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8-6 日帰り旅行終了

 一方その頃。

 久吾の家では、もつこが二体のテディベアに絡まれていた。


 「おい、新入り。お前も置いてかれたのか?」


 緑のクマがそう言うと、


 「…ムニャ…。お昼寝してたんだけどぉ…」


 もつこが貝殻ベッドから、少し顔を出して言う。


 「お前だけ、良いベッドで寝てるな。新入りのクセに、生意気だな」


 青いクマが言う。


 「………えっとぉ、どちらさまですか?」


 もつこが寝ぼけているのか、首をかしげながら言う。

 それを見て、ミスターが、


 「………また増えたのかね」


 久吾が苦笑しながら、


 「ええまぁ…」


 すると、めぇがテディベア達のところにやって来た。


 「お久しぶりですメ。シークさん、ハイドさん」


 緑がハイドで、青がシークだ。それぞれ、ウリエルとラファエルの瞳の色に合わせている。


 「よぉ、めぇ。今日はヨウカン無いのか?」


 「出されたら食うから、出していいぞ」


 めぇは「ありますメよ」と冷蔵庫を指す。

 仕方なく久吾が、冷蔵庫から芋ようかんを出し、テディ達のそばに持っていってやる。


 「サンキュー! キューゴ!」


 礼を言いながら、テディ達が芋ようかんをパクパクと食べる。

 もつこにも「食べるか?」と聞いて、餌付けしていた。


 「…しかし、またアザラシなんだな。この子は守護者(ガーディアン)とは違うようだね」


 ミスターが言う。

 めぇともっちーは、『天使の守護者(ガーディアン)』という役目も担っている。テディ達も同様だ。久吾は、


 「そうですね。中身は小さな女の子です。アザラシなのは、たまたまですね」


 「…またハチとマルグリットに苦労をかけたね。あとどれくらい増えるのやら…」


 「いえ、もう増えませんよ。…多分」


 「………」


 そんな、どこまでが冗談か分からない話をしていると、みー君達が帰って来た。


 「ただいまぁ!」


 石塚も一緒だ。久吾が、


 「おや? 石塚さん?」


 言うと、ふーちゃんが、


 「送ってもらったの。今日みんなでお世話になったのよ」


 そして、四人で「ありがとうございました!」とお礼を言った。


 「そうでしたか。私からもお礼申し上げます。ありがとうございました」


 久吾が言うと、石塚は、


 「これでも少年課の刑事ですからね、仕事の内です。…まぁ、こちらも助けてもらったんで…、ハハ」


 すると、ミスターが、


 「久吾のお知り合いか? ラファエルとウリエルも世話になったようだ。どうもありがとう」


 そう言われ、石塚は二人の顔を見比べて、


 「お二人、ソックリですね。ご兄弟ですか? ミカエル君とラファエル君も、兄弟みたいなもんだと言ってましたが…」


 みー君を『ミカエル』と呼んだ石塚に、久吾が、おや、と思いながら、


 「一番上の兄なんですよ。私は一番末っ子なんです」


 久吾がそう言うと、石塚は、へぇ、と言って、


 「久吾さん、お姉さんもいらっしゃるとか。ご兄弟、何人いらっしゃるんですか?」


 久吾とミスターが顔を見合わせる。


 「…今、何人生き残ってますかね?」


 「どうだったかな…。私も正確には把握していないんだ」


 「…何やら複雑な事情があるんですねぇ」


 石塚はそう言って、深く追求しないことにした。

 ふと見ると、子供達がもつこの奪い合いをしている。


 「新しいこのコ、カワイイ! うちに来ない?」


 うーちゃんが言うと、ふーちゃんが、


 「ダーメ! もつこちゃんは、うちのコなんだから!」


 もつこは、


 「うわぁ、新しいお姉さんだぁ。カワイイですねぇ」


 そう言うもつこの顔を見て、ふーちゃんとうーちゃんが二人で「「カワイイ〜!」」と、もつこを撫でくりまわしていた。

 餌付けをして情が湧いたのか、テディ達も連れて帰りたがっていた。「ちゃんと面倒見るから!」と、絶対面倒見ないパターンの疑わしいセリフを言っている。


 「お前ら、来てたのか!」


 もっちーが言うと、テディ達は、


 「いたのか、もっちー。生意気な」


 「何で!? オレっち、何もしてないぞ!」


 「一緒にお出かけだなんて、ぬいぐるみのクセに生意気だぞ」


 もっちーは責められた。石塚は収集のつかなそうな、それらのやり取りを見なかった事にして、


 「じゃあ、無事に送り届けたってことで、俺は戻りますね」


 子供達に見送られながら帰ろうとした時、ミスターが懐から一枚のカードを取り出して、


 「お世話になったお礼に、これをどうぞ。この国で言う、御守みたいなものだ。君の運をちょっとだけ上げてくれるよ」 


 そう言って、四つ葉のクローバーをあしらった、何やら呪文が書かれたカードを、石塚に渡した。

 石塚は、どうもと言ってカードを受け取り、帰って行った。


 「それでは、用事も済んだし、我々も帰ろうか」


 「「はーい!」」と英国組が返事をした。

 皆で転移門(ゲート)の方に向かう。


 「…ああ、そうだ。久吾」


 「?」


 途中でミスターが、久吾に声をかけた。


 「…《(ベート)》には気をつけ給え。この国を護ってきた『龍脈』も、だいぶ弱っている。昨今の相次ぐ天変地異を見ても分かるだろう?」


 明治に入った時、政府によって国内の陰陽寮が廃止されてから、そうしたものを管理する機関は無くなっている。

 正直どうにか出来る事ではないが、久吾は、はい、と返事をするしかなかった。

 ウリエルとラファエルが、


 「またね、ふーちゃん」


 「ミカエル、次に会う時には、もう少ししっかりしてくれよ」


 みー君とふーちゃんは、「うん、またねー!」と手を振った。

 ミスター達を見送り、名奈家は普段通りの落ち着きを取り戻した。


   ◇   ◇   ◇


 署に戻った石塚は、子供達に付き添った体でサボっていたのを責められることも無く、置き引き犯を捕らえたのを「良くやったな」と褒められた。


 家に帰ると、最近はあまり口を聞いてくれなくなっていた娘の詩織が、


 「パパ、おかえりー。今日コレ作ったから、あげるね」


 と、特別な日でもないのに、綺麗にラッピングされたパウンドケーキをくれた。


 (…そういや、運が上がる…、って言ってたか?)


 石塚は、もらったカードを不思議そうに見ながら、警察手帳の間に挟んでおいた。

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