1-5 父の魂色
―――その日の朝。
辰哉が帰った後、「行ってきます」と言って仕事に出ようとする章夫に、裕人を抱いたみゆきが問いかけた。
「………昨日の夜のこと、何も訊かないの?」
裕人と共に家を出された、昨日の夜のことだ。
言いたいことは章夫にも分かる。辰哉という男とみゆきは一緒にいたのだ。何があったのか、章夫の胸中も複雑だった。
しかし、拒絶すればどうなっていたかも想像はつく。
仕方なく、困ったように笑って
「…帰ったら、少し話をしよう」
そう言って家を出た。その背中を見送りながら、みゆきは俯きながら呟いた。
「………ごめんなさい、章夫さん」
それが章夫とみゆきの、最後の会話になった。
◇ ◇ ◇
葬儀場に、裕人を抱いた喪服姿の章夫がいた。
「伊川さん」
喪服と変わらない、いつもの久吾の姿があった。
「………。お悔やみ申し上げます」
神妙な面持ちの久吾を前に、章夫は堪えていた涙を我慢出来ずに流してしまった。
「………もう、三度目なんですよ。大事な家族を見送るのは………。最後に彼女と、きちんと話も出来ずに………」
久吾は黙って聞いている。章夫が続けた。
「………私、何か悪いことしたんですかね。…呪われてたり、するんですかねぇ………」
父を見送った。母と弟を見送った。妻を見送った。
確かにそう胸の内を吐き出しても仕方がない。
だが、久吾は静かに言った。
「あなたは何も悪いことをしていません」
章夫がハッとして、久吾を見た。
「こうなった全ての原因に、あなたは一切関わっていません。あなたのせいなんてことは、万に一つもありませんよ」
「……………」
「不幸な偶然だと思います。ですが、あなたのせいではない。…あなたは生きて、裕人君を立派に育てて、最期に裕人君に見送ってもらえばいいと思います」
久吾の言葉を聞いて、章夫はしばらく言葉が出なかった。
だが間を置いた後、何かを決意したように章夫は、グッと涙を拭った。
「…ありがとうございます。泣いてる場合じゃないですね。この子をしっかり育てていかないと。…みゆきに安心してもらうためにも」
久吾は頷いた。
「何かあれば連絡して下さい」
久吾が言った。章夫は静かに笑って礼を言う。
「…しばらくは休職させてもらって、育児に専念します。裕人の命のお金がまだ半分残ってますし」
「そうでしたね。では…」
「名奈さん、ありがとうございました」
章夫が頭を下げた。久吾は静かに笑って、一礼して葬儀場を出た。
しばらく歩いて振り返る。章夫を包んでいるのは、ほわりとした淡い翡翠色と白のもやで、その周りに氷の粒が陽の光に当たってキラキラ光っているような、そんな魂色である。
(最初に出会った時から、綺麗な魂色だとは思っていましたが…。ああいう方には幸せになって頂きたいものですねぇ)
章夫が抱いた裕人を見る。以前と変わらず金色に輝く光を放っている。
(…あの子の魂色も成長に伴って変化していくでしょうが、あのお父さんとなら支え合っていけるんじゃないでしょうかねぇ…)
魂色は成長や周りの環境、その時々の感情に伴い変化する。
久吾は親子の幸せを願いつつ、その場を後にした。
次から2024年です。