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24-2 受け継がれる世界

 「あの少年…、裕人さん曰く、『悪人も支えてくれる人がいれば変われるのではないか』、だそうですが…」


 久吾は少し険しい表情を浮かべながら、


 「例えば極悪人を一人更生させるとして、その人間一人につき、他の人間…、一体何人の人生を犠牲にすれば、更生出来るのか…。下手をすれば、更生させようとした人間の命が脅かされます。今現在の人間の法…、人間同士で誰も犠牲を出さず(・・・・・・・・)、完全に極悪人を更生させるのは、まず不可能なんですよね」


 そう言って久吾はため息をつきながら、


 「…であれば、他者に仇なす極悪人は、地獄できっちりと裁かれ、その魂を清めてから人生をやり直して頂きたい、…と、私は思っています。…たまに『極悪人でも救うべきだ』なんて方も居ますけど、それは、そういう事を言う方が、自分の人生を犠牲にして救えば良いんです」


 《(ベート)》は聞きながら、少し呆れ気味に、


 「貴様は………、それは、貴様も悪人を擁護する気は無い、ということか?」


 久吾は、また少し考え、


 「…まぁ、私の前にそのような輩が現れたら、という程度ですね。わざわざ、自ら進んで悪人を見つけて(ほふ)ろうなどと、そんな面倒なことはしません」


 「………つまり、人は、そう在るが(まま)に、ということか」


 《(ベート)》が僅かに憤りながら言うと、久吾はまた少し考えて、


 「ですが…」


 「?」


 「裕人さんが仰った、『支え合って、助け合っていけば、きっと悪い人も減らしていける』………、私も人間達の中で五百年ほど過ごしましたが、…結局それが、人間達の世が今日(こんにち)まで続いた『因』ではないか、とも思うんです」


 天使の魂色に包まれた地球を見ながら、そう言う久吾を見て《(ベート)》は、


 「!? …その程度のことで、か? そんなもので、人間達の『悪意』が収まる訳もなかろう」


 しかし久吾は、


 「いいえ。人間とは、それ一人では生きていけないのですよ。ですから集団となる…。ですがそれは、同時に軋轢も生む。『個』としての人間は皆違いますから、各々の考えがぶつかり合う…」


 そして、過去に関わってきた人間達を思い出しながら、


 「…それでも、互いを認め合い、支え合い、助け合う。意見の違いに歩み寄り、譲り合いながら、折り合いをつけていく。その際に漏れ出る『悪意』もあるでしょうが、そういう互助の行いによって、『善意』も生まれていくのです」


 「……………」


 「歴史に名を残すような、いわゆる『偉人』と呼ばれる人間達の背景にいるのは全て、それを支え合ってきた、何千、何万という人間達なんです。日々を懸命に生き、目の前の問題に出来る範囲で立ち向かい、子を護り、大事なものを護りながら、脈々と人の世を紡いでいく…。その上に、『悪意』が存在するように、『善意』も確かにあるのです」


 聞きながら、《(ベート)》は目下の地球を見る。


 「善意…、か。先日まで、宮殿にいた者達も、そうだったのかも知れぬ。…だが、それも少しのきっかけで、悪意に変わるだろう。それが、人間だ」


 《(ベート)》がそう言うと、久吾も目下の地球を見ながら、


 「そうですね。しかし皆が皆、悪意に取り込まれていたら、人間はとっくに滅亡していますよ」


 そう言って静かに微笑む。久吾は続けて、


 「…あの少年、裕人さんのお父様のように、心が折れそうな辛い経験を乗り越え、それらを糧に日々精進していく…。華々しい英雄譚は無くとも、そうやって心を鍛え、輝かせてきた人間達こそが、この世を支えてきたのだと、私は思います。ずっと人間達を、見てきましたから…。まぁ私の場合、日本限定なんですけどね」


 そう言って苦笑するが、そういう人間はきっと、国も、宗教も、人種も関係なく、世界中に存在していたに違いない。

 人間はそうやって、遥か昔から人間の世を、ここまで繋げていったのだ。


 権力を傘に自分の欲望を振りかざし、我を貫き争いを起こす為政者達がいる反面、各々の日々の生活を連綿と護り続けてきた、歴史に名の残らない大勢の人間達がいる。


 久吾が寄り添ってきた人間達は、後者なのだ。


 《(ベート)》は久吾の言葉を聞きながら、


 「………《(エフェス)》、彼の魂の色が霞んでいったのは、心が弱り減衰した、ということなのか。貴様の言う、その人間達のように、心を鍛えることが出来なかった、と…」


 すると久吾はまた少し考えて、


 「あの方の場合は…、シンプルに生命力の減退ではないですか? 我々の創造主とは言え、魂の色が視える時点で、あの方も『神』ではありませんから」


 そう言うと、《(ベート)》は、フン、と、呆れたように久吾を尻目に見て、


 「…貴様は、面白いことを言う。私と同じものを視ていながら…、人間達の中で過ごすと、そのような考えに行き着くのか…」


 「あなたも人間達と過ごしてみたら、面白かったかも知れませんよ」


 久吾がいたずらっぽくそう言うと、《(ベート)》は無表情に儀式の続く地球を見ながら、


 「私は方舟の…、宮殿の守護を任されていたのだ。それに、私が見てきた人間達のほとんどは、汚れた色を纏っていた。あのような者達と過ごすなど、ぞっとする」


 聞いて久吾が苦笑すると、にわかに目下の様子が変わる。


 「? 何だ?」


 先程まで眩しく輝きながら地球(ほし)を包んでいた天使達の魂の色が、減少し始めた。

…この手の話に毎度言い訳してる気もしますが、あくまで久吾さん個人の見解ですので、ご了承下さいマセm(__)m

難しいですよねぇ…。

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