幕間 ふーちゃんの本音
最近の名奈家では、もつこがテレビを見ていることが多い。この日も、もつこは何故かワイドショーを見ながら、「ふむふむ」と頷いている。
分かっているのかいないのか、そんなことは気にせず、ふーちゃんは、
「フフ、今日ももつこちゃん、可愛い」
と、喜んでいたが、CMが流れた時、もつこが「あ!」と声を上げる。
「ふーちゃん! たいへん! 大福アイスに期間限定スペシャルイチゴ味よ!」
ふーちゃんが「え!?」と驚く。
急いでみー君に精神感応を送るが、
((えー? お金持ってきてなーい))
みー君はそう返事をした。羽亜人と買物に行っためぇに頼もうかとも思ったが、ふーちゃんは、
「…もつこちゃん、たまにはお出かけ、する?」
にっこり笑ってそう言うと、もつこは「する!」と元気よく返事をした。
引出しのお財布から少々拝借し、二人はちょっとそこのコンビニまで、お出かけすることにした。
◇ ◇ ◇
(…この辺りじゃなかったかしら…)
駅前の繁華街を抜けた辺りを、老年にしては派手な身なりの女性がウロウロしていた。
彼女は雪江という。
娘がいたが、再婚相手が娘に手を出し、一時は娘に殺意すら覚えたが、娘が出ていったことで落ち着き、しばらくは再婚相手と仲良く過ごしていた。
…が、再婚相手はいつの間にか、別の女と子供を作っていた。
慰謝料をたっぷり頂いて別れたが、一人になってしまったので、いなくなった娘と連絡を取ろうとしたが、出来なかった。
一度だけ、娘から「結婚する」と連絡があった。
絶縁宣言も兼ねた連絡だったので、そのままにしていたが、調べてみると娘は既に故人となっていた。
慰謝料を使ってさらに調べてみると、孫の存在が分かった。
そして今日、祖母の立場を利用して、孫の家に厄介になるべく向かおうとしていたのだ。
すると、娘によく似た高校生らしき男の子が、買物袋を下げて歩いているのを見かけた。雪江は、
(…あの子、娘に似てるわね。多分、あれが私の孫、ってことね)
ニヤリと笑って、その男子高校生に声をかけようとした時、
「裕人君に何のご用?」
雪江は声をかけられた。白いアザラシのぬいぐるみを抱いた、栗色の髪の可愛らしい少女だった。
「…え? あ、あなた、あの子のこと、知ってるの?」
聞いてみたが、少女はこちらをじっと見ている。少し不気味な気配がして、雪江は、ぞくっ、と背筋が寒くなった。
日が落ちたのか、やけに周りが静かになり、妙に暗くなった気がする。
…そんな中で、少女が雪江を見ながら口を開いた。
「………私ね、ホントは人間なんて大キライなの。でもね、私が大好きな、あの優しいななさんが大事に思ってる人達は、私も好きになろうと思ってるの」
雪江には何のことか分からない。少女は続ける。
「…だからね。その人達を傷つけようとする人間は、消してもいいかな、って思うのよ」
ニッコリと笑うが、雪江は何故か恐怖を覚えた。
逃げ出そうとしたのだが、不思議なことに見えない壁がある。
「…ちょ、何!? 何、これ…」
すると少女は、
「私達はね、簡単な『魔法』を使えるように、最初からミスターが設定してくれているの。これは簡単な『結界』よ。簡単だけど、普通の人間には解除出来ないわ」
そう言うと、どこからともなく、白と金のキラキラしたもやが立ち昇り、雪江の身体を包み始めた。
「! な、何? 綺麗…」
雪江が見とれていると、いつの間にかその背に翼を広げた少女は、
「これは私達『天使』が能力を解放する時に起こる現象…。ななさんはこれを見て、人間が心の底から幸せを感じる時に発現する魂の色を、『天使の魂色』と名付けたけれど…」
そこまで言い、少女は目を閉じ、歌いだす。不思議な響きだ。
…しかし、その唄に合わせて、美しいもやは雪江の身体を蝕み、指先から塵となっていく。
「…あ、ああ! 何これ…、嘘…、イヤ…!」
―――歌い終わった時、雪江の姿は、跡形もなく消え去っていた。
「………私達の『色』は、ななさんが人間から読み取る魂色とは違うのよね、きっと」
結界を解きながら、ふーちゃんはそう呟いた。
◇ ◇ ◇
期間限定のスペシャルイチゴ大福アイスを袋いっぱいに買い、ふーちゃんともつこは帰路の途につく。
「…ふーちゃん、人間、キライなの?」
人通りの少なくなった道で、もつこが尋ねる。ふーちゃんは、少し申し訳なさそうに笑って、
「ごめんね、怖がらせちゃった?」
聞くともつこは、
「ううん、もつこ、もうぬいぐるみだし」
そう言うと、ふーちゃんはもつこを抱きしめ、
「…もつこちゃん、大好き。私ね、ななさんも、みー君も、めぇちゃんも、もっちーも、大好きよ」
もつこは「うん」と答える。
ふーちゃんともつこは、無事に家に辿り着き、
「じゃーん! お土産! もつこちゃんと二人で行ってきたのよ!」
おお! とみー君達が喜んでくれた。
仲良くスペシャルイチゴ大福アイスを食べながら、もつこは、
(…ホントはちょっぴり怖かったけど、もつこ、ふーちゃん大好きだもん)
そんなことを考えながら、ニコニコ笑うふーちゃんを見ていた。
これは彼女出てないからギリセーフ。
次、更新遅れます。すみません。