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23-13 怒りと、葛藤と

 「…ふむ。やはり、こちらの方が精霊魔法よりずっと楽だな」


 北極にいたミスターは氷を作る作業を止め、人間達の操る飛行機と対峙していた。

 スホーイやミグなど、戦闘機の(たぐい)が《(ベート)》を追っていたようだが、それらが民間の避難船や飛行機もお構いなしに攻撃しようとしていたのを発見し、魔法で機器を狂わせ、パイロット達に幻術をかけたらしい。


 「………さて」


 あらかた戦闘機を片付け、ミスターは他にも怪しい動きをする人間の軍用機などに注意を払う。


   ◇   ◇   ◇


 「―――だそうだ。理解したか?」


 ここはクジラの背の上。ラファエル達が船から連れ出した兄弟に、宝来家が用意した船の甲板での裕人の話を聞かせていた。


 今、その船に突然現れた《(ベート)》にそっくりの男と共にいる少年が、《(ベート)》や天使達に臆することなく何かを訴えている様子が、クジラの上の人間達の興味を誘っていたのだ。

 なので、それぞれのクジラに分配されたラファエルの分身が、翻訳しながら皆に内容を聞かせていた。


 話を聞いて、兄弟…、コルの兄・セオが、


 「………悪い人、かぁ。ボクとコル、二人ともパパが違うんだけど、ボクのパパもコルのパパも、ママやボク達を殴る人達だった…、悪い人、だったのかなぁ」


 「このあいだまでパパだった人も、ママと兄ちゃんとボクを、いっぱいなぐったよ」


 コルも言う。セオは頷きながら、


 「うん…、ママのお腹にいた赤ちゃんのパパ…、あの人も悪い人だったのかな。…ママも時々『お前達さえいなきゃ』ってボク達を殴ったけど、そのあと泣きながら『ごめんね』って抱きしめてくれたの」


 「あ、あのね! おとなりにひっこしてきたオジサンが、あたらしいパパとはなしして、それからなぐられなくなったよ!」


 コルが思い出したように言うと、セオは、


 「うん。ていうか、パパ帰って来なくなったからね。隣のオジサン、時々お菓子くれたり、…あの船に乗せてくれたのも、隣のオジサンなんだ。『ツラくても負けんなよ』って、いつも励ましてくれたの。だからボク達、頑張ったんだ」


 どうやら諜報活動中のK(ホシェフ)I(イルグン)メンバーだったようだ。

 ラファエルは話を聞きながら、


 「そうか。お前達も苦労したんだな。…ここに集められた連中はみんな、どうやらお前達と似たりよったりだ。あの船の上の子供の話から考えると、お前達も『悪意を乗り越えた者』なのかもな」


 ラファエルの分身達は、当然ながら本体と意思を共有している。

 人間達が皆それぞれの思いを語っていたのを、ラファエルを通じて天使達四人(・・)に共有されていく。


   ◇   ◇   ◇


 「あ………」


 後ずさりする裕人を見ながら、ガブリエルが《(ベート)》に、


 「脅かしちゃダメでしょ! 別にあなたが間違ってるとは言ってないわよ!」


 すると《(ベート)》は、ガブリエルに向き直り、


 「………あなた方は一体、何をしようとしているのですか?」


 え、とガブリエルがたじろぐ。《(ベート)》は(ひる)むことなく、


 「人間が気持ち悪い、と言いながら、人間を庇っている…。確かに良い人間を選んでいるようだが、どうも何か、別の思惑が感じられる…。一体、何を考えている?」


 「……………」


 ガブリエルは、ぎくり、としながらも、黙って《(ベート)》と睨み合っている。


 (………みー君、まだ?)


 ―――そうしていると、No.56がこっそりと裕人に、


 「…おい、今のうちに逃げちまった方が良いんじゃないか?」


 だが裕人は、ええ!? と言いながら、


 「だ、だって! まだ肝心なコト聞けてないですよ! 何であの人が、そんなに人間を嫌っているのか、って…」


 すると《(ベート)》が、裕人の方に向き直る。


 「何故私が人間を嫌うのか、だと? 貴様ら人間が誕生してから、この地球(ほし)で行ってきたことを考えれば、当然であろう!? 貴様も《最後の番号(ラストナンバー)》も、分かっているではないか! この世は『悪意』に満ちている、と!」


 「!」


 《(ベート)》は続ける。


 「貴様ら人間は所詮、大半が悪意に飲み込まれていくのだ! 例え貴様の父親のように、悪意を乗り越える者がいようとも、結局は悪意の塊…、あの権力者のような者達に踏みにじられるのだ! それが貴様ら人間が定めた、この世界の構造であろう!」


 「…っ! そ、それは…!」


 何か言おうとする裕人だったが、《(ベート)》の怒りに一瞬気圧されてしまった。


 「貴様らもどのみち、善なる心を維持し続けることは出来ぬ! 私はそのような人間を知らぬ! あの《(エフェス)》ですら、最期はその輝きを貶めていったのだ!」


 「!?」


 ―――《(ベート)》がそう言い放った瞬間、船の上にミカエルと久吾が現れた。傍らには、巨大なオリハルコンも輝いている。


 「! 貴様…、《最後の番号(ラストナンバー)》!」


 「………やはり、あなたにも『視えて』いたのですね、《(ベート)》さん」


 そう言うと、今度はミスターも船の上に現れた。


 「ミカエル、もう良いのかね?」


 「うん! みんなのおかげだよ! ありがとう!」


 ミカエルが嬉しそうに言う。オリハルコンは今までにない輝きを放っている。


 「みー君!」


 ガブリエルが声をかける。ミカエルはにっこりと笑い、


 「ふーちゃん、うーちゃんも、ラファエルも、ありがとね! みんなのおかげで、やっと繋がりそうだよ! …裕人君!」


 声をかけられた裕人が驚くと、ミカエルは、


 「君が思っていること、言って! 《(ベート)》に言いたいこと、あるんでしょ!?」


 先程まで《(ベート)》の怒りに気圧されていた裕人は、ミカエルの声に鼓舞されたように、ぐっ、と顔を上げた。

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― 新着の感想 ―
コルとセオも、普通の感覚では不幸なのかもしれませんが。ちゃんとそうでない部分に気付くことができるのですね。 与えられたものの中から輝くものを見つけられる。その視点が大切なのかな、と思えました。昔のアニ…
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