11-6 ノアの息子
《最初の番号》は、瞬間移動で、すぐに来てくれた。
「これは…、一体何があったのかね」
ハチが事情を話す。
その間に《7》も意識を取り戻したが、目の前に《1》がいることに驚き、大人しくしていた。
「………なるほどな。可哀想に…。No.93、辛かったな…」
「…いえ。いつかはこういう日が来ると思っていましたから…」
No.93の言葉を聞き、ミスターはうなだれた。
しかし、今度は《7》に向き直って、
「…で? 君はこれからどうするのかね?」
ミスターに睨まれ、《7》はたじろぐ。そして、先程暗黒空間で久吾に見せられた技を思い出し、
「…私はもう、《最後の番号》からは手を引きます。あ…、あそこまで化け物だったとは…」
そう震える《7》を見て、ハチとミスターが顔を見合わせ、
「…久吾、君は一体、何をしたのかね」
眉をひそめてミスターが聞くが、久吾は、
「いえ、ちょっと…。昔師匠とやった研究の成果をお見せしただけで…」
すると《7》が、
「そ、そうです! こ、こやつの師匠、ヤフェテと名乗ったと…!」
「!?」
ハチとミスターが驚く。No.93もだ。
分かっていないのは、久吾とファリダだけだ。
「ヤフェテだと…!? 会ったのか!? 久吾!」
「ヤフェテだったと、師匠は仰っていましたよ。お会いしたのは京の都の外れで、徳川家が開府してすぐの頃でしたか…」
「何という…。というか、久吾。…もしかして君は、旧約聖書を知らんのかね?」
「え?」と久吾は首をかしげる。
「すみません。私、表向きは一応僧侶だったので、仏典は一通り読みましたが、聖書は読んでなくて…」
するとハチが教えてくれた。
「いいか、久吾。俺らの祖は《0》、人間達が言うところの『ノア』だ。で、ノアには三人の息子がいたんだ。その名は、セム、ハム、そして、ヤフェテ、だ」
「! そうなんですか!?」
今度は久吾が驚いた。ハチの説明に、ミスターが補足する。
「方舟の話が有名だが、ノアは全ての人の祖と言われている。…まぁ、人間が編纂した書物だし、全てを鵜呑みにするのはどうかと思うが、我々の祖である《0》に息子らがいたのは事実だ。…まさか、ヤフェテが記憶を維持しながら生まれ変わっていたとは…」
「………」
久吾は師匠と出会った時の事を思い出していた。
確かに彼女は、久吾の顔を見て驚いていた。そしてヤフェテの名を出してきたのだが、久吾には、それは知る由もないことだった。
「まぁ、昔の話ですからね。途中で師匠のヤフェテの記憶は、消えてしまいましたから…」
ミスターとハチは、そうか、と頷き、
「不思議なこともあるもんだな。まぁ、いいか。…それよりもだ。《7》をどうしますか? ミスター」
ハチがそう言うと、ミスターは、
「そうだな…。《7》よ。No.666に更新を約束した、と? どういう事だ」
「……………」
《7》は答えない。
「更新に耐えうるのは、《一桁》か特殊変異型…。確かに条件は満たしているが、君の独断ではあるまい?」
「…No.666から持ちかけられたんですよ。《最後の番号》を連れて来る代わりに、更新をして欲しい、とね」
それを聞いて、ふむ、とミスターが考える。
「No.666からの情報が欲しかったな…。この件については、少し考えねばならん。…それから、君はこれからどうするね? No.93」
「………とりあえずは、死んでしまった同胞達を葬ってやらねば、と思います」
皆で、そうだな、と頷くが、《7》が、
「No.666も一緒に葬るのか?」
と聞いた。するとハチが、思いついたように、
「そうだ、No.93! お前さん、アイツを使って更新してみねぇか?」
え!? と皆が驚く。ハチは慌てて続ける。
「だってよぉ、能力的には便利だろ。…それに、俺はNo.93なら、良い形で能力を使ってくれると思うけどなぁ」
ミスターが、ふむ、と頷いて、
「…引き継ぐ能力には、制限と調整が必要かも知れん。全て引き継ぐとなれば、脳に過負荷がかかる可能性がある。やるなら私も手伝おうか」
何となく、更新をする方向で話が進んでいる。あとはNo.93次第だが、
「…良いんですか? 更新は《一桁》の専売特許じゃ…」
すると《7》が、
「我等は動植物に関わる能力を欲しない。興味が無いんだ。…関心があるのは、人間を制する圧倒的な力と、人心を操る能力だからな」
そうなのか、とNo.93は納得した。
「そうですね…。私で良ければ、引き継ぎますよ。ハチさんなら、お任せ出来ます」
話が決まった。
ひとまず、同胞達を葬ったあと、近隣の村々へ挨拶をしたいとNo.93は言った。
「この果樹園の作物は、時々周りの人間達に収穫してもらっていたんだ。腐らせるのは忍びないからな」
桃源郷の噂は、それで広まっていったのだろう。
果樹園はこのまま、同胞達と一緒に封印する。桃源郷は消えるが、仕方がない。
「じゃあ、私は一旦帰って良いですか? 美奈さんにも報告しないと」
久吾が言った、美奈、という言葉に、《7》は、ピクッ、と僅かに反応した。
この作品はフィクションです。
フィクションですってば。
その筋からクレーム来ませんように。