表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/194

12-8 宝来家からの使者

 「………その時、俺達はこの身体になったんだ。元の身体は、ハチさんが培養液と、久吾さんの霊薬で修復してくれた。今は保存されているはずだよ」


 もつこは真面目に聞きながら、


 「ほえー…、タイヘンだったのねー」


 と言っていたが、もっちーは、くかー…、と寝息をたてていた。


 「もっちーさん…、やっぱりダメダメですメ」


 めぇが呆れている。もつこは、


 「ボーねぇね、会ってみたかったなー」


 「ハハ、そうだね。可愛いもの好きだったから、もつこちゃんのことも気に入っただろうね」


 羽亜人が懐かしそうにしながら、


 「…そのあとね、もう名前を『色』で縛る必要ないだろうって、日本名を久吾さんに付けてもらったんだ。『大弥』だから、ダイヤ、に合わせて、ハート、スペード、クラブ、って…。面白いこと考えるよね」


 するともっちーが、いつの間にか起きて、


 「ハートは分かるけどさ、スペードとクラブ、違くね?」


 「スペードって、元々(ソード)を意味するんだってさ。それから、クラブを少しもじって蔵人(くらうど)なんだって。『人』の字をそれぞれ入れて、『人』として生きて欲しいってね」


 ほえー…、と、もっちーは感心している。

 が、めぇは気になったのか、


 「…もっちーさん、どこまで覚えてますメか?」


 もっちーは、ギク、と言いながら、


 「ほ、ほら、アレだ! 山でハト捕まえて、料理して…」


 「めちゃくちゃ序盤ですメ」


 めぇが辛辣にもっちーに突っ込むが、もっちーは、


 「…てか、ハトなんて食えんの? ヤバくね?」


 「何も無い時代だからね。当時はご馳走だったんだよ。…でも地域によっては、まだ食べてるかもねぇ。あの時食べた山伏茸や衣笠茸なんかは、今でも結構食べられてるし」


 へぇー、と言うもっちーを尻目に、もつこが羽亜人に、


 「ねえねえ、じゃあ…、羽亜人にぃには、大弥にぃに、キライなの?」


 そう言われて、羽亜人は、


 「…嫌いなわけ無いよ。そりゃあ最初は、あんなヤツの子供、って思ったけどさ…」


 そして、思い出したように笑って、


 「でも、アイツ、可愛かったんだよねぇ。一緒にいるうちに、誰が父親だとか、そんなのどうでも良くなっちゃって…。何より、主が『ボーの産んだ子』って、そりゃあもう、可愛がってたしね」


 もつこはニコニコしながら「そっかぁ」と言った。安心したようだ。

 しかし、はた、と気づいたように、


 「そーいえば、大弥にぃにのパパは、どーなったの?」


 もつこは幼いのに、もっちーよりしっかりしてるなぁ、と羽亜人は思いながら、


 「あー…、それがね、宝来家で決められた相手と結婚したんだけどねぇ…。新婚旅行先で…」


 宝来渉は、世界一周旅行を新婚旅行にしたらしいのだが、途中で立ち寄った国で事故に巻き込まれ、夫婦ともに亡くなったそうだ。

 宝来家では現在、跡目を巡る問題を抱え、色々大変らしい。


 「…まぁ、今となっては、どーでもいいけどねぇ」


 そう言いながら、暗くなってきた外の気配が気になり、羽亜人は「今何時かな?」とテレビを付けてみると、夕方のニュースの時間だった。

 町中華の大将がどうとかに続き、天気予報が流れ、羽亜人がそろそろ帰ろうとした時、


 『…先程からお伝えしておりますように、膵臓がんで闘病中だった宝来グループの『女帝』と呼ばれていた宝来珠江(たまえ)さんが、昨日未明に亡くなられたと…』


 え、と羽亜人は驚く。ぬいぐるみ達が「?」と思い、


 「羽亜人さん、ご存知の方ですメか?」


 めぇが聞くと、


 「…ああ、この人、多分、大弥のお祖母さんに当たる人だな、って…」


 え!? とぬいぐるみ達が驚く。もっちーが、


 「じゃあ、ホウライさんの家、無くなんのか?」


 「いや、無くなりはしないと思うけど…。あの家は、この人の意見が強かったらしいからなぁ…。何か、嫌な予感…」


 羽亜人は、渉の母・珠江が、ボーのことを、


 『どこの馬の骨とも分からない女を、嫁になど出来るものか』


 …と言っていたのを、噂で聞いている。

 ただ、そう言っていた珠江がこの世からいなくなり、宝来家の跡取りは未だ決まっていないという。

 宝来家と蓼科家は、取りあえず仕事上の付き合いはあるが、


 「…正直、関わりたくないんだよねぇ」


 羽亜人は、大きなため息をついた。


   ◇   ◇   ◇


 『…では、今後ともよろしくお願いします』


 『最高のショーを、日本で行えるのを楽しみにしています』


 そう英語で言いながら、相手と固い握手を交わすのは、蓼科家の人間で美代のひ孫に当たる男・耀一(よういち)である。そのそばには、大弥も笑顔で控えていた。


 三十半ばで次男の耀一は、現在家業と離れ、海外アーティスト等の日本公演に関わるプロモーターをしている。

 交渉をまとめ、相手を見送ってから、耀一は大弥の肩を叩きながら、


 「いやー、ありがとな、大弥! お前のお陰で上手くまとまったよ」


 大弥は照れ笑いしながら、


 「俺は別に…。やっぱ耀一さん、話の持って行き方が上手いんすよ」


 「何言ってんだよ。お前が英語で上手くニュアンス伝えてくれたから、助かったんじゃねぇか」


 二人で交渉の成功を喜びあう。


 「よし! じゃあ、何食う? やっぱり焼肉か?」


 「お、いいッスね。おごられますよ」


 耀一は、もちろんだ、と言って、他のスタッフも一緒に事務所を出て、食事に行った。


   ◇   ◇   ◇


 (…食い過ぎたかなぁ)


 そう思いながら、腹ごなしに早足で帰路の途につく大弥に、数人の黒いスーツの男達が近づいてきた。


 「…蓼科大弥様、ですね?」


 大弥は「?」と、警戒しながら顔をしかめた。


 「…何だ? お前ら…」


 男は三人。二人は比較的若いのだが、一人はずいぶんと老齢で、白い髭を口元に生やしている。

 その髭の男が、


 「…やはり、坊っちゃんに似てらっしゃる…。私、宝来家の執事で、楠本(くすもと)と申します」


 宝来家、と聞いて、大弥は嫌な顔をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ