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5-7 暴走の炎

 みー君からの連絡を受け、久吾は、


 ((分かりました。今行きます))


 と返事をした。そばにいたふーちゃんに、


 「もしもの時は、お願いします」


 と言い、めぇには留守を頼んだ。ふーちゃんが頷き、それを見て久吾は、フッと消えた。瞬間移動だ。


 次の瞬間、久吾は空の上、みー君の隣に姿を現す。宙に浮いたまま立っている。

 下には何故か、オートバイに乗った集団がエンジン音を吹かしながら大勢集まっていた。


 「…あれは何でしょうね」


 久吾が聞くと、みー君は、


 「うーん、分かんない」


 と答え、「あそこだよ」とビルの上を指差す。


 久吾が見ると、赤ん坊の時の輝きをすっかり無くし、曇天の空の色をまとった裕人と、怒りによる赤黒いもやと、淀んだヘドロのようなもやに包まれ、時折チリッと鋭い黄色の棘をはじき飛ばしている魂色の小男がいた。


 黄色の棘は、久吾の経験則では正義感が『自分は悪くない』などの極端な自己肯定に変わり、激しく自己中心的な考えに達した者が発する現象だ。恐らく話は通じない。


 ビルの上には、下を見下ろす佐藤と裕人がいた。


 「見えるか? ガキ」


 佐藤が裕人の頭を掴んで、下を見せる。オートバイの群れだ。


 「アレは、辰哉のチームと敵対してた奴らが集まってんだ。毎年律儀に、死んじまった連中に花を手向けに来てんのさ」


 佐藤はニヤリと笑って、


 「これからアイツ等の中に、お前を放り込んでやるからな。憎い辰哉のガキをミンチに出来りゃ、死んだ奴らの最高の手向けになるだろう?」


 裕人は、恐怖に引きつる。が、同時に、もうどうでもいい、と自暴自棄の感情もあった。

 オートバイの集団が列をなして走り出す。その列に向かって佐藤は、「じゃあな」と裕人を突き飛ばした。


 裕人の身体が一瞬宙に浮き、落下していく。

 瞬間、みー君が猛スピードで裕人に向かって飛んでいった。しかし、その手にはもっちーを抱えている。すかさず久吾は、裕人の身体を透明の球体で包み、念力で支えた。


 ((こちらは大丈夫ですよ))


 みー君にそう言って、もっちーと裕人を手元に移動させる。するとみー君は、佐藤に向かって飛んでいった。

 驚いた佐藤は、怒っているみー君に睨まれながら、慌てふためいている。


 「ひっ! な、何だオマエは! ば、バケモンか!?」


 瞬間、みー君の身体が炎に包まれた。心なしかみー君の姿が揺らいで、少し大きくなった気がした。それを見て、久吾が珍しく動揺した。


 ((…不味い! みー君…!))


 だが、今のみー君に久吾の声は届いていないようだ。みー君は更に炎の領域を広げる。佐藤が悲鳴を上げながら、転がるようにビルを駆け降りる。

 佐藤を見失い、自分をも見失ったみー君が、火の玉になって急降下していった。久吾がもっちーと裕人を一緒の球体に包みながら下降しつつ、急いで印を結ぶ。


 「…防御結界と、認識阻害も必要ですね。二重結界は面倒ですが」


 久吾の作る結界は陰陽道由来のもので、ハチが作る結界とは別物だ。


 オートバイの集団が騒ぎ出す。上からの熱気に、皆走るのをやめて騒ぎ出す。


 「お、おい、アレ………」


 「な! …隕石!?」


 だが、そう言った瞬間、辺りが一瞬で炎の海と化した。炎の塊となったみー君が、何かを叫んでいる気がした。

 と、その時、みー君の背に何かが降り立った。


 「………みー君。落ち着いて」


 すると、みー君の炎が消えた。みー君を後ろから抱きしめ、翼を広げたふーちゃんがそこにいた。

 だが、炎の海はまだ消えていない。久吾はすぐそこに広がる東京湾から、海水を物質転送(アポート)させた。およそ三千トンはあろう水量を、炎の海に落下させる。


 「…どうでしょう。消えますかねぇ」


 ザザー…という音とともに、辺りは蒸気を立てていたが、どうやら炎は消えたようだ。が、久吾の張った結界の中は、あらゆるものが焼け焦げた跡と、焼死体が累々と並んでいる。

 そこへ佐藤が、転がるようにビルから出てきた。下の様子を見て、


 「ひ、ひぃっ!」


 叫びながら走っていく。久吾は佐藤を透明の球体で包み、結界の外、警察の面々が集まっている辺りに放り出してやった。


 「…助かりました、ふーちゃん」


 みー君は元の姿に戻って、ふーちゃんに抱きかかえられている。久吾の後ろには球体に包まれた、気を失った裕人と、「みー君!」と泣いているもっちーがいる。


 「………」


 

 久吾がふーちゃんに尋ねる。


 「立て続けですみません。お願い出来ますか?」


 ふーちゃんはにっこり笑って、


 「…もちろんよ。私は、こういう時のために、みー君といるのだから」


 そして、気を失っているみー君を久吾に預け、翼を広げて前に進み出た。

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