11-7 八百万の神の国
「連絡なら、ここから出来るだろ。…ていうか、俺が自分で連絡しとくよ」
そう言ってハチが美奈に、精神感応で連絡をする。
その間に久吾とミスターで、No.666の亡骸を回収しておいた。
連絡を終えてハチが戻ると、《7》が、
「…おい。『美奈』と言うのはもしかして、No.37のことか?」
全員が、ギクリ、とした。ミスターが、
「………《7》。よもや、《3》に報告などしないだろうな?」
すると《7》は、
「《3》には報告しない。…が、《2》には言わねばならない。《2》が《3》に言わない事を祈るんだな」
ミスターはため息をつきながら、
「…仕方ないな」
そう言って諦めた。
すると《7》が皆に背を向け、帰ろうとしたところに、ミスターが声をかけた。
「待て、《7》。《2》には《最後の番号》について、どう説明するつもりかね?」
《7》は背を向けたまま、
「…私では相手にならなった、と正直に言いますよ。…それから《最後の番号》、君もNo.37も、日本から出ないことを勧める。このまま平穏に過ごしたければ、な」
言われて久吾は首をかしげる。《7》はそれだけ言うと、瞬間移動で帰ってしまった。
「………今のは、どういう意味ですか?」
久吾がミスターに聞くと、
「『日本』という国は、八百万の神がいると言われているだろう? …だからだ」
「? 意味が分かりません」
久吾が理解出来ずにいると、ミスターは、
「『神』と名のつくものに、手出し出来ないのだよ、我々は。《0》が《一桁》…、最初の10体にそのように設定したんだ。我々は、敵意を持ってあの国に入る事を、許されていないのだよ」
そう言うミスターの言葉を聞きながら、ハチは腑に落ちない表情を浮かべて、
「…それも不思議なんだよな。ノアにとっての『神』は、唯一神だけのはずなのにな…」
「確かにな。…だが、それが『ノア』が《0》となったことに関わっているのかも知れん。…まぁ、真実は《0》のみぞ知る、だがな」
ハチとミスターの会話を聞きながら、久吾は今度、参考までに聖書を読んでみよう、と思っていた。
久吾は、ノアの名だけ、師匠から聞いたことがあった。
―――『…久吾よ。お前、『のあ』という名に聞き覚えはあるか? 多分、お前の祖だと思うが…』
師匠に会って数年してから、自分のことを話した久吾に、師匠はそう聞いた。
なので久吾が、「ありません」と答えると、
『そうか…。異国で『ばいぶる』と呼ばれている書物に書いてあると思うが…。まぁ、あんなもの、お前は読まんでいいからな!』
―――確か、そう言っていたはずだ。それで読んだことがなかったのだ、と思い出した。
何故、師匠は読まなくていいと言ったのか、今となっては知る由もない。
今までそれほど気にしなかったが、読んでみれば色々と分かるかも知れない。今なら師匠も許して下さるかな、と久吾は思った。
◇ ◇ ◇
一通り桃源郷の後始末を終えたら、ミャマの亡骸と共に、ハチ・ファリダ・No.93をミスターが瞬間移動で研究所に送り届けてくれる事になった。
久吾は果樹園を見ながら、
「まだ実が残ってますねぇ…。勿体ない」
そう言うと、No.93が
「良ければ持って帰っていいぞ」
と言うので、「良いんですか?」と聞くと、
「君は思っていた印象と、だいぶ違っていた。もっと、自分は特別だと言って、居丈高な態度の者かと…。勝手な思い込みで、嫌な思いをさせた。せめてもの詫びだ」
久吾は、ありがとうございます、と言って、収穫させてもらった。ESPを使えばあっという間だ。
人間達への最後の挨拶で配るには、充分な量を収穫した。久吾は子供達へのお土産に、少し頂いた。
「勿体ない、という言葉と考え方は、日本のものだな。君は根っからの日本人らしい」
No.93にそう言われ、久吾は
「…そうですかねぇ?」
と首をかしげた。
◇ ◇ ◇
久吾が瞬間移動で家に帰ると、既に真夜中に近かった。
「…やはり時間がかかり過ぎですね」
やれやれと首を振る。
めぇが「お帰りなさいませ」と声をかけてきた。
「ただいま、めぇさん。何か変わったこと、ありましたか?」
「大丈夫ですメよ」
久吾がひと安心して、「お土産です」と桃やキウイ、マンゴーなどの果物をテーブルに広げる。
「「わあ!」」
子供達は喜んだが、「ななさーん、皮剥いてー!」とせがまれたので、一旦冷やしてから剥いて食べることにした。
何度も言いますがこの作品はフィクションで(以下略)。