6-8 Wもっちー問題
『アジア諸国で人身売買を行っていた組織の一員として手配されていた、中島遊馬容疑者が変死体として東京都〇〇区の路上で発見されました。容疑者は心臓が文字通り破裂しており…』
川野家の火事と共に、そんなニュースが流れてから一週間ほど経った。
転移門を通って久吾達一行が、ハチのもとに新たなぬいぐるみを引き取りに来ていた。
「ありがとうございました、ハチさん。マルグリットさんも、お疲れ様でした」
久吾が礼を言うと、ハチが
「ホントにな。まぁ中身は女の子だって言うからよ、マルグリットが気合入れて可愛く作ってたぞ」
「ウフフ、力作よ」
魂の注入は、久吾の仕事だ。
ハチが作ったサイボーグシステムを応用し、本来なら脳と接続する機械部分に、脳の代わりに魂を据える。
桃子の魂を久吾が注意深く注入し、封をする。それをハチが機械部分と接続する。挿入部分を塞ぎ、マルグリットが手早く仕上げる。
「…どうだ?」
台座に乗っていた桃子のもっちーが、目を覚ました。めぇやもっちーと違い、クリッとした目が瞬きをする。
「あれぇ? …あ! お話出来る! すごい!」
もっちーよりは大きいが、今までより一回り小さく造られた。ヒレをパタパタと動かす。
「ほれ、歩けないだろうからな。これも作っといたぞ」
アコヤ貝を開いたような、桃子のもっちーサイズのベッド兼自走式台車だ。
「わぁ、ステキ! 人魚姫みたい! ありがとう!」
お気に召したようだ。ハチは満足そうだ。
「カワイイ! 良かったね!」
ふーちゃんがそう言うと、桃子のもっちーをベッドに置く。
「もうリンクは済んでるからな。考えるだけで、好きなように動くだろ」
ハチが言うまでもなく、桃子のもっちーは「わーい!」と走り回っていた。
…すると、元祖もっちーが、どん! と構えて言った。
「みんな! 重大な話があるぞ!」
一瞬シン、となり、何事かと皆でもっちーを見ると、
「あのな、ここに『もっちー』は二人も要らんのよ。名前を考えてやらにゃいかん!」
ほほう、と久吾は言うが、ファリダが
「お前が『大福』と名乗れ」
と言うと、もっちーに「NO!」を突きつけられた。ふーちゃんが、
「えー? じゃあ、桃子ちゃんで良くない?」
すると久吾が、
「いえ、以前にも言いましたが、恐らくこれは『分霊』です。分かれたものに同様の『名』を与えるのは、元の魂に影響があるかも知れません。名は変えた方が良いでしょう」
めぇ、もっちーも同様に、真太郎・拓斗の名は使っていない。これは陰陽道に由来する『名』による『縛り』の考えだ。
分かれた元の魂が、在るべき場所に在るためである。どちらも同じ名だと、お互い引っ張り合い魂が混乱する。
「…仕方ねえ。やっぱ『もっちー2』だな!」
「えー、いやですー」
もっちーが、もっちーに断られた。
「じゃあ略して『もちつ』!」
「言いにくいですメ」
今度はもっちーが、めぇに却下される。
「うーん…、うーん…、………はっ! おめーらもちったぁ考えろよ!」
「いや、俺らは仕事終わってるしよ」
ハチに言われてもっちーは「うう」と呻く。マルグリットがクスクス笑っている。
するとふーちゃんが、桃子のもっちーを抱き上げ、
「じゃあ『もっちゃん』でいい?」
それを聞いて、桃子のもっちーが
「いいよ…」
と言いかけた時、もっちーが「待った!」をかけた。
「もっちーツーの桃子で、『もつこ』は!?」
「も?」
「つ?」
「こ?」
ファリダを含めた子供達が「変なの!」と言ったのだが、ただ一人、桃子のもっちーだけが、
「それにする!」
と言った。皆、びっくりした。
「ちょっと『ももこ』に似てて、カワイイ! 桃子、これから『もつこ』になる!」
「………」
久吾が、
「…本人が気に入ったのなら、良いんじゃないんですか? 声に出して言うと、中々可愛らしいですよ」
「………ん、そうかもな」
ハチまでもが、そんなことを言う。
もっちーは一人、ドヤ顔だった。
―――こうして名奈家に新たな住人、『もつこ』が増えた。
どんどんファンシーになっていく自宅だが、久吾は気にもせず子供達の喜ぶ顔を見ていた。