5-4 分霊
「どうされたんですか、皆さん…。っと、初めましての方もいらっしゃいますね」
久吾が出てきてそう言うと、月岡が前に出た。
「緊急の用事でな、そこの伊川さんを迎えに来たんだが…。…何でアンタの所に…」
「む、迎えって…、裕人、見つかったんですか!?」
「はい。昭和島の方に連れて行かれたみたいです。今、緊急で他のパトカーも向かっているので、一緒にこちらへ…」
石塚がそう言ったが、何故か月岡がそれを遮った。
「ちょっと待ってくれ。…伊川さん、あなたの息子を誘拐した佐藤が、あなたのお子さんを『溝口の息子』と言ってるらしいんだが、あなたは溝口と知り合いなのか?」
章夫は「え?」と驚いた。
「何を言って…、溝口って誰ですか?」
月岡は溝口辰哉の手配書を出す。章夫の表情が変わった。これは、知っている顔だと判断した。
「…15年前、自分の妻である坂口組組長の娘を撲殺して、そのまま行方不明になっている男だ。溝口辰哉…、何で犯人はあなたの息子を、この男の息子だと言っているのか、何か知りませんか?」
「……………」
章夫は手配書を見たまま固まっている。久吾ももちろん知っている。自分が15年前に始末した男だ。が、顔には出さない。
久吾は皆に言った。
「…とりあえず皆さん、中へどうぞ。時間もないでしょうから、手短でお願いします」
◇ ◇ ◇
「………この男は、死んだ妻が過去に交際していた男です」
石塚はそれで納得したようだが、月岡は違った。
「それだけでわざわざ佐藤が『溝口の子』とは言わないだろう。ヤツと付き合った女は、それこそごまんといるんだ。それに何より、何でこの人の所に来てるんだ」
久吾を指差して言う。そして、今度は久吾の方を向き、
「アンタもだ。…もしかして、アンタ溝口の行方を知ってるんじゃないのか?」
「…知りませんよ」
顔色一つ変えず、久吾は言う。
しばらくの沈黙が続いた。月岡がしびれを切らしたその時、隣の部屋から出てきたみー君ともっちーが、その空気をぶち壊した。
「むー…、もっちー強すぎるぅ…」
「ワッハッハ! みー君がオレっちにス◯ブラで勝つのは百年くらいかかるな!」
はた、と応接間の面々と目が合った。
「やべっ、お客さん来てたのか」
みー君がもっちーを連れて行こうとすると、石塚の目がもっちーに釘付けになっていた。
一瞬、風月とめぇのことが、月岡の頭の中でリフレインする。
「…石塚さん、まさか………」
が、久吾は風月のそれに似た石塚の魂色に、柔らかい暗褐色のフィルターがかかったのを見た。郷愁の色だ。そしてもっちーも、石塚をじーっと見ていた。
「…石塚さん?」
めぇを抱いた風月に声をかけられ、石塚がはっとする。
「…あ、いや…。このぬいぐるみさぁ」
石塚はそう言いながら、もっちーを抱き上げた。もっちーも変わらず石塚を見ていた。
「…俺のガキの頃からのダチがさ、死んじまったんだけど…。そいつが小学生の頃、初めてクレーンゲームで自力で取ったって自慢してたぬいぐるみに似てるんだよ、コレ。まぁこんなにキレイじゃなかったけど…」
そう言いながら、懐かしそうにもっちーを見ていると、もっちーが口を開いた。
「……………オマエ、シュージか?」
石塚が驚いた。
「え!? 何で俺の名前………、てか、ぬいぐるみが喋っ…」
「オッサンになったなあ、オマエ! オレっち最初分かんなかったぞ!」
もっちーがそう言って笑いながら、石塚の手をヒレでペシペシ叩いた。と思ったら急に怒って、
「あ! そーいやオマエ、オレっちのことバレーボール代わりにして遊んでたろ! おかげでオレっちボロボロになるとこだったんだぞ! 忘れてねーかんな! コンニャロ!」
そう言ってさらにペシペシ叩く。
「え!? ええ!?」
パニックになりかけている石塚達に、久吾が割って入った。
「落ち着いて下さい。彼…、もっちーさんは持主だった拓斗君という男の子の、分霊なんですよ」