイトがなければ…」
すると蓮が隣で、
「いや、そもそもお前、誘われてもいないからな! いいから先輩んとこでミーティング、行くぞ!」
「うわあぁぁん!」
裕人は蓮に、引きずられていった。