7-4 戦姫
―――一方その頃。
大弥とファリダは、基地内の一室に閉じ込められていた。
ファリダは左脚を負傷していた。
大弥と共に両腕を拘束され、痛々しい姿でしょんぼりしていた。
大弥が心配して訊いた。
「………大丈夫か?」
「………私は、ハチのヨメ失格だ…」
珍しく弱気な発言をしていた。大弥は、
「そんなことねーよ。あの人、口は悪いけど優しいだろ。きっとお前のこと心配してるぞ」
何とか励まそうとした。
「………そうかな」
大弥は、そうだよ、と言った。
「…それより、どうやってここから脱出すっかなぁ…」
「…そもそも、ここはどこだ」
ファリダが言うので、大弥は考える。
「…分かんねーけど、あいつらロシア語喋ってたな…。…ってことは、結構北の方じゃねーか?」
「………」
鬼教官が黙ってしまった。いつもと違うファリダに、大弥は困ってしまった。
「…悪いな、俺はお前らみたいに戦えねーから…」
「全くだ。お前も早く改造手術を受けろ」
「……………」
今度は大弥が黙ってしまった。
大弥は普通の人間だ。
亡くなった母が、羽亜人達の仲間だった。
美奈達は、その母の代わりに大弥を育ててきた。
「…何を悩むことがある。この身体は良い。煩わしい事がなくなる」
「…いや、分かるけどさ、………簡単に言うなよ」
大弥は決心がつかないでいる。
手術を受ければ、羽亜人達と同じようになり、共に生活をしてきた『家族』と同じになる。これからもずっと一緒にいられる。
小さい頃は、早く皆と同じになりたかったが、大きくなるうち、『人間をやめる』という行為に、どうにも踏み切れなくなっていった。
「…主はさ、『大弥の好きにしていい』って言ってくれてるしさ…。羽亜人達も、『大弥が決めることだ』って言うし…」
「…しかし、お前のために毎日食事の用意をしたり、大変なんじゃないのか」
確かに、自分ももちろん手伝うが、美奈と羽亜人で毎日の食事を用意してくれる。
だが、食事は皆で食べているし、大変だとか、それを気にしたことはなかった。
「そうだけど………。…なぁ、お前は何で、半機械人間になったんだ?」
「………それを訊くのか」
「い、いや、…言いたくないなら無理に話さなくていいよ」
考えてみれば、半機械人間になる、などという状況は普通ではない。羽亜人達もそうだった。よほどのことだったに違いない。
何気なく訊いてしまったことに、大弥は後悔した。
「…別にいい。私はこの身体にならなければ、死んでいた」
ファリダが話し始めた。
◇ ◇ ◇
―――その日、ハチは戦場跡で資材を集めていた。
武器に使われている鉄やチタンなど、ものづくりに使う上で材料は、あればあるだけ良い。
自分自身にステルスシールドを施し、可動式転移門に資材を送り込む。
回収中、数人の兵士が前から、ニヤニヤと笑いながら歩いてきた。
ハチが隅の方に移動し、やり過ごす。
兵士達がやってきた方向に行ってみると、小部屋になっている一角を発見した。
………中を見ると、一人の少女だった塊が転がされていた。
輪姦され、手足を切り落とされ、目を潰されていた。
「………あーあ、酷いことしやがるなぁ」
既に死んでいると思い、ハチがそう言うと、少女は微かに息がある。
何かを呟いている。ハチが聞いてみると、
「………殺、し………、て、やる、………殺し、て………」
微かにそう呟いていた。ハチは少し興味がわいて、
((…そのまま、頭ん中で考えるだけでいい。答えな))
すると少女が、
((………? 誰? ………悪魔?))
ハチはニヤリと笑い、
((そうだな、似たようなもんだ。………お前、こんな目に合わせた奴らに、仕返ししてぇか?))
((………当たり前だ。あいつら、全員殺してやる!))
((…じゃあ、俺が力を貸してやる。一緒に来るか?))
((………頼む))
ハチは少女を抱え、転移門を潜っていった。
◇ ◇ ◇
―――数日後。
顔や身体は元の見た目のままに、黒髪は銀色に、潰された瞳は金色に。
新たな身体を手に入れた少女は、街の一角を占拠していた一個中隊を、一人で全滅させた。
(…最高だ! この身体!)
指先からレーザーを発し、その腕に仕込まれた大型のナイフで敵を切り裂く。
壁を踏み越えれば、10mは軽く飛び上がる。
持たせてもらった多連装ランチャーで、上から敵に向かって撃ちまくる。
敵の弾丸より早く動ける。いくら動いて走っても疲れない。
素晴らしい、と思った。
月を背に、ファリダがまるで踊るように敵を蹂躙していく。
姿を見たものは、直後に物言わぬ死体となっていく。
ファリダは、とても満足した。
◇ ◇ ◇
―――ハチのいる場所に、ファリダが戻ってきた。
「仕返し出来たか?」
「うん。感謝する」
ハチは、良かったな、と言って、
「そうか。じゃあな。後は好きにしな」
「? 何を言っている?」
ファリダがそう言うと、ハチは「え?」と聞き返す。
「人をこんな身体にしたんだ。責任を取れ」
「は!? お前が頼むって………」
「責任を取って、嫁として迎え入れろ。今後ともよろしく頼む」
「……………」
こうして、ファリダはハチの押しかけ女房になった。