23-7 善なる者達
5月中に終わりませんでした…orz
((―――アレフよ! これ以上は無理だ! 済まぬが、我は還るぞ!))
遥か彼方の海上にいたサンダーバードからの精神感応を受け、《1》は、
((む…、サンダーバードよ、感謝する。今残っている者達は…))
サンダーバードの気配が消えるのを感じながら、他の精霊達の気配を探す。すると一体のシグウェから、
((…オ、オレ達も、もうムリー! 一応さぁ、他のヤツらにも声かけたんだけどさぁ…、現実界の霊素なんて、ほぼほぼ無ぇじゃん! 残念だけど…))
それだけ伝え、そのシグウェからの通信も途絶えた。
「………」
《1》の曇った表情を見ながら、《2》がほくそ笑む。
「…諦めがついたか。では天使達よ。共に上空から、人間達の消失を眺めましょう」
《2》の身体が浮き上がる。
ガブリエル達もその背の翼を広げ、上空へと飛び上がった。
「あ………」
そう言って自分達を見上げるミカエルを、ガブリエル達が一瞥する。
そのまま《2》達は空高く消えていった。
◇ ◇ ◇
―――水が迫っているのか、地鳴りが響いている。
人間達は何処に逃げたのか、既に全員この場から消え去っていた。
今ここに残っているのは、《1》、《5》、ダス、久吾、そしてミカエルだ。
「…ミスター、精霊達は…」
久吾の問いかけに、《1》は、
「………もう皆、精霊界に還ってしまったよ。私の魔力では、これ以上彼等を現世に繋ぎ止めることは出来ぬ」
聞いて《5》が不安そうに、
「もう既に、陸地が沈み始めているわ。…《最後の番号》、あなたの能力でもどうにもならないの?」
「無茶を言わないで下さい。元々あった氷の大地を全て元に戻すなんて、いくら何でも桁違いの規模です」
久吾がそう言うと、ダスが、
「………くっ、…我々はこのまま、流されるしか無いのか…」
そう憤る。ダスを見ながら《1》が、
「…とにかく、我々も飛空船に戻ろう。こうなってしまっては、事の成り行きを見守るしかない」
…ふと、久吾の腕を小さな手が掴む。
「………ななさん」
ミカエルだった。
久吾はミカエルの肩を軽く支えながら、
「私達も飛空船に戻りましょう。助けられる方達だけでも守らなければ…」
そう言って、皆で飛空船に戻っていった。
◇ ◇ ◇
「あ! 戻ってきた!」
5人が飛空船に戻ると、裕人が最初に気付いて叫んだ。
船内にいた人間達が、わらわらと走り寄ってくる。
「…や、やっぱり、洪水は…」
「もう水が…、世界中が…」
誰とも知らず、そう呟く声がする。人間達の後ろからスミスが寄ってきて、
「ミスター、この船も空へ。この船以外にも、プライベートジェット機などで上空へと避難出来る人間達もいるようです」
《1》が頷く。
飛空船内も、人間の数が増えていた。久吾が女神との謁見から戻った際、船内の人間達の親族などを、久吾が千里眼と瞬間移動を駆使して船に避難させていた。
今は彩葉の両親や祖母・光栄も、共に飛空船に避難している。
《1》は皆に向かい、
「…済まなかった。我々では《2》…、彼を説得出来なかった。それどころか天使達も、ミカエルを除く3人が《2》に賛同してしまった」
そう聞いて、全員が息を呑む。
ふと、ギルと共にいた子供達の一人が、
「………じゃあ、今、ここや空にいない人達は、みんな死んじゃうの?」
《1》は憤りながら、
「………済まない」
―――船内が、シン…、と静まり返る。
…そのうち、泣き出す者が数人現れ、微かな嗚咽があちこちから聞こえてきた。
子供の一人・ティムが泣きながら、
「…あ、あのさ、ボクを捨てようとした、ボクのママ…、いっつも呑んだくれてて、ボクのこと、よく殴ってたんだ…、………けど、それでも、死んで欲しい、なんて、思ったことないんだよ。…ボクが、ギルんとこに行ったら、ママ…、ちょっと安心したみたいで、いつか、一緒に住もうね、って…」
すると、他の子供達も、
「ティム…。うん、私も…。ママ………」
そう言って、子供達皆が泣いている。妻と娘を避難させてもらい、家族でその場にいた石塚が、
「災害…、って言っていいのか分からないけどな、あなた達でもどうにもならないことを、俺等がどうこう出来る訳もないさ。それより…」
月岡も頷きながら、
「ああ。俺達が考えなきゃいけないのは、その後の復興のことだ。万が一生き残った人がいれば、絶対に助けたい。水はどれくらいで引いていくんだろうな」
人間達は皆考える。この場にいる安心感もあるのかも知れないが、絶望して悪態をつく者は、船内に一人もいなかった。皆で様々な復興策を練り出し、各々話し合いを始めている。
《1》と久吾は、そんな人間達を見ながら頷きあい、《1》が、
「…そうだな。我々がそれぞれ、出来ることをしなくては。では久吾」
久吾は頷き、
「ええ、私は南極を、ミスターは北極をお願いします。…どれだけ出来るか分かりませんが、海水を出来るだけ凍らせていきましょう。それから《5》さんは船に残って頂き、救護者の治癒をお願いします」
《5》も頷く。人間達の驚きをよそに、久吾と《1》はそれぞれ南極と北極に向かう。
ミカエルは久吾について行く。《1》達は各々瞬間移動していった。