6-1 桃子と秋恵ママ
遺骨を抱えて、桃子は一人で、叔母を待っている。
まだ6才になったばかりの桃子は、母の春香と二人で暮らしていたのだが、先日の朝、母は起きて来なかった。
桃子が一生懸命揺り動かすのだが、冷たくなった母は、桃子がどんなに頑張って起こしても、起きなかった。
尋常ではない桃子の泣き声を聞いたアパートの大家が、警察に連絡をして対処してくれた。
行政の方で、遺骨にするまでを行ってくれた。東京に住む桃子の叔母が、こちらに向かってくれているとの事で、桃子は一人で待っているのだ。
雨が降りしきる中、叔母の家族が全員で、車で迎えに来てくれた。桃子の叔母・秋恵は、春香の姉だ。
「桃ちゃん!」
ふっくらした体の秋恵が桃子に走り寄り、抱きしめる。
「ごめんね、ごめんね…。遅くなって…」
秋恵が泣きながら言う。桃子もつられて泣き出した。
秋恵の夫・川野隆と、息子が二人、高校生の兄・守と、中学生の弟・翔が、後からやって来た。
「…桃ちゃん。おばちゃんね、桃ちゃんに、うちの子になってもらおうと思ってるんだけど、良い?」
「………いいの?」
秋恵がこくこくと頷く。守と翔も近くに寄ってきて、守が桃子の頭を撫でながら、
「今日から俺らの妹だ。ちゃんと守ってやるからな」
「桃子をいじめるヤツがいたら、俺らでやっつけてやるからな」
翔もそう言った。隆叔父さんも、
「うちは女の子がいなかったから、桃ちゃんがうちの子になってくれると、嬉しいんだよ」
皆で、うちにおいで、と言ってくれた。
母の遺骨と一緒に、桃子は皆と車に乗った。
◇ ◇ ◇
―――1年後。桃子は東京の小学校に通っていた。
ピカピカの、桃色のランドセルを背負って、毎日通学していた。人見知りで、引っ込み思案な桃子だったが、友達も出来、それなりに楽しく過ごしている。
「ただいまぁ!」
家に帰ると、秋恵が「おかえり!」と言って、迎えてくれる。
桃子は、ポフン、と秋恵の懐に飛び込んで、
「秋恵ママ! 今日ね、あのね…」
楽しそうに、友達としたことなどを話し出す。秋恵ママは、ニコニコしながら聞いている。
春香ママと同じくらい、大好きな秋恵ママ。
もうすぐ桃子の7才の誕生日だ。今度の日曜日に、皆で誕生日プレゼントを買いに行こうと決まっている。夜にはケーキでお祝いだ。
桃子は、にいに達や隆パパ、それから大好きな秋恵ママに祝ってもらえる、夢のような誕生日を、とても楽しみにしていた。
◇ ◇ ◇
―――裕人の誘拐事件から一週間以上経った。ふーちゃんは、未だ目を覚まさなかった。
「………ふーちゃん…」
みー君が心配そうに、ふーちゃんの様子を見る。
そんなみー君を、もっちーとめぇが心配そうに見ている。
「みー君、大丈夫ですメかねぇ…」
「うん。思いつめてんな…」
すると、久吾が後ろから、
「…では気分転換に、おつかいでも頼みましょうか?」
とお財布を広げながら言うので、もっちーが
「お! 行く行く! 大福アイス買ってくる!」
と言って、久吾からお札を受け取り、「みーくーん!」と叫んで、キュルキュルっとメットカーでみー君に突撃していった。
みー君はまだ、どことなくしょんぼりしていたが、もっちーに促されて散歩がてら行くことにした。
◇ ◇ ◇
もっちーを抱えながらアイスの袋をぶら下げて、てくてく歩いていると、前から家族が歩いてくる。
前を歩く小さな女の子は、両手に余るような、白い大きなアザラシのぬいぐるみを持っていた。
「…お! アザラシじゃん」
小声でもっちーが言う。家族の話し声が聞こえてきた。
「お誕生日プレゼント、気に入ったのがあって良かったねぇ」
ママらしき人に言われて、女の子は「うん!」と喜ぶ。
「そのぬいぐるみに、名前付けるのか?」
兄らしき人が言う。
「…んーとね、えーと…、もちもちしてるし…」
みー君たちとすれ違い様、女の子が
「名前は、もっちーにする!」
と、嬉しそうに言った。