表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/194

11-3 特殊変異型

 「おい、そんなにはっきり言わなくたっていいだろ」


 ハチがそう言うが、No.93は続ける。


 「ハチさん、あなたには感謝している。でも《最後の番号(ラストナンバー)》がここにいることが《一桁(ウーニウス)》に知れたら…」


 「お前さんの結界は鉄壁じゃねえか。精神感応(テレパシー)まで遮断するくらいだぞ」


 そうハチは言うが、No.93は久吾に向かって、


 「《一桁(ウーニウス)》のことだけじゃない。皆、君には良い印象を持っていない。君は『特別』だからな。《(エフェス)》も、《(アレフ)》も、君を特別扱いだ」


 久吾は驚いて、ハチに尋ねる。


 「…そうなんですか? 初めて聞きました」


 ハチは頭を抱えていた。そして、


 「………だから、本当はお前に来て欲しくなかったんだよな。…久吾、お前、日本から出たこと無ぇだろ」


 「そんなことありませんよ。よくハチさんの所に行ってるじゃないですか」


 「それは日本から出たことにならねぇよ。…とにかくだ。俺も本当はお前を、他の連中に会わせたくなかったんだ。自覚は無ぇだろうが、お前は俺らの中でも、最も特別な『特殊変異型(バリアント)』なんだよ」


 久吾は困惑した。

 自分が特殊なのは、人間の魂色が見えることくらいだと思っていた。後は《(ミスター)》と一緒で、霊が見える程度だ。しかし、


 「美奈のヤツも、ここにいるNo.93も『特殊変異型』なんだ。特に美奈はあの変態女…、《(ギメル)》に狙われてる。お前も《(エフェス)》と《(ミスター)》が何も言わなけりゃ、とっくに《(ベート)》に吸収されてるとこだったんだけどな」


 ハチに言われて、久吾は、


 「それは聞いてますが…。私、そんなに特殊なんですか?」


 まだ困惑していた。


 「…お前さぁ、この間の基地でも、全然本気出してなかったろ。ESPも、使おうと思えば使えたんじゃねぇのか?」


 「………」


 ハチの言う通りだった。久吾はあの時、シールドを上回るESPを使うのが面倒だったのと、符術だけで充分対応出来る、と踏んでいたのだ。


 「お前の潜在ESPは、他の連中と比べたら桁違いなんだよ。おまけに霊力を使ったり、持ち前の勤勉さでもって陰陽術まで極めてやがる。そんな奴、同胞の誰にもいねえんだ。特にESPは、全盛期の《(エフェス)》並だろ」


 「…陰陽術は十年ほどかじった程度なので、極めてはいませんけどね。…でも、知りませんでした。皆、私と同等かと…」


 ハチはまた、頭を抱えた。


 「…そういう奴だよ、お前は」


 すると、No.93が、


 「とにかく、だ。特別扱いされてる上に、平和な日本でぬくぬくと過ごしていた君とは、相容れない。長旅ご苦労だったが、帰ってくれ。ハチさんは、転移門(ゲート)の修理が終われば研究所(ラボ)に戻るから、安心したまえ」


 え、と久吾は驚いた。


 「転移門(ゲート)、壊れてたんですか?」


 「ん…、すぐ直そうと思ったんだがな」


 ハチはそう言い黙ってしまったが、恐らく《三桁(トリプレクス)》達を心配して残っていたのだろう。

 それは分かったが、No.93に言われたことに対し、久吾は少し憤りを感じて言った。


 「…お言葉ですが、日本が平和になったのは、ごく最近ですよ。私は戦国の世から、ずっと戦乱を見てきました。徳川家が統治していた頃ですら、(いくさ)は無くとも身分制度による様々な軋轢(あつれき)があり、平民はいつ斬り殺されても文句を言えず、あの大戦では原爆まで落とされ、大多数の人々は皆、大変な思いをして生きていました。…日本(あの国)は、最近ようやく平和になったんです」


 久吾にしてみれば、戦乱の世に身を置いていた時期の方が長い。いつの世も、どの世界でも、弱者は厳しい扱いを受ける。久吾はこれまで、そういう者達に寄り添って過ごしてきた。

 ―――そう聞いて、No.93は少しうろたえた。


 「………そうか。すまなかった…」


 素直にそう言われ、久吾は、


 「…私こそ、少し言い過ぎました。…ただ、私がここに来たのは、ハチさんの事だけでなく、そこのミャマさんに頼まれて…」


 そう言って、ミャマを探す。

 だが、どこへ行ったのか、ミャマが見当たらない。ハチが、


 「おい。そのミャマって奴、お前、知り合いだったのか?」


 久吾は「え?」と聞き返し、


 「…ハチさんがご存知の方じゃないんですか?」


 「俺は、初めて会ったぞ」


 No.93が、


 「彼の番号は?」


 「No.666、獣の番号とか仰ってましたよ」


 それを聞いて、ハチが考え込む。そして、


 「…アイツ、お前のところに来たってか? お前の家には、俺が作った結界張ってあったよな」


 「そうです。動物達に協力してもらったと言っていましたが、どのようにしたのか…。ただ、ハチさんの消息を知っているとのことで…」


 「そうじゃねぇ。要は俺の結界を相殺したってことだろ? この間みたいに…」


 久吾も、あ、と気付く。


 「…もしかして彼は、《一桁(ウーニウス)》と繋がりがある、と?」


 皆が緊張した。即座にハチが動いた。


 「アイツを探せ! 久吾! アイツの能力、何か聞いてるか!?」


 「動物達と意思疎通出来る、と言っていました」


 No.93が動く。


 「緑の結界内中央に、気配を感じる! 恐らくヤツだ! No.666は果樹園にいる!」


 久吾、ハチ、No.93が急いで外に出る。

 他の《三桁(トリプレクス)》達は、何事かとその様子を見ていたが、自分達が動く気配は無かった。


   ◇   ◇   ◇


 果樹園の中央で、ミャマが天を仰いでいる。

 先程まで彼は、虫達に指示を与えていた。

 今、緑の結界上空には、数千羽のあらゆる鳥達が集まっている。

 ミャマは、肩に止まっていた蜂に指示を出した。


 「………突撃開始だ」


 蜂は空中に飛び上がり、葉の隙間を抜けて結界の外に出た。

 次の瞬間、上空に衝撃が走る。ドドドド…、といくつものミサイルが撃ち込まれているように聞こえた。


 「!?」


 外に出た久吾達は、目を見張る。

 鳥達が結界の真上から、その身を犠牲にして特攻していた。捨て身の攻撃のせいで、鳥達が地面に伏していく。

 

 「…何ということを!」


 No.93が叫ぶ。結界が破られる事への憤りもあるが、犠牲になった鳥達が不憫だった。それは、久吾達も同じ気持ちだ。

 だがミャマは、笑っている。


 「ハハハ、ありがとな、《最後の番号(ラストナンバー)》! これで《(ザイン)》様が来られるようになったよ!」


 笑いながらミャマは、そう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ