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10-2 事件勃発

 朝練を終えてからも、今日の裕人は集中力散漫だ。授業中も考えるのは、新しいマネージャーの彩葉(いろは)先輩のことだ。


 (…あんな(ひと)、いたんだなぁ…。1つ上かぁ…。可愛かった…)


 放課後になり、部活の時間だ。


 「裕人ぉ、行くぞー」


 「あ、僕、先にトイレ」


 じゃあ先に行くぞ、と蓮に言われ、裕人はトイレに行くフリをして、上の階の、二年生のフロアを覗き見する。もしかしたら、制服姿の彩葉先輩が見られるんじゃないか、と思った。


 すると、ちょうど彩葉が重そうな荷物を持って、向かいから歩いてきた。制服姿だ。髪を下ろしている。可愛い。

 裕人は心の中で、やった! とガッツポーズを取っていると、彩葉が声をかけてきた。


 「…あれ? えーと…、裕人君?」


 「はぇっ!? え、い、彩葉、先輩…」

 

 びっくりして、変な声が出た。でも、名前を覚えててくれたことに、思わず顔がほころぶ。


 「これから部活だよね。どうしてこんなとこにいるの?」


 「いえ、あの、その…。あ! 僕、それ、持ちますよ!」


 段ボールに入った荷物を奪う。意外と軽かった。


 「え、えぇと、ありがとう。下の階の茶室に持って行くんだけど…、サッカー部、大丈夫? 私も後で行くけど」


 「だ、大丈夫です! お手伝い終わったら、すぐ戻るんで!」


 言いながら、裕人は自分でびっくりした。


 (…僕って、意外と行動力あるんだなぁ…)


 そう思いながら階段を降りていく。隣に彩葉先輩がいると思うと、妙に気持ちが浮き立った。


 「彩葉先輩、マネージャーって朝も早いけど、学校、どうやって来てるんですか?」


 「あ、私、親戚の家から歩いて通ってるの。実家は、山梨なんだ」


 え、と裕人は驚いた。


 「そうなんですか…。大変ですね」


 そう裕人が言うと、彩葉はクスクス笑って、


 「そうかな。でも、おばあちゃんが、『東京の学校に行きたいなら、行っといで』って言ってくれたから…。それに…」


 そこまで言って、もうすぐ茶室に到着するという時に、目の前に、どう見ても学校とは関係のなさそうな男がいた。


 「え?」


 キャップを被った男だが、挙動がおかしい。その手には、ナイフを持っている。


 「!」


 二人で思わず固まってしまった。

 男は踵を返し、二人の反対側へと走っていくと、廊下の突き当たりの資料室に入っていった。


 「………何? 今の…」


 彩葉が呆気に取られ、そう呟くと、裕人は、


 「…せ、先生! 先生達に、伝えないと…!」


 そう言って、職員室に向かおうとした時、外からパトカーのサイレンが聞こえた。

 すぐそばで数台のパトカーが止まり、ドヤドヤと警察官達が学校に入ってくる。

 メガホンで発しているのか、警察官の一人が、


 『現在こちらに、凶器を持った男が侵入したと、通報がありました! 危険ですので各自、身の安全を確保して避難して下さい!』


 校内の生徒達がざわつく。警察官の一人が職員室に向かい、他数人の警察官が、バラけて捜索を始めた。


 ―――裕人は呆気に取られていたが、彩葉が裕人の制服を引張って、


 「…ねぇ、先生か警察の人に知らせないと」


 「…はっ! そうですよね、行きましょう!」


 二人はパタパタと、職員室に向かっていった。


   ◇   ◇   ◇


 裕人と彩葉が職員室に着くと、そこにいたのは警察官と、裕人が見覚えのある刑事。

 あれ? と思ったが、裕人は思い出した。


 「月岡さん?」


 呼ばれて月岡は、裕人を見る。


 「ん? 君は…、裕人君、だったか? あの誘拐事件の時の」


 裕人は、はい、と返事をする。そして、


 「あ、あの! 今、僕達、一階の突き当たりの資料室に入っていく、変な人見ました!」


 聞いて月岡は、すぐに手配する。

 その月岡の様子を、彩葉がじっと見ている。

 それを見て、裕人が彩葉に声をかけ、


 「…あの、先輩? どうしたんですか?」


 すると彩葉は慌てて、


 「あ! 何でもない! …ただ、この刑事さん、どっかで見たような…。…っていうか、裕人君、刑事さんとお知り合いなの?」


 「いや、その…」


 裕人は誘拐された時の事を、かいつまんで話した。


 「…そうだったんだ。大変だったね」


 裕人が、いやぁ、と頭を掻いていると、『対象、確保しました!』と月岡に連絡が入った。


 「ありがとな。無事確保したよ。先生方も、ご協力ありがとうございました」


 月岡はそう言って、引き上げて行った。

 校内放送が入る。


 『全校生徒に連絡致します。凶器を持った不審者は確保されました。本日の校外活動は、全面中止としますので、生徒の皆さんは、速やかに下校して下さい』


 え、と裕人が言う。


 「部活、中止? 何で?」


 すると先生の一人が、


 「後処理とかあるし、仕方ないだろ。これで通常通りにしてたら、保護者からのクレームにもなるしな。だから今日は帰りなさい」


   ◇   ◇   ◇


 「…この野郎、いつのまに名執センパイと…」


 「い、いや! たまたまだって…」


 そんな話をしながら、裕人と蓮が校門を出ると、まだ警察の面々が撤収しきれずにいた。


 「…何か、まだ物々しいな」


 「うん…」


 月岡もまだ残っていた。警察官と何やら話をしている。生徒達の下校も相まって、人だらけで落ち着かない。

 裕人が早く帰ろうと思った時、「久吾おじ様!」と言う彩葉の声が、少し離れた所から聞こえた。

 思わず裕人は振り返る。


 そこには、あの時助けてくれた、お父さんの知り合いの名奈さんに抱きつく彩葉の姿が見えた。

 裕人は、「え!?」と目を丸くした。

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