12-9 祖父との対面
「…今更、何の用だよ。俺ら関係ねーんじゃねぇの?」
大弥がそう言うが、楠本は、
「大奥様が亡くなられたことで、大旦那様が蓼科家に使いを出しましたところ、こちらにいらっしゃるはず、と…」
大弥は楠本を睨み、
「何が言いたいのか分かんねーな…。俺が何にも知らないと思ってるのかな? 全部聞いてるよ。俺の、ろくでもない父親のこととか」
「………」
楠本は黙ってしまったが、若い二人の男のうちの一人が、
「申し訳ありませんが、既に蓼科様は宝来家にお越しになっております。大弥様にも同席して頂きたく…」
大弥は顔をしかめる。
「…俺の本来の主は、別の人だよ。蓼科のおじさんには悪いけど…」
すると、大弥の後ろから「大弥!」と声がした。振り返ると、蔵人と蒼人が走って来ていた。
「え? 二人とも、どうしてここに…」
蔵人が、大弥に向かって告げる。
「主の命令だ。賢介さんと一緒に、宝来貴彦との話し合いの席に着け、って…。羽亜人もすぐに来る」
賢介は今の蓼科家の主人で、耀一の父であり、美代の孫に当たる。
大弥は驚いた。
「主が…!?」
◇ ◇ ◇
大弥達は、用意された車に乗り、宝来家邸宅に入っていった。
広い応接間に通されると、そこに賢介が夫婦で揃っていた。賢介が立ち上がり、声をかけた。
「大弥君!」
賢介達も、慌ててこちらに来たようだ。
その手にタブレットを持っている。
「おじさん、これってどういう…」
大弥が何か言う前に、賢介の持ったタブレットから声がした。
「大弥。あなたも座って」
タブレットに映っていたのは、美奈だった。
「あ、主………」
すると、応接間に数人が入って来た。先程の執事・楠本と二人の黒いスーツの男達の間に、背の高い、年配の男がいる。宝来貴彦だ。
「………」
貴彦は、大弥を見て立ち止まった。心做しか、感極まったような表情を浮かべている。
その後から「大弥!」と声がして、羽亜人もやって来た。
「…全員、揃ったようね」
タブレットの中から、美奈が言う。
すると、貴彦が大弥達に向かって、
「………まずは、謝罪をさせて頂きたい。息子の渉がしたことを…。その…、実は大弥君。私が君の存在を知ったのは、渉の死後、十数年経ってからなんだ」
続けて執事の楠本が、
「申し訳ありません。私が大旦那様より先に、大奥様に御報告したばかりに、誰にも言うな、と口止めをされまして…」
「………」
大弥は黙っていた。とりあえず、執事達以外が全員で席につく。
楠本が皆に向かって話し出した。
「…それでは、この度の話し合いの席に於いて、こちらの大弥様を、蓼科様と美奈様の立ち会いの下、宝来家の後継者とさせて頂くことを………」
「「はあ!?」」
楠本の話の途中で、大弥達が声を上げた。
「どういうことだよ! 何で急にそんな話に…」
「…黙って聞きなさい」
タブレットから、美奈が言う。大弥は驚いて、
「…な、…何で? 主…。おかしいじゃんよ! 何で主が、そんなこと言うんだよ!」
すると、今度は賢介が、
「…大弥君。実はこちらの貴彦さんから、この件に関してずっと相談されていたんだよ。珠江さんに気付かれないように、内密に…」
「…え?」
賢介が続ける。
「皆も知っていると思うが、宝来家は渉さん以外、子がいなかった。珠江さんは、自分の親類縁者から何人もの候補を挙げて検討していたんだが、これという人材がなかなか見つからなかったんだ」
すると、今度は貴彦が続けた。
「珠江は拒み続けていたが、私は大弥君の存在を知ってから、賢介さんから情報を頂いたり、人を使って調べさせていたんだ。大弥君が幼少期からアメリカの学校に通い、カリフォルニア大を高成績で卒業し、今では10カ国語以上の言語を操り、格闘術など身体能力も高く、さらに耀一君の経営するグロウ・エージェンシーに於いても、様々な功績を…」
大弥は聞きながら、しかし途中で遮った。
「それは! …それは、全部、蔵人や蒼人、羽亜人から、…主から教わったことで…。それに、アメリカの学校に通ったのは、蓼科のおじさん達の勧めだし…」
アメリカへは、転移門を使っていつでも行き来出来た。賢介は大弥がアメリカで過ごす為の、諸々の手続きをしてくれていた。
楠本が話を引き継ぎ、続ける。
「…以上を鑑みても、宝来家の後継者として、他の候補の方々より抜きん出た逸材であり、何より渉様の忘れ形見でございます。海外で育ったという点も、功を奏しておりますゆえ…」
「勝手に決めんな!!」
大弥が怒った。そして、タブレットに向かい、泣きそうな顔で美奈に、
「主…、何だよこれ…。何の茶番だよ! ウソだって言ってくれよ!!」
美奈は、少しの間の後、ゆっくりと、
「…大弥。あなたは宝来家に戻りなさい」
「!?」
「それから、羽亜人、蔵人、蒼人。あなた達には、私から話があります。悪いけど、こちらに戻って来て。…申し訳ないわね、賢介さん、由香里さん。後を頼めるかしら」
美奈に言われ、賢介は、
「ええ。構わないが、大弥君はこのまま、こちらに居てもらって良いのですか?」
美奈が頷く。そして、
「…それでは貴彦さん、大弥をお返ししますわ。奥様の葬儀には行けませんが…」
貴彦は「ありがとう、美奈さん」と礼を言った。蔵人が大弥に、
「大弥、主に事情を聞いて、すぐに連絡する。…蒼人、羽亜人。急いで戻ろう」
三人は、賢介に挨拶をして、急いで応接間を出た。
大弥は訳が分からなかった。
「………ちくしょう、何だよ、…何なんだよ!」
◇ ◇ ◇
―――南太平洋上で、一隻の大きな船がゆったりと航行している。
豪華客船・白い貴婦人号のスイートルームでは、ベッドの上で《3》が二人の美少女を両脇に侍らせ、戯れている。
少し離れたテーブルに《5》がいた。《3》は、
「…日本までおよそ半月、と言ったかしら?」
《5》はノートパソコンを操作しながら「ええ」と答える。
「………楽しみね」
《3》はクスクスと、楽しそうに笑った。
次、更新遅れます。6月後期くらい。
美奈さんの終活・後半戦。