表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/194

23-15 大天使達

 「うん、久しぶり! あのね、ボク達、あなた達にお願いがあって…」


 ミカエルの本体が、オリハルコンの中から穏やかな笑みを浮かべて、


 『分かっている。…名奈久吾。やはり君が『鍵』となったな。ノアの分身でありながら、『視える』者…。そして、この地球(ほし)の女神に認められし者…』


 え、と久吾が驚く。ミカエルの本体の隣でガブリエルの本体が、


 『そう、そして、我等とほぼ同等の力を得し者となった。オリハルコンを通じて現実(アッシャー)界と元型(アツィルト)界を繋げる『鍵』にも…。でも…』


 更にラファエルの本体が、


 『そうだな。我等が分身達…、君達の判断で、人間の中でも、我々と同じ(もの)を引き出せる可能性のある人間達を選別し、見事に証明して見せた。これは我々にも予想外だったぞ』


 分身であるミカエル達が、嬉しそうな表情を浮かべていた。最後にウリエルの本体が、


 『…それで、分身・ミカエル。我々は君達に力を貸すだけで良いのか?』


 そう訊かれ、分身・ミカエルは頷きながら、


 「…うん。たぶん、ボク達があなた達と同じ姿になっただけじゃ、この事態はもう収まらない…。『(とき)』を巻き戻すしか、ないと思う」


 聞いてミカエルの本体も頷きながら、


 『そうだな。だが、巻き戻せないものもある。我等の分身である君達と、現実(アッシャー)界にて消滅し、現在元型(アツィルト)界にいるノア、それからノアの分身達は、『遡行(そこう)の儀』の対象外だ。それから…』


 『ああ。ノアの分身達で築いた、現在の『方舟』となる、君達が『飛空船』と呼ぶあの船も、中にいる者達を含めて対象外となる』


 ラファエルの本体が話を引き継いだ。

 それを聞いて、疑問を抱いた久吾が、


 「対象外…、それは、飛空船の中にいる方達は、どうなるというのですか?」


 するとガブリエルの本体が、


 『ああ、つまり、遡行の儀で人間達が、…そう、我等の分身達が(・・・・・・・)閉じ込められる(・・・・・・・)直前まで(・・・・)刻を戻した(・・・・・)としても、今この刻までの記憶が残る、ということになる』


 つまり巻き戻されれば、《(エフェス)》の消滅からここまでの記憶は、世界中の人間達から消し去られ、同時に死亡した人間達も、その事象は無かったことになる。

 しかし、現在の『方舟』と定義付けられた飛空船は、天使達やノアの分身達と同じ扱いになり、中にいる人間達の記憶はそのまま残る、というのだ。


 それを聞いて、裕人が、


 「あ、あの!」


 皆が驚いて裕人を見る。裕人は一瞬たじろいだが、すぐに、


 「…ぼ、僕、それなら飛空船に戻っても、良いかな。…僕、忘れたくないよ。ここまでのこと…」


 そしてNo.56の方を見る。No.56は笑って、


 「ああ、一緒に戻ってやるよ」


 そう言われて、裕人もホッとする。

 ―――だが、次の瞬間、ミカエルの本体が、


 『…ただ、我々の力を現実(アッシャー)界に送れば、恐らく媒介であるそのオリハルコンは消滅するだろう。それは同時に、オリハルコンと同期しているノアの分身達全員の消滅ともなる。…それでも良いか?』


 え、と全員が驚く。分身・ラファエルが、


 「じゃ、じゃあ、ミスターは…!」


 分身・ウリエルも動揺しながら、


 「まさか…、消えちゃうの!?」


 するとウリエルの本体が、


 『これは、仕方のないこと…。…それから、我等が分身達。君達も恐らく遡行の儀を行えば、その身体は持ち堪えられない。…遡行の儀とは、君達が演じることの出来る全ての演目の集大成…、君達の全てを放出するのだ。…なれば現実(アッシャー)界を離れ、元型界(こちら)に来ることになる。既に唯一神(ヤハウェ)の許しも得ているが、…それでも良いか?』


 「え………」


 そう言われ、ミカエル達が躊躇する。

 が、ミスターがラファエルとウリエルの肩に手を置きながら、静かに微笑んで、


 「…私は、君達の為すがままに任せるよ。せっかくこうして、大天使の方々を呼び出したのだ。…それに、我々もずいぶんと長くこの世に留まった。誰も異を唱える者などおらぬよ」


 甲板での模様は、現在飛空船内部でも中継されている。

 ノアの複製達も、彼等に関わった人間達も、皆で中継を見ていた。


 長い間、自分達を慈しんでくれた存在が消える…。

 人間達にとっては少し躊躇する話だが、船の中にいる複製達は皆納得しているようで、誰もが静かに頷いていた。


 ―――だが。


 「………異を唱える者などおらぬ、だと!? ふざけるな!!」


 複製の内、ただ一人、《(ベート)》だけが反論の意を示した。


 「《(エフェス)》もいなくなり、ようやく醜く汚れた人間共を排除出来るというのに! …これまでずっと、耐え難き醜い光景を耐えてきたというのに! 何故貴様らは、そこまで人間を擁護する! 何故、全てを元に戻し、人間達を、何事も無かったことにしてやろう、などと思えるのだ!」


 《(ベート)》の怒りによって、海が逆巻き始めた。

 波が大きくうねり、クジラに乗った人間達が怯えて叫び出す。ラファエルの支えがなければ、全員海に落ちているところだ。


 《(ベート)》の全身が、雷に包まれる。


 「む…!」


 ミスターやNo.56が身構えるが―――




 パチン。




 指を軽く弾く音が微かに響いた。その瞬間、《(ベート)》と、久吾の姿が消えた。


 「…! ななさん!」


 ミカエルが叫ぶ。が、返事はない。

 久吾は《(ベート)》を、闇の冥界へと(いざな)っていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「天使の魂色」、そして今までの天使たちの行動が、すべてここに収束しましたね(小池はヒントをいただいていましたから!)。 多少の犠牲というには、離れるものたちが身近すぎて。 元通りの世界に戻ったとしても…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ