12-1 南極宮殿
通報されませんよーに。
―――南極、氷の中の宮殿内にて。
ここは、《3》の領域である。
天蓋付きの大きなベッドの上で、《3》が可愛らしい少女と、互いに裸身で抱き合っている。
少女の歳は十五、六だろうか。金色の巻毛に、白い肌の美少女。
そして、その少女を自分の膝に乗せているのは、やはり美奈と同じ顔立ちだが、少女よりも真っ白な肌、そして、真っ白な長い髪―――。
瞳は紅く、睫毛まで白いこの女が《3》だ。右の胸の上に『ג』の刺青が入っている。
「…あ、ああ…、…んっ、…はぁ、ギメル、さま…」
《3》は、自分の膝の上で腰をくねらせる少女の耳元で囁く。
「…フフ、ここが良いの? オルガ」
オルガの身体が、ピクン、と跳ね上がる。《3》はその指で、オルガの心の声を聞きながら、彼女の触れて欲しい箇所を望むままに触れていく。
「あ、ああっ…、いぃ、…は、あん…、ギメルさまぁ…、あ…、もっとぉ…」
《3》は満足そうに笑って、指を滑らせていく。潤ったその箇所を少し激しく掻き混ぜると、オルガの身体が大きく反応し、堪えきれずに仰け反った。
「…あ、あぁあ、あ…! ダメ、もう…」
《3》はクスクスと笑いながら、
「…可愛い、オルガ…」
そう言うのを聞いて、オルガが《3》の唇に、自分のものを重ねる。
………ふいに《3》が前方に気配を感じると、そこに《2》がいた。
《3》はゆっくりと、オルガから唇を離し、
「………何の用?」
《2》に問いかける。
「…相変わらず下品な行為をしているな、貴様は」
《3》の膝の上で、オルガは《2》の前であるにも関わらす、果ててしまっていた。
自分にもたれかかるオルガを抱き止めながら、《3》は笑顔で、
「暇なんだもの。こうしてあげると、この娘、とっても悦ぶのよ」
そう言いながら、《3》は再びオルガの身体に指を這わせていく。
「…あ、…あぁ、ん…」
喘ぎ始めたオルガを無視し、《2》はため息をつきながら、
「…せっかく面白い報せを持って来てやったのに」
すると、《3》の動きが止まった。
「………早く言いなさいよ」
「…No.37は、日本にいるそうだ」
「!」
途端に、《3》の表情が変わった。
怒っているのか、笑っているのか、分からない。…が、全身が震えている。
「………ギメル様?」
オルガが不安そうに声をかけた。
次の瞬間、《3》の右手がオルガの首に掛かった。
「!? …が、…!」
喉が圧迫され、息が出来ない。《3》は右手でオルガを持ち上げながら、左手で自分の顔を押さえ、
「………やっと見つかった、あの女…! あの能力! あれは私のものよ! 今度こそ、手に入れる!」
右手に力がこもる。オルガの意識は遠のき、ぐったりとしていた。
《2》はその様子を見て、自分の領域に戻っていく。
―――《3》の体の震えが止まり、落ち着きを取り戻したようだ。…が、
「………? オルガ?」
オルガは息絶えていた。首の骨が折れていた。
《3》はため息をついて、
「…《5》、いる?」
どこから現れたのか、唐突に人影がそこにあった。
《3》と同じ顔だが、ここにいる男達と同様に頭を丸め、その右側に『ה』の刺青が入った、黒いローブを着た女性だ。
「…何?」
《5》に問われ、《3》はオルガの亡骸を《5》に見せ、
「可愛かったのに…、残念だわ。処分してくれる?」
《5》はオルガに手を触れず、念動力で自らの前に亡骸を移動させた。
おもむろに《3》が、《5》に、
「…ねえ、日本に行きましょう。手配出来る?」
《5》は目を伏せながら、
「…やってみるわ。人間の組織に色々と調べさせましょう」
先程の《2》との会話を全て把握していたらしい《5》は、そう返事をした。《3》が妖しく笑い、
「ついでに、この娘の代わりを探しましょう。あの国にもきっと、可愛い子がいるはずよ」
《5》は、ふい、と《3》に背を向け、オルガの亡骸をふわふわと宙に漂わせながら、そのまま《3》の領域から退出した。
◇ ◇ ◇
宮殿内を必死に走り回る、薄衣を纏った栗色の髪の美しい女性がいる。
彼女はクレア。《3》が所持する少女達の中でも、もう少女と呼べない最年長の二十歳。
最近は《3》からの誘いもなく、色々不満も溜まっている。
そもそも彼女は、男の方が好きなのだ。
豊満な胸を揺らしながら、走って見つけたのは、
(………いた! ベート様!)
ゆっくりと自分の領域に戻る途中の《2》を見つけ、クレアはその背に抱きつく。
「………?」
《2》が何事かと振り向く。
クレアは《2》の目の前に移動し、
「…やっと見つけました、ベート様」
頬を染めながら、《2》に擦り寄り、
「以前から、お慕い申しておりました…。お願い…、何をされても構いません。貴方のお側に置いて下さい」
瞳を潤ませ、《2》を見つめる。
普通の人間の男なら、すぐに陥落し、抱きしめるなりするだろう。クレアは、男を落とす自分の手管に自信を持っている。
「………何をされても、か」
《2》はそう言うと、クレアを透明の球体に包み、ボウッと業火を起こして、一瞬でクレアを跡形もなく消し去った。
「…《3》の奴、飼ってる者の管理くらい出来ないのか」
そう言って再び帰ろうとする《2》の背に向かって、《5》が声をかけた。
「《2》。これも頼んでいい?」
オルガの亡骸を《2》に見せると、《2》は顔をしかめた。
が、先程と同様に亡骸を消し去った。
《5》は微笑んで「ありがとう」と礼を言い、《2》に背を向けて、自分の領域に戻ろうとすると、
「…待て。貴様、《三桁》に更新をさせようとしたか?」
《2》にそう言われ、《5》は僅かに振り向いたが、含みを帯びた笑みを見せただけで、そのまま行ってしまった。
《2》は、やれやれと首を振り、やっと自分の領域に帰ることが出来た。
《3》の嗜好と残虐性を表現するのに必要なエピソードなのです。
お気を悪くされた方ごめんなさい。