11-3 特殊変異型
「おい、そんなにはっきり言わなくたっていいだろ」
ハチがそう言うが、No.93は続ける。
「ハチさん、あなたには感謝している。でも《最後の番号》がここにいることが《一桁》に知れたら…」
「お前さんの結界は鉄壁じゃねえか。精神感応まで遮断するくらいだぞ」
そうハチは言うが、No.93は久吾に向かって、
「《一桁》のことだけじゃない。皆、君には良い印象を持っていない。君は『特別』だからな。《0》も、《1》も、君を特別扱いだ」
久吾は驚いて、ハチに尋ねる。
「…そうなんですか? 初めて聞きました」
ハチは頭を抱えていた。そして、
「………だから、本当はお前に来て欲しくなかったんだよな。…久吾、お前、日本から出たこと無ぇだろ」
「そんなことありませんよ。よくハチさんの所に行ってるじゃないですか」
「それは日本から出たことにならねぇよ。…とにかくだ。俺も本当はお前を、他の連中に会わせたくなかったんだ。自覚は無ぇだろうが、お前は俺らの中でも、最も特別な『特殊変異型』なんだよ」
久吾は困惑した。
自分が特殊なのは、人間の魂色が見えることくらいだと思っていた。後は《1》と一緒で、霊が見える程度だ。しかし、
「美奈のヤツも、ここにいるNo.93も『特殊変異型』なんだ。特に美奈はあの変態女…、《3》に狙われてる。お前も《0》と《1》が何も言わなけりゃ、とっくに《2》に吸収されてるとこだったんだけどな」
ハチに言われて、久吾は、
「それは聞いてますが…。私、そんなに特殊なんですか?」
まだ困惑していた。
「…お前さぁ、この間の基地でも、全然本気出してなかったろ。ESPも、使おうと思えば使えたんじゃねぇのか?」
「………」
ハチの言う通りだった。久吾はあの時、シールドを上回るESPを使うのが面倒だったのと、符術だけで充分対応出来る、と踏んでいたのだ。
「お前の潜在ESPは、他の連中と比べたら桁違いなんだよ。おまけに霊力を使ったり、持ち前の勤勉さでもって陰陽術まで極めてやがる。そんな奴、同胞の誰にもいねえんだ。特にESPは、全盛期の《0》並だろ」
「…陰陽術は十年ほどかじった程度なので、極めてはいませんけどね。…でも、知りませんでした。皆、私と同等かと…」
ハチはまた、頭を抱えた。
「…そういう奴だよ、お前は」
すると、No.93が、
「とにかく、だ。特別扱いされてる上に、平和な日本でぬくぬくと過ごしていた君とは、相容れない。長旅ご苦労だったが、帰ってくれ。ハチさんは、転移門の修理が終われば研究所に戻るから、安心したまえ」
え、と久吾は驚いた。
「転移門、壊れてたんですか?」
「ん…、すぐ直そうと思ったんだがな」
ハチはそう言い黙ってしまったが、恐らく《三桁》達を心配して残っていたのだろう。
それは分かったが、No.93に言われたことに対し、久吾は少し憤りを感じて言った。
「…お言葉ですが、日本が平和になったのは、ごく最近ですよ。私は戦国の世から、ずっと戦乱を見てきました。徳川家が統治していた頃ですら、戦は無くとも身分制度による様々な軋轢があり、平民はいつ斬り殺されても文句を言えず、あの大戦では原爆まで落とされ、大多数の人々は皆、大変な思いをして生きていました。…日本は、最近ようやく平和になったんです」
久吾にしてみれば、戦乱の世に身を置いていた時期の方が長い。いつの世も、どの世界でも、弱者は厳しい扱いを受ける。久吾はこれまで、そういう者達に寄り添って過ごしてきた。
―――そう聞いて、No.93は少しうろたえた。
「………そうか。すまなかった…」
素直にそう言われ、久吾は、
「…私こそ、少し言い過ぎました。…ただ、私がここに来たのは、ハチさんの事だけでなく、そこのミャマさんに頼まれて…」
そう言って、ミャマを探す。
だが、どこへ行ったのか、ミャマが見当たらない。ハチが、
「おい。そのミャマって奴、お前、知り合いだったのか?」
久吾は「え?」と聞き返し、
「…ハチさんがご存知の方じゃないんですか?」
「俺は、初めて会ったぞ」
No.93が、
「彼の番号は?」
「No.666、獣の番号とか仰ってましたよ」
それを聞いて、ハチが考え込む。そして、
「…アイツ、お前のところに来たってか? お前の家には、俺が作った結界張ってあったよな」
「そうです。動物達に協力してもらったと言っていましたが、どのようにしたのか…。ただ、ハチさんの消息を知っているとのことで…」
「そうじゃねぇ。要は俺の結界を相殺したってことだろ? この間みたいに…」
久吾も、あ、と気付く。
「…もしかして彼は、《一桁》と繋がりがある、と?」
皆が緊張した。即座にハチが動いた。
「アイツを探せ! 久吾! アイツの能力、何か聞いてるか!?」
「動物達と意思疎通出来る、と言っていました」
No.93が動く。
「緑の結界内中央に、気配を感じる! 恐らくヤツだ! No.666は果樹園にいる!」
久吾、ハチ、No.93が急いで外に出る。
他の《三桁》達は、何事かとその様子を見ていたが、自分達が動く気配は無かった。
◇ ◇ ◇
果樹園の中央で、ミャマが天を仰いでいる。
先程まで彼は、虫達に指示を与えていた。
今、緑の結界上空には、数千羽のあらゆる鳥達が集まっている。
ミャマは、肩に止まっていた蜂に指示を出した。
「………突撃開始だ」
蜂は空中に飛び上がり、葉の隙間を抜けて結界の外に出た。
次の瞬間、上空に衝撃が走る。ドドドド…、といくつものミサイルが撃ち込まれているように聞こえた。
「!?」
外に出た久吾達は、目を見張る。
鳥達が結界の真上から、その身を犠牲にして特攻していた。捨て身の攻撃のせいで、鳥達が地面に伏していく。
「…何ということを!」
No.93が叫ぶ。結界が破られる事への憤りもあるが、犠牲になった鳥達が不憫だった。それは、久吾達も同じ気持ちだ。
だがミャマは、笑っている。
「ハハハ、ありがとな、《最後の番号》! これで《7》様が来られるようになったよ!」
笑いながらミャマは、そう言った。