23-6 崇敬
「…《最後の番号》、ようやく現れたか」
久吾はミスター…、《1》の隣に身を置き、
「《2》さん…、…ミスター、どうするんです? 彼を倒しますか?」
すると《1》は、
「いや、まずは洪水の勢いを抑えるよう、精霊達に協力を頼んだ」
そして《2》に向かい、
「…《2》! 洪水は誰にも止められぬ、と言ったな! 誠か!?」
「嘘などつくものか! 発動した時点で、私でも止められぬ! やっと…、やっと、あの薄汚いもやを纏った人間共を一掃出来るのだ!」
「!」
《2》の言葉に、久吾が反応した。
「まさか…」
「どうした、久吾」
《1》の問いに、久吾は少し考えて、
「………ミスター、精霊達と行動を共に出来ますか? ここは私が…。少し《2》さんと話したいことがあります」
「良いのかね?」
久吾が頷く。ミスターが移動しようとすると、
「行かせると思うか!」
《2》の攻撃が《1》を襲う。
だが、それは久吾が遮る。…と、その瞬間、《2》の姿が消えた。
「む! 《2》…、何処へ…」
すると久吾が下を見る。
「いけない! 天使達が…!」
「!?」
ミスターも驚き、急いで下に移動する。
◇ ◇ ◇
「《2》…」
突然目の前に現れた《2》を、《5》が警戒しながら、天使達を守るように対峙する。
「………」
何かしらの攻撃をされるのでは、と身構えていた《5》だったが、突然、《2》が跪き、頭を垂れる。
「「!?」」
全員が驚いていると、《2》は静かに、
「…天使達よ、今、穢れた人間達を洗い流します。さすれば、その後のこの地球の行く末は、あなた方の思うままに…」
え!? と天使達が驚く。《5》も、《2》と天使達を見ながら、どうしたら良いかと思っていると、久吾達が降りてきた。
上空にて臨戦態勢を取っていた先程までと、打って変わったその様子を見て、《1》が驚きながら、
「一体、どういうことだ?」
すると《2》が顔を上げ、
「…あなた方は、人間を見てきたはずだ! ならば、いかに奴等が汚れているか、お解りだろう! ほんの一時、良き者であったとしても、きっかけがあればすぐに汚れていく! それが人間だ!」
その言葉を聞いてミカエルが、
「そ、そんな…、こと………」
少し動揺しているようだったが、ミカエルの反応と対極にあったのは、ガブリエルだった。
《2》の言葉を黙って聞きながら、静穏な面持ちで何かを考えている。
―――ふいに、ガブリエルが、
「………そうね。私もそう思う」
そう言って、《2》の元に近づいていく。
「! …ふ、ふーちゃん!」
ミカエルが叫ぶ。ガブリエルは僅かに振り返り、ミカエルを一瞥すると、
「…みー君、私、前に言ったよね? 『人間が気持ち悪い』って…。…やっぱり私、思うのよ。人間の数が増えすぎてるんだ、って…。こんなにいなくても良いと思わない?」
そう聞いて、ミカエルが驚いていると、今度はラファエルが、
「…そうだな、確かに人間の数は多すぎる。…大体ヤツら、生きてもせいぜい百年がいいトコだろう? どうせみんなすぐ死んじゃうんだ」
するとウリエルも続いて、
「…そうね、今死んじゃうのも、後で死んじゃうのも、一緒かも。少しだけ残しておけば、問題ないんじゃない?」
そう言って、3人は《2》の元へと近づいていく。
動揺しているミカエルが思わず、
「…ま、待ってよ! 何でそんなコト言うのさ! だって、みんな、人間達が作り出した物、あんなに喜んで…!」
聞いてガブリエルが振り返る。そして、
「だから、全部流すなんて言ってないじゃない? 今、飛空船の中に『良い人』達が残ってるでしょ? それにノアの分身達が、大切に想っている人達に一生懸命声をかけてる。そういう人達だけで、充分だと思うけど?」
…そうして3人が《2》の側に寄っていく。ミカエルは一人、どうしていいか決めあぐねている。
様子を見ていたミスターが、
「…ラファエル、ウリエル。本当に、それで良いのかね?」
呼ばれて、ラファエルとウリエルが振り返る。少し困惑しながら、
「ミスター…、だって…」
すると《2》が、ミスター…、《1》に向かい、
「分かったか、《1》。私がしていることは、天使達の理解も得られるのだ。人間などいない方が良い。事が済んだ暁には、貴様も、《最後の番号》も、私が吸収する。貴様らの代わりに、私が永久に天使達に仕えるのだ」
それを聞いて天使達が、え!? と驚き、
「ま、待てよ! 君がミスター達を吸収するなんて…」
ラファエルが慌ててそう言うが、《2》は優しく、
「大丈夫、分身体が一つの身体に纏まるだけです。私はあなた方の言う、ミスターであり、ななさんになるのですよ」
そう聞いて、3人が安心しかけた時、ミカエルが、
「………違う!」
必死の叫びをあげる。
3人は驚き、ミカエルを見る。ミカエルは身体を震わせながら、
「違う…、違うよ! ななさんも、ミスターも、《2》…、あなたも、もうただのノアの分身なんかじゃない! 一つになんて、まとまるわけないよ!」
―――海水が、段々と膨れ上がってきた。
精霊達にも、限界が迫っていた。