表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/194

12-7 昔語り・その6

 ―――その翌日、ボーが皆を前にして言った。


 「…ごめんね、お兄ちゃん。ルーも、シンも…。私ね、この子、産みたいの」


 皆が驚いた。チーが怒りながら、


 「な…、何でさ! あんなヤツの子供なんて、産んでも…」


 「でも! …この子、何にも悪いことしてないのよ? 何で犠牲にするの?」


 ボーが言う。しかし、ルーが、


 「じゃあ、どうするんだ? 結局、俺達は精霊を宿したまま生きるのか? そうなれば、どのみちその子は、俺達より先に死ぬぞ」


 そう言われ、しばらく考えたボーは、


 「………私が精霊達と、一緒に逝く」


 「!?」


 ―――ルー達は、再び精霊達の意見を聞きたいと、久吾に願い出た。


   ◇   ◇   ◇


 ((我等はどちらでも構わん))


 玄武の精霊の返事だ。


 ((…ただなぁ、清い魂と言ったはずだが))


 青龍の精霊が言うと、白虎の精霊が、


 ((子を想う母の魂が、清くないはずないだろう))


 そう言うので、それで話が終わった。…と思っていると、白虎の精霊がこっそり久吾に話しかけた。


 ((…皆は言わずにいるんだがね。お前、あの錬金術師に、あの子達の依代を用意するように言っておけ))


 久吾が「?」と思っていると、白虎の精霊は続けて、


 ((百年以上一緒にいたんだ。正直、我等が離れる時の、肉体への負担は計り知れない。お前の霊薬でも、残念ながら通常の効果は期待出来ないと思う。…後はお前達で考えとくれ))


 久吾はその件を、ハチと相談することにした。


   ◇   ◇   ◇


 ルー、シン、チーは、一度冷静に話をしたい、と、渉をとあるホテルの一室に呼び出した。

 渉は、自分の家の執事と一緒に、呼び出しに応じた。


 「………やっぱり、お金なのかな?」


 そう言って、準備した札束を積み、執事に持たせていた渉だが、ルーが、


 「そんなものは要りません。…ただ、ボーは産む、と言っている。それだけ知っておいて欲しいんです」


 すると、渉は笑い出した。


 「…ハ、ハハハ! そうか! ハハ! …じゃあ、ぜひ元気な赤ちゃんを産んでね、と伝えて下さい。物入りでしょうから、お金は受け取って欲しいな」


 そう言って、札束を積んだプレートをテーブルに置かせる。渉は続けて、


 「…僕はちゃんと、彼女のこと好きだったんですよ。でも、宝来家の嫁には出来ないので…。申し訳ないとは思いますがね。…しかも、百年以上生きている、バケモノだし…」


 ガタッ、と椅子から立ち上がろうとするチーを押さえ、ルーは、


 「事情はこちらも分かっています。今後、お会いすることもないでしょう。…ただ、あなたには、血を分けた子供がいる事だけ、把握しておいて頂ければそれで結構です」


 「分かりました。わざわざ、ありがとうございます」


 そうして、話し合いは終了した。

 ルー達三人は、金を受け取らずに帰った。


   ◇   ◇   ◇


 ボーのお腹が段々と膨らんでいった。

 美奈は、心配そうにボーを見る。


 「特別に産婆さんの手配もしたわ。私も出産に立ち合うわよ」


 美奈がそう言うと、ボーが美奈に擦り寄り、ぎゅっ、と抱きついた。


 「…ありがと、(あるじ)。…私ね、ずっと主を、その…、言ってもいい?」


 美奈は、ボーの頭を撫でながら「良いわよ」と言うと、ボーは恥ずかしそうに、


 「………お母さん、ありがとう」


 それを聞いて、美奈は嬉しそうにボーを抱きしめた。


   ◇   ◇   ◇


 蓼科家が用意してくれているマンション兼事務所の一室で、産声が上がった。ボーは、元気な男の子を産んだ。


 「…頑張ったわね。おめでとう」


 産湯で洗われ、真っ白な産着に包まれた赤ん坊を抱きながら、美奈がボーを労う。

 ボーは、赤ん坊の顔を見ながら、


 「…あのね、白虎様の精霊と、夢の中でお話出来たの。でね、白虎の守護石は金剛石(ダイヤモンド)なんだって。…だからね、当て字だけど、『大弥』って名前にしようと思うの…」


 美奈は笑顔で、良いと思うわよ、と言った。


 ―――大弥誕生の知らせを受け、ハチが久吾と美奈、それからチー達三人と、ボーと大弥を研究所(ラボ)に招集した。


 「…手筈通りにいくぞ」


 ハチと久吾は、白虎の精霊の言葉を受け、準備を進めていた。

 ボーは、チー達の前で話がある、と言い出す。大弥は美奈の腕の中に居た。


 「…あのね、ハチさん達に聞いて、私、思ったんだけど、大弥が大きくなって、お兄ちゃん達と同じくらいになるまで、待ってあげて欲しいの。…私の代わりに、一緒に時を、歩んであげて欲しいな」


 少し寂しそうに笑うボーを見て、三人がどういう事だ、と訝しんでいると、ボーは皆に背を向け、祈るように、


 「…精霊様方、大変お待たせ致しました。私の魂を捧げます…」


 すると、ボーの身体が淡く光り、


 「…ごめんね、お兄ちゃん達…。大弥をよろしくね」


 そう言って、そのまま倒れ、ボーの身体は崩れ始めた。

 瞬間、チー、ルー、シンの身体に、激痛が走る。


 「…あ、あ! 痛…! な、何だ!?」


 「…っ! あ! 体が、崩れ…!?」


 叫ぶ三人に久吾が、用意した霊薬をそれぞれの口に含ませる。

 少し痛みが和らぎ、身体の崩壊が止まったようだが、三人は気を失った。


 「急いで運べ! すぐに手術だ!」


 久吾の念動力で、三人の身体は、ふわり、と浮き、台座に並べられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ