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23-11 裕人の『お願い』

 「…クソッ、おっかねぇなぁ。今すぐ帰りたいぜ」


 そうボヤくNo.56に、裕人が、


 「ごめんなさい。でも僕、どうしても来たかったんです」


 「分かってるさ、仕方ねぇよ」


 そう言いながら、二人は《(ベート)》の前に立つ。


   ◇   ◇   ◇


 「―――ひ、裕人!?」


 船内から甲板を見た蓮は驚いた。だが、出ていくのはためらわれる。

 何しろあの映像の男がいる。次期大統領が殺されてしまった中継シーンも、船内で皆で見ていたのだ。


 「マジか…、裕人のヤツ、あの男と関わりがあったのかな…。…! そーいえば…」


 蓮はふいに思い出す。彩葉先輩が『おじ様』と呼んでいた男も、あの映像の男に似ていたのでは、と。

 ただ、遠目に見ただけだったので、よく覚えていなかったのだが。


   ◇   ◇   ◇


 ―――この少し前。


 久吾とミスターが海を凍らせる努力をしている頃、飛空船の中では、皆が出来ることをしようと各々で考えを巡らせ相談し合っていたが、ふいに飛空船のスタッフに連絡が入った。


 「…!? た、大変だ! 例の男が…」


 避難中の船からの連絡で、《(ベート)》によって沈められた船があったことを知る。

 が、その後天使達の計らいにより、避難している者のうち何人かが連れ去られ、現在クジラの大群と共に移動していることも、追々と知らされていった。


 「…あの天使達、一体何を…」


 《(ヘー)》が訝しむ。蔵人は考え込みながら、


 「…宝来家の用意した船は大丈夫かな。…スミスさん、今、俺達の船はどの辺りを飛んでいるんですか?」


 慌ただしくしていたスミスだったが、蔵人に訊かれ、


 「あ、ああ、そろそろソロモン諸島を抜けると思うが…」


 スミスや飛空船のスタッフと共に、ファリダも計器を見て機械を操作している。どうやらハチと一緒にいた頃のことを少しずつ思い出したらしく、皆を手伝っているようだ。


 「…この船、多分由香里さん達も乗ってる。宝来家の船だ」


 ファリダがレーダー画像を見ながら言った。由香里は蓼科家の主人・賢介の妻で、羽亜人達と一緒にファリダの面倒を見ており、ファリダをとても可愛がってくれていたのだ。

 するとスタッフの一人が、別の画像を見て、


 「! マズイぞ! 例の男と天使達が、その船の方に向かってる!」


 蔵人達の他、日本人のグループがざわつく。

 裕人や彩葉の顔から血の気が引いた。


 「ま、待って! あの船には、美那子ちゃん達も…」


 「………! 蓮…」


 裕人は、ぎゅっ、と拳を握り、何かを決意したように、ノアの複製達の前に出て、


 「………あの、お願いがあるんです」


 皆がぎょっとする。裕人は、真剣な面持ちで、


 「あの船、僕の友達が乗ってるんです。…僕、蓮を死なせたくない。…それに、僕、ここに来てからずっと思ってることがあるんです」


 「…裕人………」


 章夫が心配そうに裕人を見る。裕人は、


 「久吾さんも、他の…、ノアの複製(コピー)っていうあなた達も、皆とっても良い人で………。…なのに、あの、ベート、って人だけ、悪い人だなんて、絶対おかしいと思うんです! 人間を嫌ってるんなら、きっと何か理由があるはずなんです!」


 「……………」


 複製達が神妙に裕人の意見を聞く。裕人はさらに、


 「僕、あの人に訊いてみたいんです。何でそんなに人間を嫌うのかって…。…その、確かに怖いし、人間だって、良い人も悪い人もいるから、嫌いになる気持ちもちょっとは分かるんだけど…、………でも、皆さん、すっごく長く生きてるじゃないですか! だったらきっと、僕なんかよりずっと、人間のこと知ってるはずで…、だから人間を嫌う理由、きっと…、もっと複雑で、想像もつかないような何かがあるのかな、って………」


 そう言うと、No.56が、


 「…訊いて答えてくれるか分からないぞ。いきなり殺される可能性もある」


 それを聞いて章夫が、


 「裕人、お前…、どれだけ無茶なことを言っているのか、分かってるのかい?」


 心配そうにしている章夫に、裕人は、


 「お父さん…、ごめん。でも僕………」


 すると、《(ヘー)》の元に精神感応(テレパシー)が送られてきた。


 「………! ミカエル!?」


 南極にいるはずのミカエルが、《(ヘー)》を伝い、


 ((………うん、裕人君、きっと君なら大丈夫。お願い、手伝って!))


 ―――《(ヘー)》はミカエルからの伝言を、裕人達に伝える。


 「…ミカエルからの言伝(ことづて)よ。《(ベート)》は恐らく彼…、裕人君に手は出さないって…。行けば分かるから、あなたの思うようにして欲しいそうよ。…No.56。今、この船の中であの距離を瞬間移動出来るのはあなたしかいないのだけれど、頼めるかしら?」


 聞いてNo.56が、ええ、と呻く。が、


 「…仕方ねぇな、ヤバくなったら逃げるかも知れないぞ」


 そうボヤくが、《(ヘー)》は、


 「大丈夫よ。あなた、意外と義理堅いもの」


 皆の前で微笑みながら、そう言った。


   ◇   ◇   ◇


 ―――そうして、現在(いま)に至っている。

 《(ヘー)》を経由して言付(ことづ)けたミカエルの真意は分からない。が、裕人は《(ベート)》を前に、ゴクリ、と息を呑む。


 「………あ、あの! ベート、さん…」


 《(ベート)》の顔が、僅かに歪む。

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― 新着の感想 ―
追いつきました!! 物語が裕人くんから始まった理由。ここへきて納得しました。いえ、まだこれからでしょうけど。 この状況でもまだベートを信じることができる裕人くん。 いい意味での「普通でなさ」を感じま…
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