11-9 更新終了
No.93の更新は無事終了した。
「特におかしな感じは無いか?」
ハチに聞かれ、No.93は「大丈夫だ」と答えていた。
久吾はミスターに頼まれ、美奈を連れて研究所に来ていた。
「それで、えーと、No.93さん…? のままで良いのですか?」
久吾が聞くと、美奈が、
「あなたが名前を付けてあげたら? 得意でしょ?」
えぇ? と久吾が困り顔で呻く。ミスターが、
「そうなのかね?」
「そうなんです。うちの子達の名前も、久吾が付けてくれたんですよ」
美奈は嬉しそうに言った。
羽亜人・蔵人・蒼人の名は、大弥の母が我が子に『大弥』と名付けて亡くなった時、その名に合わせて久吾が、出自が中国だった彼らに日本名を付けたのだ。
…しかし、いきなり言われても、と久吾は考える。
ミスターが、No.93に、
「今後、君はどうするのかね?」
と聞くと、
「No.666がいたと云う、マサイマラ保護区に行こうと思っています。私が行けば、微力ながら環境保全にも貢献出来ると思うので」
皆が、それは良いと頷いた。
それを聞いて久吾が、
「…では、『マイシャ』という名はどうでしょう?」
ハチが、なるほど、と頷き、
「マイシャ…、命、か。良いんじゃないか? 動物から転じて、全ての命と共存していく、っていう感じで、良いと思うぞ」
No.93がにこりと笑って、
「ありがとうな、《最後の番号》…、いや、久吾、だな」
久吾も笑って、
「気に入って頂けて良かったです」
と答えた。
すると、美奈が久吾に、
「…じゃあ久吾。私はミスターと少し話をしたら送ってもらうから、あなたは帰って大丈夫よ」
え、と久吾は驚く。今度はハチが、
「おい、久吾。お前、No.93…、じゃねぇ、マイシャを送ってやってくれねぇか?」
久吾はさらに驚く。
「待って下さいよ。私、知らない場所には…」
「はい」
美奈が久吾の手を握り、千里眼で見た場所を情報転送してくれた。
「………」
美奈がニッコリ笑って、「よろしくね」と言った。久吾はやれやれ、と言って、
「では、マイシャさんを送って、私はそのまま帰らせて頂きますね」
そう言うと、マイシャがハチに、
「世話になった。何かあれば、精神感応で連絡させてもらうよ」
久吾とマイシャは、ミスター達と挨拶を済ませ、瞬間移動で行ってしまった。
「………これで良かったのか?」
ハチの問いに「ええ」と答えた美奈は、残った二人に、
「…ごめんなさいね、わがまま言って…」
「構わんよ。それよりも、君が見たという『予知』の事を聞かせてもらおうか」
ミスターにそう言われ、美奈は、
「…その前に、お願いがあるのよ。私が死んだ後の事なんだけど、私が連れていた子供達の事と、…それから私の能力は、《3》に渡さずに、久吾に託して欲しいのよ」
ミスターとハチは驚いた。
「久吾に、か…。それでいいのかね?」
ミスターに言われ、美奈は頷く。
「…《3》に渡るくらいなら、という気持ちもあるけれど、恐らく久吾じゃないと、私の能力は収まらない…。彼の許容量は、それでも余ると思うわ」
「…だろうな。アイツ、それを聞いたら絶対うろたえるだろうな。自分のこと、誰よりアイツが分かってねぇんだ」
ハチがそう言い、ミスターも頷く。
「不思議な事だが、《最後の番号》はそのように生まれついた。育ち方によっては、この地球を支配する事も、滅ぼす事も出来たかも知れん…。『日本』という国と、日本人達の気質が、彼をあのように穏やかに育ててくれたのかもな」
久吾自身は、常にその能力を制限することに細心の注意を払っている。それでつい、何事も面倒だと言ってしまうのだ。
「…そうね。きっと、そうだわ。それに久吾は、相手の魂の色を見て、関わる人間を決めているから…」
美奈はそう言うと、二人に向き直り、
「…それでね、二人とも。私は、多分…」
美奈は自分の死期について、予知した事を話し出した。
◇ ◇ ◇
久吾はマイシャを送り届け、
「何かあれば、私も駆けつけますから」
と、マイシャと言い交わし、挨拶を済ませて家に帰った。
―――慌ただしくしていたので、お茶を淹れて一息入れながら久吾は、
(…久々に思い切り能力を発散出来ましたが、誰かに見せるのは控えないといけませんねぇ…。《一桁》の方なら驚かないと思ったんですが…)
そんな事を考えながら、お茶を飲み終えると作務衣に着替え、子供達の為に桃を剥き始めた。
◇ ◇ ◇
―――話を終え、ミスターと美奈がいなくなった研究所では、動力炉の隣・秘密の小部屋で、ハチが考え事をしているようだ。
目の前には、4つの大きな試験管がある。中に、人体がそれぞれ保存液に入っている。
―――それは、羽亜人、蔵人、蒼人、そして、五体満足の姿のファリダ。
それらを見ながらハチは、
「………戻してやらねぇとなぁ」
そう呟いた。