11-5 存在意義
ミャマとNo.93の戦いは続いている。ファリダは操られている動物達に手加減する余裕が無く、容赦なく倒している。ハチが必死に叫ぶ。
「もうやめろ! ファリダ! コイツ等、操られてるだけなんだぞ!」
「分かってる! 分かってるけど…、ハチを傷つけさせる訳にいかない!」
相手は肉食獣だ。殺意をもってその牙を向けられれば、ファリダとてただでは済まない。こちらも本気で立ち向かうしかない。
No.93も蔓を伸ばし、肉食獣達を捕えているが追いつかない。彼は草木の家が気がかりなのだが、ミャマに阻まれ続けている。
「…皆、無事でいてくれ!」
それを聞き、蔓に絡まれたままミャマが笑う。
「バカだな! 無事な訳ないだろ! とっくに皆死んでるよ! ハハ!」
ハチがミャマに向かって叫ぶ。
「…お前、相手は同胞だぞ! 何でこんな事出来るんだよ!」
「知らないね! 何が同胞だよ! そっちこそ《一桁》のクセに、甘すぎるんだよ!」
―――突如、雷が爆音と共に落ちた。
雷は、ミャマを直撃し、それと共に久吾と《7》が姿を現した。
《7》は久吾に抱えられている。
「………が、は……」
雷によって焦げたミャマは、そう呻いた。それを最後に、どうやらこと切れたようだ。
すると動物達が、ミャマの支配から解放され、襲ってこなくなった。
No.93は、動物達の拘束を解いてやった。
「…すみません、少し手間取ってしまいました」
久吾がそう言うと、ハチが驚きながら、
「………雷、お前の仕業か?」
「はい。先程の《7》さんの技を真似てみたんですが、上手くいきましたね。加減が調節出来ず、ミャマさんには申し訳ないことを…」
久吾がすまなそうに言うと、ハチは笑い出した。
「…ハ、ハハハ、…ホント、デタラメなヤツだよ、お前は」
そう言って久吾の肩を叩いた。
No.93は、急いで草木の家に向かって走り出した。
「俺らも行くぞ!」
皆でNo.93の後を追う。
◇ ◇ ◇
―――中は非道い有り様だった。
残っていた《三桁》達は、全員食い千切られ、引き裂かれて死んでいた。
「………っ、何という…」
No.93がその場に伏し、泣いている。
その様子に、久吾は少し驚いた。
(…我々に、仲間を思って涙を流すことが出来る者がいるとは…)
そして、
「…私達、このように死んでしまうこともあるんですね…」
そう久吾が呟くと、ハチが、
「…《三桁》は寿命が短いだけでなく、能力も人間と殆ど変わらねぇのが多いんだ。違うのは、何も摂取せずとも身体が維持出来て、年を取らねぇってことくらいか…」
「…何もしなければ、人形と変わりません。彼等は、それで良かったんでしょうかね…」
「………」
久吾の言葉に、ハチもNo.93も返す言葉が出なかった。
少し考えて、No.93が静かに言った。
「…確かにそうだな。人形、か。…私も、彼等を守ることばかり考えて、そういう、『生き甲斐』というか…、我々が生きる意味など、考えたこともなかったな」
マルグリットのように、手に職を持って人間社会に溶け込んでいる同胞もいる。
そう考えれば、保護区で動物達と接してきたミャマも、存在意義を見出していたのかも知れない。おかしな欲さえ持たなければ、今も普通に過ごしていたはずだ。
ここにいた《三桁》達のように、ただそこにいて、存在しているだけと言うのは、果たして生きていると言えるのだろうか…。
久吾はそう思ったのだが、そういえば人間でも、目的や生き甲斐を持たず、ただ生きているだけの者もいるという。一概には非難出来ないのかもしれない。
そう考え、久吾は、
「…いえ、もっと時間があれば、何かしらの生き甲斐を見いだすことが出来たかも知れません。やはり、無念ですよ…」
そう言って、うなだれた。
とにかく、このままにしておくのは不憫である。
「どうしましょう、穴を作って埋めますか?」
久吾が言うと、No.93が「いや」と言って、皆を外に出した。No.93は、
「鳥達や動物達の死骸もある。全て緑の結界に封じようと思う」
ハチも久吾も、なるほどと思い、No.93に任せようとした時、《7》が「…うぅ」と呻いた。
ハチが驚いた。
「お前…! 殺さなかったのか!?」
その言葉に、久吾が驚いた。
「ハチさん、ひどいですよ。殺す必要ないでしょう。…何しろ彼は《一桁》ですよ」
またハチは頭を抱え、
「ちょっと待ってろ。もう俺の手に負えねぇよ。…No.93、精神感応はもう使えるんだろう?」
No.93が頷いた。するとハチが、どこかに連絡をする素振りを見せた。
「ハチさん、誰に連絡を…」
「こうなったら、頼みの綱はあの人しかいねぇよ」
そう言って連絡した先は、
((…ミスター、すまねぇ。すぐ来てもらえますか?))