幕間 眠り姫
こたつで居眠りしていた拓斗が、目を覚ました。
「………ん、…ん?」
こたつに見慣れない子供が入っている。女の子だ。
「…スー、…スー」
よく寝ているようだ。
「………あれ? 誰だ?」
向かいにいるシンが、
「…増えたな」
と言った。
「…増えた?」
何となく女の子を見る。
「………風邪ひかねぇかな。大丈夫か?」
するとシンに怒られた。
「お前、ここ『賽の河原』だぞ。風邪なんかひくわけねーだろ」
「…えー。ここ『賽の茶の間』じゃん」
そう言って、やかんを持ち上げると軽かった。
「やべ。水入ってねーや。汲んでくらぁ」
そう言ってこたつを出て、やかんを持って川まで行く。
「あーあ、みゆきちゃん成仏しちまったからなぁ。自分でやんなきゃ…」
章夫の妻・みゆきは、しばらくここに留まって、主にシンの世話をしていた。
拓斗も便乗して、色々やってもらっていた。
最初は無表情だったみゆきは、ここで過ごすうち明るく表情豊かになり、成仏の際は晴れやかな顔で門をくぐっていった。
水を汲んで川から戻って来ると、人が増えている。
「ん?」
ここの職員のユルそうな女性の鬼と、少しふっくらした中年の女性がいた。中年の女性は、あの女の子を見て涙を流している。
「桃ちゃん…。守れなくてごめんね…」
鬼が言う。
「今日からこの人、お世話係ですぅ。よろしくねぇ」
「秋恵といいます。シンくん、よろしくね」
涙を拭って、秋恵がシンと握手をしている。
みゆきちゃんとはタイプが違うなぁ、と拓斗は思った。もっと若くて細けりゃなぁ、と失礼な事も思った。
やかんを火鉢にかけ、こたつに戻り、
「…俺、拓斗。よろしくぅ」
と言うと、鬼が笑顔でこっちを見る。
「………ん?」
ユルそうな鬼が拓斗に近づき、小声で、
「拓斗くぅん、セクハラ発言禁止だからね〜」
「は!? 俺何も言ってねーよ!」
拓斗が驚くと、鬼は
「みゆきちゃんとタイプが違うなぁ、とか、色々思ったでしょ〜。今コンプライアンス厳しいのよぉ。分かったぁ?」
「……………」
シンが言う。
「………女は顔じゃねぇ。包容力だ」
すると鬼が、
「シンくぅん、それもアウトじゃないかしら〜」
シンが驚いて鬼を見る。
シンと拓斗は、二人でヒソヒソ話す。
「………お、女って、ムズカシイな」
「全くだ。何も言えねーぜ…」
その傍らで、桃子は良く寝ている。
「…スー、…スー」
秋恵は笑顔で、それを見ていた。