7-6 救出
大弥とファリダの両腕の、枷に掛かっていたロックが解除された。
「お! 外れるかな?」
と大弥が言ったが、だからといって外れる訳ではない。しかしファリダの方は、バキッ!と音を立て、枷ごと壊していた。
「お、俺のも頼むよ」
大弥が言うと、ファリダが大弥の両腕の間を手刀で壊した。なかなかの衝撃に、大弥が
「…ってぇー、まぁ、外れたからいいか」
手をプラプラさせて言う。…が、枷が外れても、ファリダの足は負傷したままだ。
「…扉は開くかな。これさえ何とかなれば、俺がお前を背負って逃げれるな」
大弥が言うと、ファリダが
「いや、ひ弱なお前じゃ、私を運べない」
「これでも男だぞ。お前の一人や二人くらい…」
「…私は半機械人間だ。重さは110㎏ある」
「ひゃくじゅっ…!?」
見た目は華奢な少女なのに…、と大弥が呻いた。
どうしようと思っていると、扉がバキッと壊れる音がして、誰かが入ってきた。
蒼人が一旦、隠密符を剥がして姿を現した。
「蒼人! 助けに来てくれたのか!」
蒼人がコクリと頷く。蒼人はファリダを背負い、符を貼り直してそのまま皆で部屋を出た。
((無事脱出出来ましたね。それでは、皆で出口に向かいましょうか))
久吾から蒼人に連絡が入った。蒼人が、はい、と返事をした。
しかし、上の階に上がったところに、数人の兵士が現れた。
「げ!」
蒼人には隠密符が貼られてあるので、くっついた形のファリダにも効果が付随したが、大弥は丸見えだ。
「わー…、やべぇ」
両手を上げて、降参のポーズを取るが、その隙にファリダが兵士をレーザーで攻撃した。
「ух ты!」
何もないはずのところから攻撃されて、兵士達は驚く。
すると次の瞬間、誰にも見えないが、久吾がその場に現れた。そして、大弥・蒼人・ファリダをまとめて透明の球体に入れ、それに触れながら瞬間移動していった。
「…? ?」
残された兵士達は、きょとんとしていた。
◇ ◇ ◇
「おかえりなさい、大弥。無事で良かったわ」
美奈がそう言って、大弥を抱きしめた。
大弥は照れながら、
「心配かけてすみませんでした、主…」
久吾がシールドを破壊した後、美奈は基地の中を確認出来るようになっていた。
久吾が『出口に向かいましょう』と言った直後、美奈から精神感応で連絡があり、ESPが使用可能と分かって、久吾は最短で救出することにした。
「…しかしお前、ホントにデタラメだな」
せっかく頑張ったのに、久吾はハチに文句を言われた。
「無事に帰って来たんですから、文句言わないで下さいよ。…今回は面倒な相手がいなくて良かったです」
すると美奈に、
「…あなた、途中で家に帰ったでしょ。転移門要らないんじゃない?」
「いえ、要りますよ。子供達来られなくなっちゃいます」
そんな話をしている中、大人しいファリダを見てハチが、
「大丈夫か? その脚、直してやらないとな」
「………ごめん」
謝るファリダを見て、大弥が、
「あ、そうだ。久吾さんの霊薬で、これ治んないの?」
と聞いた。すると久吾が、
「………面白いこと言いますね。もしファリダさんが霊薬を飲んだら、どこまで修復するか、興味はあります。人間部分は、脳と主要臓器でしたか…。飲んでみますか?」
その受け答えに、大弥は少しだけ寒気を覚えたが、
「嫌だ」
ファリダは断った。
「私は、この身体が気に入ってる。今更普通の人間に戻る気はない」
それを見て、ハチが少し困ったように笑った。
「…まぁ、そういう時が来るかも知れねぇぞ。戻りたくなったら、頼んでみりゃいいさ」
ハチにしてみれば気まぐれでの改造だったが、ファリダの今後を考えると、そういう選択肢があってもいいのかもしれない。
そんなことを考えながら、とりあえず直すぞ、とハチは110㎏のファリダを軽々と抱え、研究室に戻って行った。
それを見て何となく安心した大弥は、軽く空腹を感じ、ボソッと、
「…腹減ったなぁ」
と言うと、羽亜人が、
「じゃあ、せっかくだからここでバーベキューでもしようか?」
「お、いいねぇ。肉! 肉な!」
大弥が喜んだ。羽亜人は、
「久吾さんも、子供達連れてきたら? きっと喜びますよ」
「ありがとうございます。ではついでに、何か見繕ってきます」
久吾は一旦、転移門で帰って行った。
◇ ◇ ◇
『………逃げられた、と?』
ログノフ大尉が、報告をしていた。
「…はい。いつの間にか、あちこち破壊されており、兵士達も何が何だか………」
『ふむ………』
そして、入口の門の前に設置されたカメラの映像を映しながら、
「この二人が、現れたと思ったら消えまして…。威嚇射撃をした時も怪しげな術を使っていたそうです」
そこには、久吾と蒼人が映っていた。
『…《8》ではない、な。まさか…、《1》 …いや、《1》は我々に干渉しないはず…。ということは、これがあの《最後の番号》か…』
「…《最後の番号》?」
『………いや、君達には関係のない話だ。済まなかったな。協力感謝する。後で設備を直してあげよう。それから、今後のことも考え、私の下僕達を護衛として、そちらに置くことにしよう』
「あ、ありがとうございます」
通信が切れた。
(…《最後の番号》が《8》とつながっている、というのは本当だったな。あれを欲しがっている《2》は、どうするか…。ともあれ、今回の様子を見る限り、私ではあれを捕らえるのは無理だな…)
………《6》は色々と、考えを巡らせていた。