7-5 突入
―――話を聞いて、大弥はやはり後悔した。
「………ごめん。俺なんかが聞く話じゃなかった…」
するとファリダは、
「気に病む必要はない。この話に感動したなら、一刻も早く手術を受けるべきだ」
え、と大弥が驚く。
「…ちょっと待て。今の話、感動要素なんてあったか?」
「私の嫁入りの話だろう」
「いや、ズレてるよな!? お前の感覚、どっかズレてるだろ!?」
ファリダは「?」と首を捻る。
大弥は諦めて、ため息をついた。
「………どっちにしろ、その足じゃ戦えないよな…。腕の枷も、電子ロックかかってるっぽいし…」
ファリダはまた、しゅん、と落ち込んでしまった。
………と、その時、ブーッ、ブーッ、と警報が鳴った。
『захватчик!』
それを聞き、大弥とファリダは顔を見合わせる。
「…もしかして、助けが来たのか!?」
◇ ◇ ◇
久吾と蒼人は、二手に分かれて侵入する事にした。
入口で護符を二枚ずつ用意し、一つは隠密印、もう一つは共有印を施した。
「とりあえずこれ、貼っておきましょう」
互いの体に貼ると、隠密符で姿を隠し、共有符で見ているものを共有しながら意思疎通もはかれる。
基地の中に入る。
久吾は護符とは別に、符に何やら印を筆で施す。
印を書かれた符が細かく分かれ、羽虫のように変化して飛んでいき、基地中に拡がっていった。
さらに爆撃印を施した符を数枚用意する。
「蒼人さん。これ、いくつか持っていって下さい。良く分からない機械は、壊すに限ります」
蒼人は爆撃符を受け取りながら、黙って頷いた。
「…さて、じゃあ行きますか」
蒼人は右手に走っていった。
久吾は左手を、のんびり歩いて進む。
途中、兵士らしき人間とすれ違うが、隠密印の護符のお陰で気づかれない。蒼人も同様だ。
すると、目の前の兵士が、すぐそこの部屋に入っていく。
久吾が一緒に、部屋に入る。部屋にはモニターがたくさん並んでいた。
入った兵士と、中にいた兵士が、何やら談笑しているが、そのそばで久吾はモニターを確認する。
モニターの一つに、大弥とファリダが捕らえられた部屋が映っていた。
(おお。居ましたね。………さて)
基地内を探索させていた羽虫と、感覚を共有する。
どうやら、地下の一室に閉じ込められているようだ。
蒼人も同じものを見ていた。
((…俺が行きます))
蒼人から連絡が来たので、お願いします、と返事をした。
(さて、じゃあ…)
久吾はその部屋を出た。勝手に開いた扉を見て、兵士達が顔を見合わせる。
そのまま久吾は上の階へ進み、人がいない部屋を手当たり次第に爆破させていった。
警報が鳴り、兵士が上の階に集まっていく。
途中、久吾には良く分からない機械がたくさん並んだ部屋があった。
「………」
おもむろにポイポイっと、爆撃符を放り込む。ドアを閉める。
爆発音が鳴った。この時点で、ESPシールドは破壊されたが、久吾は気づかず、そのまま他の部屋も破壊していった。
◇ ◇ ◇
―――一方その頃。
この基地の責任者であるログノフ大尉は、とある相手と通信中だった。
「…貴方の言う通り、砂漠にあった結界は相殺出来ましたが、研究所は無傷かと。『人形』に邪魔されたのと、新たに解析不能の結界が張られまして…」
相手が答える。
『………恐らく、もう場所は既に変わってるでしょうね。《8》の奴…。再度場所を特定するのは難しいか…。しかし、新たな結界とは…』
大尉が、
「捕らえた『人形』はどうしますか?」
『欲しかったらあげますよ。分解するなり洗脳するなり、好きにしなさい。人間は処分して構いません』
すると、外が騒がしくなった。
警報が鳴り、『侵入者だ!』とアナウンスが入る。
「!?」
『………《8》か? 『人形』を取り戻しにきたのか? ………相変わらず甘い奴だ』
大尉がオロオロして、
「ど、どうしましょう………」
『…結果だけ教えて下さい。貴方がたは、曲がりなりにも軍隊でしょう?』
「………」
通信が切れた。