23-16 攻防
「………! 貴様…、《最後の番号》、…何をした!?」
突然の闇の中に放り出され、戸惑う《2》の問いに久吾は、
「ここは闇の冥界です。私、時々ここで発散させてもらっていたのですよ」
真っ暗闇の中、二人だけの空間で互いに睨み合う。久吾は静かに、
「…ここなら私とあなたで、能力をぶつけ合っても大丈夫です。思い切り闘り合えますよ」
《2》の表情が僅かに歪む。微かに笑っている。
少し嬉しそうに《2》は、
「…フ、そうか。では、ここで貴様を倒し、その能力を吸収させてもらおう!」
だが久吾は表情を変えずに、
「………残念ですが、恐らく吸収は無理です。私の体内構造は、女神様の手により変化しました。もう情報チップは無いのです」
「! 何だと!?」
驚きの表情を見せた《2》だが、すぐさま瞬間移動で久吾の背後に回る。吸収の動作を見せるが、
「無駄です」
久吾は予測していたのか、一瞬で《2》に向かい合い、その腕を掴み取る。
「くっ…! 離せ!」
瞬間、《2》が全身から凄まじい雷を放出する。…だが、久吾は無傷。雷を吸収した。
「…! この…」
「お返ししますよ」
そのまますかさず吸収した雷を《2》に向けて放出する。…が、《2》も一瞬で少し離れた場所に瞬間移動し、
「舐めるな!」
言いながら巨大な思念波の塊を拳に集中させ、凄まじいスピードで久吾に向かっていくつも叩きつける。
「!」
久吾は《2》の思念波をかいくぐりながら、片方の手で《2》と同様の思念波で攻撃する。
と同時に、もう片方の手で光の渦を作り出す。
(!? 何だ!? あの光は…)
―――極滅波。渦は一度極限まで圧縮され、その反動で大爆発を起こす。
久吾は己の身を守るため、透明の球体にその身を包む。
「貴様…! これが《7》の言っていた…」
《2》もそう言いながら、己の身をバリアボールに包んだ。
凄まじい爆発音と共に、真っ暗だった周囲が果てまで輝いた。恐らくその身体を剥き出しにしていれば、塵も残らず消し飛んでいただろう。
…ふう、と一呼吸する久吾に、《2》が間髪入れず攻撃を加えてきた。
「! 何という…、休む暇がありませんね!」
攻撃を躱しながら、さらに次の極滅波の準備をする。
二人の攻防は続いていた。
◇ ◇ ◇
「ななさん…、大丈夫かな」
船の上で分身・ミカエルが心配するが、ミスターが、
「…遡行の儀、始めるなら今のうちだと思うが、どうするかね?」
すると分身・ウリエルが、
「ミスター…、本当に良いの?」
今にも泣き出しそうな顔で言う。ミスターは頷きながら、
「ああ。皆で刻を戻し、元型界へと向かえるのだ。そこには《0》…、ノアもいる。ここ現実界の人間達も、何事もなかったように、全てが元通りになる…、それが最善の道だと思うがね」
すると、《5》による情報共有の効果が発動され、
((…天使達、どのみち地表の水量は、今更元に戻せない。結局あなた達の御業を発動するしかないと思うわ。…私達は構わないわよ。あなた達が、人間達の世を思うのなら、思う通りにしなさい))
話を聞きながら、大天使達も頷く。
『…あまり時間がない。君達が切り拓いたこの開路は…、オリハルコンは、そこまで持ち堪えられない』
そうミカエルの本体が言った傍から、ピシッ! と音がして、オリハルコンに僅かに亀裂が走った。
四人の分身達が互いを見合わせ、少しの間の後、頷きあった。
「………じゃあ、みんな。始めよう」
ミカエルはそう号令を出し、ヤドリギの指揮棒を取り出す。
―――軽く、振る。
その一瞬で、青空に急に影が差し、辺りが暗くなる。不思議に静まり返った空間に、まずは、ガブリエルの声だけが響く。
◇ ◇ ◇
闇の冥界にて、久吾と《2》の激しい攻防が続いている。既に極滅波は数十発撃たれている。
《2》も久吾も、疲れを知らぬように闘い続ける。何処となく、楽しんでいる風にも見える。
「埒が明きませんね!」
久吾が次の極滅波の準備を開始すると、突然、
((―――いい加減にせんか!!))
何処からか、精神感応が送られてきた。
「「!?」」
久吾と《2》が驚いていると、精神感応は続く。
((さすがのワシでも、これ以上は吸収しきれぬ! お前達、そろそろ現世に戻れ! 既に遡行の儀は始まっておるぞ!))
え、と久吾が驚きながら、
「あなた様は、一体…」
だが、精神感応の主は久吾の疑問に答えず、
((その身を防御球に包むが良い! 今からお前達を、特等席に送ってやろう! 良いか!? もう喧嘩はするでないぞ! ガハハ!))
瞬間、《2》と久吾の身体が何者かに浮き上がらされ、ものすごいスピードで上昇した。昇りながら、二人は仕方なく各々透明の球体に身を包む。
…途中、闇の中に切れ間が覗いた。
河原が見える。数人の人影と、コタツにテレビ。
久吾はそれらを囲む者達の中に、それぞれの本体と共にいる、見覚えのあるぬいぐるみ達の姿を見た。こちらに向かって手を振っている。
(………あれは)
一人、知らない男性の姿を見たが、自分達に似た顔つきで笑顔を向けるその気配は、思わず久吾に二人目の師を彷彿とさせた。
(もしかして………)
―――そう思ったのも束の間、久吾と《2》は突如暗い空間に放り出された。
「ここは…?」
暗い…、が、瞬く星々と、太陽の輝き…。目下には、青く美しい惑星。地球だ。
久吾と《2》は、宇宙空間に放り出されていた。
次、一旦幕間挟みます。