5-3 裕人の行方
数時間前、裕人は友達と分かれ一人帰宅の途についていた。お父さんに何をご馳走してもらおうかなぁ、などと考えながら。
人通りのない道に、一台の車が通る。
裕人のすぐ手前で車が止まり、2〜3人の男が出てきた。その連中が真っ直ぐ自分に向かってくる。
驚いて逃げようとしたが、裕人は口と目をふさがれた。捕まって車の中に入れられ、手足を縛られた。
車が移動する。知らない男達の声がする。
「これで仕事は完了か」
一人の男が言った。
「ああ。とりあえず攫って、依頼人に連れて行けば百万だとさ」
そのまま、車は走っていく。裕人には何がどうなっているのか、さっぱり分からなかった。
◇ ◇ ◇
警察では、少年の目撃情報が寄せられていた。
防犯カメラにも、攫われて車に乗せられる少年の姿が映し出されていた。
「…今どきじゃ誘拐なんて、すぐにバレるのになぁ。ずいぶん雑なことしてるな」
刑事同士が話している。
「闇バイト系のサイトの洗い出しもしている。すぐに犯人も分かるだろ」
少年が攫われた時刻は夕方頃。車が向かったのは、昭和島近辺である。
すると、一人の刑事が思い出したように言った。
「…昭和島? おい、今日って、毎年恒例の追悼集会じゃなかったか?」
「あ、アレか。《爆走道化師》の連中の。…でも、誘拐と関係あるか?」
その時、別の警察官が部屋に入ってきた。
「高校生を攫った連中、身元が割れて確保しました。攫われた高校生も、届けが出ている伊川裕人君で間違いないそうです。やはり闇バイトで雇われた連中で、今聴取していますが、依頼したのはアカウントから割り出した、この男だそうです」
一枚の写真が出された。
「懐かしい写真だな…。…コイツって、この間まで坂口組にいた、佐藤だったか?」
「そうだな。この写真、あの溝口が行方不明になった時の聴取で撮ったやつか。だいぶ顔も変わってるんじゃないか?」
「だろうな、15年前か…。結局コイツ、何も知らなかったんだよな。組も解散して、今頃になって何やってんだ…」
「そういや溝口も佐藤も、確か《爆走道化師》と敵対してたグループに居たんだったか?」
写真を持ってきた警官が言った。
「昔の話は知りませんが、何でも攫った高校生・伊川裕人君は、この男曰く『溝口の息子』だと言っていたそうです」
はぁ!? と他の刑事達が驚いた。
「何だそりゃ! アイツに子供って、どういうこった!?」
何かの間違いではないか、と思ったが、とにかく犯人確保と攫われた男子高校生の救助が先となり、昭和島へと人員が配備された。
ひとまず男子高校生の父親にも、連絡と共に同行を求める係として、月岡と三枝、それから石塚という刑事が行くことになった。
「…石塚さん、協力感謝っす」
「おう、月岡。よろしく頼むよ」
石塚は、月岡より少し上の先輩だ。
彼は本来少年課にいるのだが、今回自ら援護を希望した。
「…あの佐藤だろ。アイツとはちょっと、因縁があるんだよなぁ…」
「?」
石塚はボソリと、意味深な事を言った。
◇ ◇ ◇
月岡達が車で、伊川家のそばまで近づいた時、何故か父親の章夫が家から出てきた。
「ん?」
月岡が訝しんだ。
「…家で待機しててくれって言ってあったはずなのに…。どこへ行くつもりなんだ?」
とても急いでいる様子だった。車を止めて、追いかけて行く。声をかけようとしたが、章夫の目的地はすぐそこの、月岡と風月は見たことがある家だった。
久吾の家だ。
「!? 何で!?」
月岡と風月は驚いたが、石塚は「?」だ。
そこに章夫を出迎えるめぇの姿が見えた。
「! ぬいぐるみが…!?」
と言いかける石塚の脇をすり抜け、
「うはー! めぇチャーーーン!」
と、めぇに飛びついたポンコツがいた。
後ろでは月岡が頭を抱えていた…。