23-14 オリハルコン
復帰しました。
「ベートさん!」
裕人は再び意を決し、
「その…、確かに人間って、悪い人の方が多いかも知れない…、悪意に飲み込まれちゃう人も…、………だけど! 僕は、そういう人達もきっと、支えてくれる人がいれば変われるんじゃないか、って思うよ! 僕のお父さんが、お母さんを支えたみたいに…」
《2》の目には、そう話す裕人の魂が輝きを増すのが視えた。
裕人の話を、ラファエルが他の人間達と共有させる。人間…、子供達は皆、頷きながら、
「………うん、私も、ホントのお父さんが死んじゃって、どうしようと思ってたけど、新しいお母さん、『大丈夫だから』って、私を支えてくれた…。新しい妹も…。だから、私も分かるよ。あの子の言ってること…」
一人の少女が言う。他の者達も頷き、
「私も…」
「僕も…」
各々自分の置かれた境遇の中で、支えてくれた人達への感謝を口にする。
少年・セオも、
「僕も、ママがあんな…。…コルがいなかったら、どうにかなっちゃったかも知れない。コル…」
そう言って弟を抱きしめる。
―――オリハルコンは、さらに輝きを増す。
裕人は、あちこちから湧き立つ『想い』を感じるのを不思議に思いながら、それでも自分の中から湧き上がる感情を、《2》に、言葉で投げかけた。
「…ホントはみんな、悪い人なんかになりたくない、と思ってるはずなんだ。だから、みんなで支え合って、助け合っていけば、きっと悪い人も減らしていける…、それは、これから僕達みんなでやるべきことなんだ! ………僕は、僕達を信じたい! …人間を、信じたいんだ!」
―――ふいにオリハルコンが、今までにないほど眩しく輝いた。
「…! やった!」
ミカエルが叫ぶ。オリハルコンの輝きの中に、ぼんやりと人影が見える。
《2》がガブリエルに向かい、
「………あなた方は、私を謀ったのか?」
するとガブリエルは、首を横に振りながら、
「ううん、『人間が気持ち悪い』っていうのは、ウソじゃないわよ。でもね―――」
ガブリエルは精神感応で、《2》にだけ情報を伝える。
◇ ◇ ◇
―――その日は、ふーちゃんがもつこと買い物をした翌日で、ふーちゃんはテレビのある部屋のテーブルで顔を伏せ、ため息をついていた。
それを見た久吾が、
「? ガブリエル、どうしました?」
ぎくり、とするふーちゃんだったが、自分でも何となくモヤモヤと感じていたのもあり、少し気まずそうに、
「…あ、あのね―――」
ふーちゃんは前の晩行った裕人の祖母への対処を、久吾に話した…。
「―――ふむ。そうでしたか…」
ふーちゃんが少し恐縮しながら、上目遣いに久吾を見て、
「………ななさん、怒ってる?」
心配そうにしているふーちゃんに、久吾は優しく、
「いえ、私達、人間と違いますからね。…それに、あなたは天使です。その判断に私が何か言うべきではないでしょう。ですが…」
「?」
「あなた方がその能力を発動する際の、あの輝き…、それから、人間が心の底から幸せを感じている時にだけ発現するあの輝きは、…恐らく同じものです」
え!? と、ふーちゃんが驚く。久吾は、
「人間はきっとその瞬間だけ、あなた方と同じ領域に達するのではないか、と思いますよ。ですから、滅多に拝める代物ではありませんね」
「えええ…」
ふーちゃんは軽くショックを受けているようだ。久吾は笑って、
「ガブリエル、あなたはその判断で裕人さんを守ったのですから、この話は私達だけの秘密にしましょう。私と、あなたと、それから、もつこさんと、ね」
そう言いながら、貝殻ベッドの中で眠るもつこを二人で見守るのだった―――
◇ ◇ ◇
「―――人間ってホント、気持ち悪いわよね。今みたいに、ほんの少しだけ『神』の領域に近づける人間達も、こんなにいるんだもの」
ガブリエルが、クジラの上の人間達を見ながら言う。
ウリエルも、ガブリエルの側に寄り、
「私も正直、みー君やふーちゃんの話を聞くまでは半信半疑だったのよね。でも、確かに昔、私達が旅をしていた時の、あの頃の感覚…、言われてみれば、だったのよ」
そう二人で笑い合う。するとラファエルの本体も、船の甲板まで飛んでやって来た。
「ふう。…で、ミカエル。上手くいったのか?」
ミカエルは笑顔で頷きながら、
「うん! ほら、見て!」
ミカエルは、オリハルコンの中にいる人影を皆に見せようとするが、それはまだ、ぼんやりとしている。
「! ま、まだ足りない? そんな…!」
するとミスターが、ハイドとシークに精神感応を送り、
((ハイド、シーク。天使達の望みだ。他の皆にも頼んでもらえるか?))
すると、海の底から
((………うん! 俺達の精力、うーちゃん達のために分けてやるよ!))
((ああ! ラファエル達のために!))
その通信の後、海上がぼんやりと光る。その光と共に、オリハルコンもさらに輝く。
ミカエルは最後に、久吾に声をかけ、
「ななさん! お願い! ボクと一緒に、オリハルコンを!」
久吾はミカエルの手を取り、オリハルコンに触れる。ふいに久吾は、オリハルコンに吸い込まれるような感覚に囚われた。
オリハルコンの中の人影が、さらに色濃く浮かび上がる。
…人影が、はっきりとした映像となって、オリハルコン上に映し出された。
それは、四体の人影。長く伸びた頭髪と、その背に六枚の翼を携えている。
『―――久方ぶりだな。我らが分身達』
天使達の本体と、およそ二千年ぶりの邂逅だった。