7-3 暇
結界を再構築し、起動する。
波長を合わせてみると、だいぶズレていた。
「………あれ?」
蔵人が首を捻った。
「ハチさん…」
「ん?」
ハチに画面を見てもらう。
しばらく考えていたハチは、おもむろに、
「……………久吾」
「はい?」
暇そうに、お茶を飲みながら印を操作していた久吾に、
「………お前、今、いくつ結界張ってんだ?」
久吾は数える。
「…えーと、防御結界、認識阻害、暗黒牢、奈落遊戯、それから異界通路………」
「………お前、二重結界で面倒だっつってなかったか?」
すると久吾は、
「面倒なだけで、出来ない訳じゃないですよ。あと何を張ってみましょうか…」
ハチが怒った。
「何を張ってみましょうか…、じゃねーよ! 解析してるっつったろ! 何で増やしてんだよ!」
「いえ、暇だったもので…」
「この野郎…、そういうトコがミスターそっくりだよ、お前はよ!」
「《最初の番号》と一緒にしないで下さいよ」
久吾がぼやく。羽亜人が必死に笑いを堪えている。
美奈が、
「…もう基地が見えてきたわ。でも、おかしいわね。基地の中…、私には視えない」
それにハチが答える。
「今は知らねぇが、旧ソ連ってのはESP研究も盛んだったらしいからな。シールドがあるのかも知れねぇ」
そして、久吾に向き直ると、
「おい、久吾。さっき言ってた奈落遊戯と、…あと何だっけ」
「暗黒牢と、異界通路ですか?」
「暗黒牢は何となく分かるが、他の二つは何だ」
「奈落遊戯は、触れるとどこか別の場所に飛ばされます。どこに行くのかは、私でも分かりませんねぇ」
「異界通路は?」
「触れると異界に転移して、迷いながらいつか結界の外に出られます。たぶん…」
ちなみに暗黒牢は、久吾が結界を解除するまで暗黒空間に閉じ込められるらしい。
「…面白えな。じゃあ防御と認識阻害、それから奈落遊戯も入れて、三重結界張っとけ」
「…はいはい」
久吾はやれやれと首を振りながら、印を結び直した。
「くれぐれも増やすなよ!」
ハチは念を押した。そして、すぐに解析を始めた。
◇ ◇ ◇
解析も無事終了し、結界が張り直された。
蒼人も起こされ、こちらに姿を現した。
「すまねぇな、途中で。不具合はなさそうだが…」
蒼人は、コクリと頷く。
「じゃあ、私はこれで…」
久吾が帰ろうとすると、ハチが
「待て。お前蒼人と一緒に、ちょっと行ってファリダと大弥、助けて来い」
「え」
ちょっとそこまでお使い頼む、みたいに言われ、久吾が驚くと、
「この間、ぬいぐるみ造ってやったじゃねぇか。恩は返しといて、損はねぇだろ」
ハチが恩を着せてきた。久吾は顔をしかめた。
美奈がにっこり笑って、久吾に手を差し出す。
「場所の映像を送るわ。大弥のこと、よろしくね」
「…仕方ありませんね。向こうで精神感応が使えると助かるんですがね」
美奈の情報転送で情報を得た久吾は、諦めて蒼人を連れて瞬間移動していった。
◇ ◇ ◇
基地前に到着した久吾と蒼人は、どうやって中に入ろうかと考えた。…が、
「…面倒ですねぇ。もう、正面突破で良いですかね」
蒼人もコクリと頷いたので、堂々と門をくぐると、
「стой!」
銃を構えた兵士らしき人間が、建物の上にいた。
久吾は相手を透明の球体に閉じ込めようと、指先で円を描く。が、発動しない。
「おや?」
向こうが発砲してきた。
仕方なく、久吾は懐から一枚紙を取り出す。
紙に向かって印を結ぶと、目の前に盾が出来、銃弾が弾かれていった。
「…どうやら、ESPの類は使えないようですね。…符の扱いは面倒なんですけどねぇ」
久吾は蒼人と一緒に一旦門の外に出て、
「少しだけ、ここで待ってて頂けますか。門の外ならESPは使えるようなので…」
蒼人が頷く。久吾はそう言って、瞬間移動していった。
たどり着いたのは、久吾の自宅だ。
「…あれ? ななさん、おかえりー」
ふーちゃんに言われ、
「いえ、すぐにまた行かないと…。ちょっと面倒な事になってまして」
そう言って、いくつかの符と矢立を持って、
「では、行ってきます」
「いってらっしゃーい」
また瞬間移動で、蒼人のいる場所に戻っていった。
◇ ◇ ◇
その様子を、千里眼で見ていた美奈が、
「………嘘でしょ? 久吾ったら、忘れ物取りに家に戻ったわ」
「はぁ!?」
ハチがびっくりしていた。