11-4 《7》
「結界…、鉄壁じゃなかったのかよ」
ハチが呻く。が、No.93は結界の隙をついたものが何なのか気づいた。
「…昆虫か」
「!? アイツ、虫とも意思疎通出来るのかよ!」
「らしいな。草木の維持に、昆虫の協力は必須だ。それを逆手に取られた」
No.93は、憤りながら言った。
鳥達の攻撃で、上空は完全に開いてしまった。可哀想な鳥達の死骸に目を背けたくなる。久吾は、
「非道い…。…これは意思疎通と言うより、支配して操っただけでは…」
するとミャマは笑いながら、
「そうだよ。俺も『特殊変異型』だからな。大体、支配して操るなんて、人間達もやってるじゃないか。それも人間同士でさ。戦争なんて、正にそうだろ。ハハ」
そう笑った次の瞬間、ミャマの合図でトラやヒョウなど数百頭の肉食獣達が、上から中に入ってくる。久吾達は身構えるが、動物達の向かった先は、草木の家だった。
「…不味い! 中には《三桁》達が…!」
No.93が言う間もなく、草木の家は動物達によって踏みにじられた。悲鳴が聞こえる。
久吾達が家に向かおうとしたその時、雷が、爆音と共に目の前に落ちた。
―――落ちたその場に、黒いローブを着た、自分達と同じ顔の男が姿を現した。同じ顔だが、その頭の右側には刺青があり、大きく『ז』と描かれている。
「………《7》!」
ハチが叫んだ。《7》は静かに笑ってハチを見た。
「…久しぶりだね、《8》」
そう言って、次はミャマを見る。
「良くやった、No.666。よくぞ《最後の番号》を連れて来たな。《2》の下に連れて行けば、かなりの恩を売ってやれる」
ミャマは笑って、
「約束、忘れないで下さいよ。俺も更新させてくれるっていう、ね」
「…善処しよう。素材は自分で探して確保したまえ」
するとミャマは、久吾を見ながら、
「アレが良いんですがねぇ」
《7》はミャマを睨みつけ、
「…《2》に殺されるぞ」
「おぉ、恐い。冗談ですよ」
ミャマはそう笑って、
「…じゃあ、ひとまずアレにするか。動物・植物と支配出来れば、相当だろ」
標的をNo.93に決めたようだ。No.93は、
「貴様にこの能力は渡せないね。私は『共存』はしても、『支配』など断じてしない」
「アンタは、な。俺は上手く使ってやるよ」
そう言うミャマの手足を、シュルシュルと伸びた蔓の束が掴む。
「!」
No.93の能力だ。数百本の蔓が、ミャマを拘束する。が、ミャマの合図で動物達が数頭、ミャマのもとに走り寄り、蔓を引き千切る。
No.93は更に蔓を増やし、動物達をも拘束していく。
「クソ!」
ミャマは、残っていた鳥達に合図を送った。今度は鳥がNo.93を襲う。
「…! 緑の結界…、間に合わない!」
No.93が目を閉じて身構えた瞬間、ジュッ! と何かが焼き切れるような音がした。目を開けると、ファリダがレーザーで鳥を撃退していた。
「ファリダさん! 鳥が…」
「今はそんな事、言ってられないだろう!」
ファリダが加勢に入った。だが、ファリダが最優先で守るのはハチだ。
久吾がNo.93に加勢しようと動いた瞬間、足下を地鳴りが襲った。
「! これは…」
「…君の相手は私だよ、《最後の番号》」
《7》が久吾の行く手を阻んだ。《7》の指揮で、周辺の空気が渦を巻き、自らの周りを取り囲む。
「動くなよ。動けばこの空気の刃で、この一帯全てを切り刻む」
そんなことをすれば、ハチ達だけでなく、近隣の人間たちにも危害が及ぶ。
「久吾! 気をつけろ! 《7》は大気と大地…、自然現象を操るんだ!」
ハチが叫ぶ。久吾はなるほど、と思い、
「…ならば、こうしましょう」
指をパチン、と弾いた。
瞬間、久吾と《7》の姿が消えた。
「…え?」
ハチ達が、呆気に取られた。
◇ ◇ ◇
《7》は何が起こったのか分からなかった。いきなり辺りが、真っ暗な空間に変わった。
「…何をした? 《最後の番号》」
「自然現象を操るそうですから、何も無い暗黒空間に移動しました。これで純粋に、互いの力比べになりますかね」
さらりと久吾は答える。
「………舐めてるのか、貴様。私は《一桁》だぞ」
「知りませんよ。あなたはハチさん達を傷つけようとしたんですから、仕方ないでしょう」
だが、久吾は少し考える。
「…でも、そうですね。《一桁》に手出しすれば、私、ものすごく怒られますかね?」
「………貴様ぁああ!!」
《7》は怒り狂った。
久吾にそのつもりはないのだが、完全に相手の自尊心を傷つけたようだ。
《7》が攻撃を仕掛けてくる気配がした。思わず久吾は、自らを透明の球体で包もうとしたが、球体はパチンと弾け、消えた。
「おや?」
《7》が静かに言う。
「バリアボールなど作らせん。傷つけるつもりはなかったが、仕方ない」
仕切り直し、思念波を撃ち込んできた。だが、久吾はそれに手をかざして相殺した。
「!?」
久吾は、やれやれと首を振りながら言った。
「…私の陰陽術の師匠なんですがね。ちょっと変わった方だったんです。『自分はヤフェテだった』とか仰ってましたが…」
それを聞いて、《7》が
「!? …ヤフェテ、だと!?」
「? ええ、お会いした時はまだ七つの子供だったんですが、陰と陽の融合、とでも言いますか、陰陽術を応用して、別方向から五行を構築する研究をしてましてね。…ただ、普通にやっていては実現不可能だったんですが、私が協力することで完成したんです」
《7》は訳が分からなかった。ヤフェテの名が出たことといい、何故《最後の番号》がこのような話をするのか、と。
久吾は続ける。
「基礎的な符術も修行の一環で学びましたが、それとは別に、研究の方は陰陽術とESPを合成させた事で完成しました。実現した時点で師匠は、ヤフェテの記憶が消えたんですがね」
「…つまり、何が言いたいんだ?」
久吾は楽しそうに笑って、
「こういう所でないと、思い切り技を発することが出来ないんですよ。せっかくの機会ですから、師匠の研究の成果をお見せします」
闇の中で、《7》の目前に巨大な光が出現し、渦を巻き始めた。