7-1 特訓
台座に乗っていた蔵人が目を覚ました。
「おう、起きたか。メンテナンス終わったぞ」
ハチのテンプレメッセージを聞きながら、蔵人は眼鏡を探して掛ける。見えない訳ではないのだが、昔からのクセで掛けていないと落ち着かない。
服を着ながら、蔵人は
「…あれ? 大弥は?」
と訊くと、先にメンテナンスを済ませた羽亜人が、
「ファリダに外に連れてかれたよ」
と、お茶を淹れてくれながら言った。
ハチが一息つきに現れ、
「外だと? 砂漠しかねえこんなとこで、何やってんだ? 鬼ごっこでもしてんのか?」
すると美奈が、お茶を飲みながら、
「さあ…。あれは、鬼ごっこ…、なのかしら?」
「?」
◇ ◇ ◇
その頃、鬼教官ファリダが大弥の腰に縄をくくりつけ、砂地でタイヤを引かせながら走らせていた。
「貴様の体力はまだまだだ。私がしっかり鍛えてやる」
少し上空からそう言うと、大弥が息を切らしながら、
「…っ! だーかーらー! …ぜー、…俺はっ! フツーの人間なの! …ぜー、お前ら半機械人間とは、違うんだっつーの! …はー、はー、…クソっ!」
叫びながら走ったので、呼吸を整えるため、一息つくと、
「誰が休んでいいと言った」
鬼教官が地面に降りて、喝を入れた。
「…はぁ、はぁ…、テメー、ふざけんなよ。何でこんなレトロな訓練しなきゃなんねーんだ…」
すると、
「日本式訓練だろう?」
「違げーよ! こんな訓練してる奴、今この世にいねーよ!」
大弥が怒った。ファリダは、おかしいな、と首を捻る。
………その様子を千里眼で見ていた美奈が、実況しながら真面目な顔で、
「…あの訓練を小一時間もやってるんだから、あの子も大概よね…」
羽亜人が笑い転げている。
蔵人が、それはさておき、とハチに、
「蒼人は?」
と訊くと、
「アイツはまだかかるぞ。お前らよりも機械部分が多いからな」
後で俺も手伝います、と蔵人はハチに言う。
おう、と返事をするハチが、
「羽亜人、大弥んとこに飲み物持ってってやれ。きっと足りてねぇだろ」
羽亜人は分かりました、と大きなボトルを持って外に出た。
◇ ◇ ◇
「大弥ー、飲み物持ってきたよ」
羽亜人がボトルを持っていくと、汗びっしょりの大弥が「サンキュ」と受け取って、一気に飲む。冷えた清涼飲料水が体に染みる。
「………っはー、生き返る…。何でこんな拷問、受けなきゃいけねーんだ」
「人聞きの悪い。どこが拷問だ」
「大体、お前優雅に空飛んでんじゃねーかよ! せめて一緒に走ろーよ鬼教官!」
羽亜人がそんな二人を楽しそうに見ていたその時、上空に何か、キラッと光るものを発見した。
「ん?」
蔵人に、内蔵されている通信機で連絡する。
『蔵人、上に何かいるっぽいんだけど…。ハチさんに聞いてくれる?』
え? と思いながら、蔵人が
「ハチさん」
「ん?」
「羽亜人が、何か上にあるって言ってます」
ハチがレーダーで確認する。
「…いるな。でも、結界に引っ掛かる距離じゃねえな。そのうち通り過ぎるんじゃねーか?」
その時、異常警報を知らせるアラームが鳴った。
「!?」
ブゥン、と低い音がして、何かが切れた音がした。
ハチが慌てて機器を操作し、確認すると、
「………結界が、消えた、だと?」
不穏な事を言った。美奈が動揺して、立ち上がった。ハチが察したらしく、
「美奈、お前は地下の動力炉に行け。あそこなら大丈夫だ」
「分かったわ」
美奈は急いでその場を離れた。
「ハチさん…」
蔵人が心配そうに言うと、
「…結界が相殺された。人間の仕業だとしたら大したもんだな。…アイツを呼んでおくか。…蔵人、お前は一応結界の再起動、試してくれ」
「分かりました」
その瞬間、ドド…ンと地響きがした。羽亜人から蔵人に通信が入る。
『やばいよ! 攻撃されてる!』
「何だと!?」
ハチは急いで地球の裏側に精神感応で呼びかけた。
((おい、久吾! すぐに来い!))