6-5 入れ替わり
みー君が「え? え? 何で!?」と一人騒いでいると、皆が集まってきた。
「みー君、どうしたんで…、………おや?」
久吾が大きめのぬいぐるみを見て、少し驚く。
もっちーが「あの子のもっちーか!?」と言った。
「あ、あ、あのね…」
みー君は事情を話した。
◇ ◇ ◇
「…ボク、失敗しちゃったのかな…」
すると久吾が、ぬいぐるみをじっと見て言った。
「…いえ、その子の魂、ここにあります」
「「!?」」
皆が驚く。久吾には、魂色の幽かなゆらぎが見えていた。ただ、やはり肉体と離れてしまっているため、はっきりとは視えない。
これは、めぇの時に見た現象だ、と思った。
(…クスン、クスン…、たすけて…)
ぬいぐるみの中で、必死に助けを求めていた。
仕方ない、と思い、
「みー君、その子をこちらへ。助けを求めているようなので、私が行ってきましょう」
「ボクも行く!」
しかし久吾は、
「いえ、外は雨ですし、私一人の方が動きやすいです。申し訳ないですが、ここで待ってて頂けますか?」
そう言うと、久吾は自分とぬいぐるみを透明の球体で包み、何やら印を結んで瞬間移動していった。
◇ ◇ ◇
階段から落ちた桃子は動かない。今の異様な状況下で、皆ぬいぐるみが無くなっていることに気付かない。
「桃ちゃん!」
秋恵が気も狂わんばかりに叫んでいる。妹ばかりか、可愛い姪っ子までも守れなかった。後悔の念が、秋恵を苛んでいた。
「………え? マジで? まさか、死んじゃった?」
若い男は桃子に近づこうとする。それを秋恵が阻止するべく、桃子の上に覆いかぶさった。
「やめて! もうこれ以上、桃ちゃんに近づかないで!」
泣きながら桃子にしがみつく。すると男は、再び面倒くさそうに、
「…あーあ、何だよもう…、働き損じゃん。じゃあもういいや」
秋恵の背に、ナイフを突き立てた。
「あぐっ!」
秋恵が一瞬喘ぎ、「…桃、ちゃん…」とだけ言うと、事切れた。
男は次に懐から何やら瓶を取り出し、リビングの真ん中に中身の液体を撒き散らす。そして、ポケットからライターを取り出し、火を着けて、それを液体に向かって投げた。
ボウッ、と液体から炎が燃え広がった。
そして、すぐさま玄関の方に向かい、
「あんたらも助かりたかったら、すぐに出た方がいいよー。じゃあねー」
すると、隆が守と翔の手を掴んで、玄関に向かった。守が、
「父さん…! 母さんと桃子が…!」
「…諦めろ。今は動ける者だけで逃げるんだ」
翔が叫ぶ。
「何でだよ! 何でそんな、ひどいこと…!」
「うるさい!」
守も翔も、黙ってしまった。
そして三人は玄関を出て、隆は胸ポケットからスマホを取り出し、消防と警察に連絡を入れた。
………一人、火の中で立ち尽くしていた幸宏が、秋恵と桃子のそばに寄り、二人を担いだ。
◇ ◇ ◇
久吾は、名奈家の上空にいた。透明な球体のお陰で雨に濡れず、認識阻害の術で人目にもつかない。
ぬいぐるみに問いかける。
((…さて。おうちはどちらの方角でしょう?))
ぬいぐるみは動かない。が、心の声が久吾に聞こえる。
((…おじさん、まほうつかいなの?))
おや、と思い、
((似たようなものです。あちらの方、何やら明るいですね。嫌な気配もします))
((うん。たぶん、あっち))
久吾はスーッと、その方角に移動していく。
((すごい! すごい! お空とんでる!))
ぬいぐるみの中の桃子が喜んでいる。
明るいと思っていたものが、近づくにつれ、どうやら燃えている家屋だと気が付いた。
…と、その途中、久吾は目下に異常な魂色の気配を感じた。真っ黒だ。おどろおどろしくうねっている。
しかも、そのうねりの中に、数え切れない浮かばれない霊が悲痛な叫びを上げている。その殆どが、女子供だ。
久吾は移動を停止した。桃子が訝しんだ。
((…おじさん、どうしたの?))
久吾は黙って、その恐ろしい程どす黒い魂色の元を確認する。久吾からは、その人間の姿を確認するのが難しいほどだ。
「…あれはいけませんねぇ。生かしておくのは、とても危険です」
思わず呟いた。