幕間 未来へ
久吾が飛空船内に現れた。
皆一様に、消えてしまったノアの複製達を想って、泣いている者、別れの言葉を言えず悔恨の意を示す者など様々だったが、久吾は元型界に行ってしまった複製達の伝言を各々に伝える。
そして、《5》から譲渡された癒しの能力を使い、リュシーの目を再生させた。
譲渡された能力は、情報チップからではなく、チップの内容を《5》が情報共有の要領で変換させたもので、久吾の元々の能力と相まって、対象の再構築を促すものだが、ほぼ同様の効果を発揮した。
始めは泣きながら拒否していたリュシーだったが、ピエールの遺言でもあったことで、最後は素直に受け入れていた。
―――そして。
飛空船を元の場所…、アリゾナのソノラ砂漠へと移し、転移門で皆をそれぞれの居場所へと帰していた、その頃。
あの場所では、今後の話し合いが賑やかに行われていた…。
◇ ◇ ◇
「…っあぁ〜! まぁ、何だかんだで、めでたしめでたし、ってヤツかな!」
大きく伸びをしながら、コタツの中で拓斗が言う。
―――ここは賽の茶の間。
久吾と《2》が闇の冥界でケンカ(?)をしていた時は、ヤフェテに事情を聞かされ皆驚いていたが、閻魔の采配で、一瞬だけでも久吾に挨拶が出来、ぬいぐるみ達も喜んでいた。
「そうだな。…さて、そなたら。どうする? 門を潜るか?」
ヤフェテに問われ、拓斗ともっちーは、
「うーん…、どーすっかなぁ。生まれ変わりの場所とか親とか、選べんだろ?」
「オヤが選べるってスゲーな! フツームリだよな!」
二人(?)が陽気に悩んでいると、めぇとシンは、
「オレ達はもう決まってるよな」
「ですメ! お父様とお母様は、あの方達で決まりですメよ!」
こちらはそう頷きあっていたが、桃子ともつこが真剣に悩んでいた。桃子は、
「うーん、うーん…、だれがイイかなぁ…」
「オリヴィアねぇねも、彩葉ねぇねも優しかったのよ! もつこね、春香ママや秋恵ママみたいな、優しいママがイイ!」
もつこの意見を聞きながら、しかし桃子は重大なことに気付いていた。
「ママはいっぱい候補がいるのよ。問題はパパ! パパに問題ありだと、問題ありありなのよ! 桃子、経験者なんだから!」
真剣な顔で言う桃子に、もつこも釣られて、うーん、うーん…、と唸り出す。
そんな二人(?)を見ながら、秋恵がクスクスと笑っている。
「そんなに急がなくてもいいんじゃない? すぐに門を潜らないといけないんですか? ヤフェテ様」
秋恵がヤフェテに訊くと、
「いや、どうせならじっくりと選ぶが良いだろう。本来は『親を選ぶ』ことなど出来ぬのだからな」
穏やかに笑いながら、皆の様子を見ている。桃子ともつこが悩みながら、
「守にぃにと翔にぃいも、一応候補に入れとこっと。あとぉ…」
「羽亜人にぃにや大弥にぃにも、優しかったのよ!」
一生懸命パパ候補を考えているようだ。
ふと拓斗ともっちーを見ると、何やら悪い顔をして企んでいる。
「シュージんとこの子になってやったら、ビックリされっかな!」
「修司ぃ? もぅジジイじゃん! 香織チャンもすっかりバ…」
「拓斗くぅん」
楽しそうに話していたら、椿鬼が笑顔で圧をかけてきた。
ギクリとする拓斗ともっちーに、
「セクハラ発言禁止って、前に言ったわよね? 君には学習能力って、備わってないのかしらぁ?」
笑顔が怖い。シンが呆れた顔で、
「椿鬼。ソイツはバカだから仕方ない。死んでも直らないバカなんだから、筋金入りだ」
「ぬぉ!? ヒドイぞ! バカバカ言うな!」
そんな言い合いを秋恵が見ながら、
「………このやり取りも、もう見られなくなっちゃうのねぇ」
そうため息をつくと、ヤフェテが秋恵に、
「…どのみち生まれ変われば、それまでの記憶は全て消えるのだがな。…で、そなたはどうする? まだ息子達が気がかりか?」
すると秋恵は、再びため息をつき、
「ええ…、せめてあの子達が無事、独り立ち出来るようになるまで見守れたら、と思っているんですけど…」
秋恵が、いけませんか? と尋ねると、ヤフェテは、
「構わないぞ。この子等もしばらくはここで悩んでいるだろうしな。そなたらが納得いくまで、ゆるりと過ごせば良い」
そう言われ、まだまだこのやり取りを見られそうだ、と秋恵もコタツに頬杖をつきながら笑顔になる。
先程まで拓斗をバカ呼ばわりしていたシンが、
「まぁ、あの二人の結婚までもう少し時間がかかるだろうしな。早くても生まれ変わるまで、あと2〜3年はかかるだろ。面白いから、今後どうなるか見ててやろう」
「ハイですメ!」
めぇが返事をすると、拓斗がニヤリと笑い、
「意外と破局しちゃうんじゃね?」
な!? と驚くシンとめぇに、もっちーが、
「んなことないぞ! ツッキー、イイヤツだかんな! 拓斗もそんなこと言っちゃダメだぞ!」
ぬいぐるみに諌められた。
「やっぱもっちーが本体だろ」
シンに言われ、拓斗がショックを受けながら再び言い合いになっている。
(まだまだ、ここは賑やかね…)
ひたすら悩む桃子達や、騒がしい拓斗達を見ながら、秋恵はにっこりと微笑んだ。
次、最終章です。
3〜4話…、で終わるかなぁ…。