6-6 殺しの条件
久吾は考えていた。
「…前回、行方不明扱いにしてしまって、後で面倒になるということを学びましたからね…。今度は失敗しないように、死体を残さないといけません」
溝口辰哉を行方不明扱いにしたことで、月岡に疑念を持たれてしまった。今回はその反省を踏まえ、どう始末しようか悩む。
「なるべく綺麗な状態にしてあげた方が、片付ける方達も楽でしょうから…。…それにしても、少し前までなら悪人の一人や二人、いなくなってもそれほど大騒ぎにならなかったのに、…面倒な世の中になりましたねぇ」
やれやれと首を振り、そんなことを呟きながら、とりあえず殺し方を考える。
久吾の中で、これは生かしておけないと思う条件は決まっている。その者に浮かばれない霊が憑いているかどうかだ。
本来なら上に昇れる魂が、自分を殺した相手に対しての執着でこの世に居続けてしまうというのは、やはり解放してやらねば可哀想だと思うのだ。もちろん、今後の犠牲については言うまでもない。
(よし…。それでは…)
殺り方を決めた。久吾は男の心臓を透視で狙い、動きを止めた。…が、力加減をうっかり見誤り、心臓が破裂してしまった。
「あ」
思った瞬間、男は呻き、
「あ………、が、………」
ばたり、とその場に倒れた。
「………。まぁ、いいでしょう」
そして、周りの霊達に手を合わせ、燃える家屋へと再び向かっていった。
秋恵を殺し、川野家に火を着けた若い男は、骸となって道端に転がっていた。
◇ ◇ ◇
川野家の家屋は燃えたが、雨のお陰で鎮火は早かった。
警察や消防で、辺りはごったがえしている。
雨の中、「お前のせいだ!」と叫び声が聞こえた。
((隆パパの声!))
桃子が反応した。
隆、守、翔が、家の前で泣いている。そのそばでは、幸宏が警察に連行されようとしていた。その幸宏に、隆がひたすら責め立てる言葉を吐いていた。
幸宏の足元には、秋恵と桃子の遺体が置かれていた。多少焦げた跡はあるが、比較的綺麗な状態だった。
幸宏も泣いていた。泣きながら、掠れた声で、
「…すまなかった………、すまない………」
………久吾は魂色の変化を見ていた。
掠れた声で謝り続ける男の魂が、流れる涙と共に、ヘドロのようなもやが洗い流されていくように見えた。
変わって、罵詈雑言を吐き続ける男の魂に、闇色のもやが増え続ける。
久吾はそれを見ながら、
(…ああ、嫌なものですねぇ。負の感情に飲み込まれていく魂を見るのは………)
そう考えていると、桃子が
((ヒック…、ヒック…、桃子の、桃子のせいだ…。桃子があの人の言うこと、聞かなかったから………))
心の声が泣いていた。そして、ごめんなさい、ごめんなさい、と謝り続ける。
久吾はそっと、桃子に言った。
((…あなたは何も、悪くないですよ))
すると、桃子が
((………そうなの?))
久吾は静かに笑いながら、
((こんなに優しい子が、悪いわけがありません。だからもう、泣かないで下さい))
桃子は少し考えて、うん、と答えた。久吾も少し考えて、
((…私の家に来てもらってもいいですか? みー君という子が、あなたをとても心配しています))
((………いいの?))
久吾は優しく笑って頷いた。
二人はそのまま、瞬間移動でその場を後にした。
◇ ◇ ◇
久吾がぬいぐるみを連れて家に戻ると、ふーちゃんが目覚めていた。
「ななさん!」
ふーちゃんが久吾に抱きついた。久吾はふーちゃんを受け止め、笑顔で優しく撫でる。
「ふーちゃん、良かった…。目を覚ましたんですね」
ふーちゃんは元気よく、「うん!」と返事をした。
すると、桃子が
((このお姉ちゃんが、みー君?))
と言うのを聞いて、ふーちゃんが、
「ううん、みー君はあっち。私はふーちゃんよ」
((お姉ちゃん、桃子の言ってること、分かるの?))
ふーちゃんがニッコリ笑って頷く。
いつの間にか、ぬいぐるみはふーちゃんが手にしていた。
「カワイイ! ななさん、この子、うちの子になるの!?」
ふーちゃんが訊く。久吾は一応、桃子に尋ねた。
「…さて、どうでしょう。ぬいぐるみの姿でよろしければ、私とは別の魔法使いさん達にお願いしてみますが」
みー君とふーちゃんが、ぬいぐるみの中の桃子に「うちの子になろー!」「なろー!」と説得していた。
桃子は、決めた。
次、色々暴露回。